人生負け組のスローライフ

雪那 由多

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手を伸ばしても掴みとれないのなら足を運んで奪いに行けば良い 6

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 本日のパーティは朝の十一時からスタートになっている。
 だけど皆さんここに通い慣れた時間、朝の八時には集まってくれていた。
 サマータイムって何だっけ?
 一時間早くなるんだっけと体内時計で過ごしているのであまり実感はないが、2021年を最後に廃止されるからまあいいかと思って来た物のとにかくこの季節のフランスの日照時間は長い。朝は七時前に陽が昇るが夜が二十一時過ぎだ。日照時間十四時間以上、これでもまだよくなったぐらいだ。八月の初めごろは二十二時ごろに日没となり、その頃フランスよりもっと北側に居た。当然緯度も高くなり、これも体験だよとカールにいろいろ連れまわせれた事を思い出した。
 あの時も大変だったなと時差と言う体内時計が狂ったピークに対抗するには体内時計を狂いっぱなしにして暗くなったら寝ておけば朝になったら目が覚めて合わせればいいと言う謎持論に確かに間違いじゃないだろうけどねと朝日の重要性には理解できるが、いざそれを実践しようとなるとかなり眠い。まぁ、だから疲れたら寝て、って言うのをちょこちょこ移動時間に入れて合わせて行くのだろう。時差のあるヨーロッパでいろんな国を渡り歩いているカールが四十年かけて学んだ体内時計の調節方法はまだ二十三年程度の歴史しかない俺には無理なようだった。
 ちなみに先生は
「時差?そんなもん元々三時間程度しか寝れない俺には大した問題じゃないだろ」
 睡眠障害をあっさり暴露してくれた挙句に逆に有効活用する逞しさを少しだけ羨ましく思うのだった。
 サマータイムなんて関係なく、そしてチェーンソーや大きなハサミを持ち、マスクとヘルメットを装備の皆様は首にタオルを巻いて
「ミーオ!どの枝を切ればいい!」
「ええと……
 マーク付けるのでマークの所から切り落としてください!」

 実桜さんはスマホの翻訳機能をフル活用して、カタカナのルビをそれっぽく言っては会話をする見事な会話を達成し、赤いラッカーを持って脚立を抱えてどんどんマーキングをしていた。
 うん、朝から通常業務だなと感心しながらここ数日姿を見ない浩太さん達を探していた。山川さんと圭斗も宮下も蒼さんも見なくなったな、後一部の職人さんも。あの例の漆喰職人の人達だ。まぁ、三人寄れば文殊の知恵と言う言葉がある様にこれだけの人数が集まったのだから何か企んでいるのだろうとそれぐらいは理解できる。
 無理難題言ってこっちに来てもらったのだからある程度目こぼしはしているが、経費に資材の購入費が追加されていてそれで想像が着くのにと皆さんの悪巧みを少しだけ可愛く思っている自分が居る。
 購入した物はすぐにスマホに連絡が来るようになっていて、この素材と山川さん、大体想像が着くと言う物だ。ただ実際は想像以上の物を越える、それをしてくれるのが山川さんの技術だ。
 鉄治さんの建築技術、長沢さんの芸術的な職人の腕、そして日本でも左官職人なら誰もが知る山川さんは、今の時代左官だけじゃ食ってけないからと仕事先で知り合った職人さんを手伝って腕を磨いた努力の人。
 森下さん曰く、
『この人一人いれば一つ一つはトップクラスにはもう一つ届かないけどすべて一人で出来るオールラウンダーですよ』
 もちろん俺達なんて相手になりませんよと言う大物。俺の中の印象は奥さんのケツの下に敷かれているオヤジさんって言うイメージからはずいぶんかけ離れた評価だった。まぁ、それを表に出さないからみなさんついて行くのだろうにくいオヤジだ。
「どのみち飯の時間になればやってくるか」
 朝食の時間の時に時間になったら来て下さいねー、とは連絡してあるし、圭斗もスマホでアラームのセットをしていたから遅れる事はないだろう。
 そんなこんなでパーティの設営がされてる端ではチェーンソーの音を響かせてガンガン枝が切り落とされてトラックに乗せて運ばれているのがある種微笑ましい景色だ。勿論城の裏ではその枝をガンガン薪割用に割っていると言う勤勉さには本当に感謝だ。
 この数日間の合間にしっかりとオリオールに握られた胃袋に忠実な人達だからこそオリオールの料理の為に薪を用意する事が食事への感謝の印だとその優しさをありがたく受け取る事にする。
 とりあえず俺はキッチンでは戦力外と言われて薪割の手伝いをさせてもらう事にする。
 山の上に引っ越して七年、この磨きに磨き上げた薪割スキルを見ろと年季の入った斧でスパンスパンと割っていく。
 大工チームの人達は当然近代科学の力を使ってチェーンソーで割っていく。
 ふふふ、知ってるか?
 斧使いを極めるとチェーンソーより早く薪割が出来る事を!
「ふはははははははは!!!」
「アヤトー!競争じゃないんだ!安全には気を付けろ!!!」
 あまりの俺の薪割が素晴らしすぎて、あまり太くない枝なら左右に吹っ飛ぶその生きのよさにアナログの素晴らしさをわざと見せつけるのだった。
 俺は斧を薪割の台に突き立てて
「まあ、太い奴は粗方終わったから許してやろう」
「ああ!凄いよ!認めてやるよ!
 アヤトの謎技術をバカにして悪かったよ!」
 最初手伝うと言ったら俺の細腕で何の役に立つと笑う皆様。大工仕事を一切手伝う事が無かったので明らかにインテリの人だと思っていたらしく。直径四十センチぐらいの切株を一振りで真っ二つにしてみせた時には皆さん作業の手を止めて魅入ってくれていた。





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