人生負け組のスローライフ

雪那 由多

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俺達山の留守番隊 1

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 世の中夏休みを迎えた高校生達は誰もいない庭を闊歩する烏骨鶏を眺めながら中に入る事の出来ない家の軒先でその姿を眺めてた……訳ではない。
 そこは綾人が今まで仕込んだ奴隷根性。しっかりと畑の水撒きと草取り、収穫時期を迎えた野菜を採ったり、周辺の雑草を刈ったりと汗水たらして働かされていた。
「圭ちゃん、ちょっと溝さらい行ってきます」
「園田、圭ちゃん言うな」
「じゃあ俺はその前に道路沿いの雑草刈って来るんで圭ちゃんあとよろしく~」
「山田、圭ちゃん言うな」
「圭ちゃん、それよりそろそろお昼の準備してくるね」
「おばさんから蕎麦を貰ったからそれにしよう。トウモロコシも茹でてトマトのサラダとキュウリの一夜漬けあっただろ。それも出してやれ」
「うん」
「じゃあ俺も手伝うよ」
「葉山サンキュー」
「圭ちゃん陸だけ優しくないっすか?」
「川上、圭ちゃん言うな。むしろ陸から言ってもらえなくなったら寝込む」
「知ってたけどまさかのブラコン重症すぎでしょ……」
「下田覚えておけ、これが父性だ」
 きりっと言い切る圭斗は本日陸斗とゆかいな仲間達を引き連れて綾人の家のメンテナンスをしに来ていた。主に庭の。
「それにしても暑いな」
 ふう、と零す息には熱がこもっていて、少し休もうと沢の水で顔を洗う。冷たすぎて一気に体が冷えてふるりと震えてしまう。この山の怖い所だと圭斗はタオルで顔を拭いて陽向で身体を温めれば
「下界に比べればましっすよ」
「それにこれでバイト代貰えるのなら綾っちの留守の間ぐらいウコ達と草刈り位やりますし」
 川上と下田も一緒に沢の水で顔所か頭まで濡らしてさっぱりとした顔をしていた。
「でも綾っちフランスでちゃんと生活で来てるかな?」
「あの人金の力でゴリ押しなところあるしね」
 たとえばこの今、俺達はバイト代と称して留守を預かっている。
 母屋は空気を入れ替えるぐらいの必要以上入る事はないが、離れを俺達は拠点として活動している。
「まぁ、綾人の考える事なんて高校からずっと理解できないから今更だし、一応飯田さんも付いてるからバカな事はしないだろうし」
「神飯田は料理に関しては尊敬できるけどそれ以外はせんせー並みにポンコツだしー」
「ワンコだしー」
「川上、下田、後で飯田さんにそう伝えておくな」
「「ごめんなさい!!!」」
 腰を直角に曲げての深い謝罪。綺麗に揃い過ぎてると逆に謝られてる気にならないのは俺だけだろうか。
「とりあえずそれはいいから。刈った草を集めて捨ててこい。
 そんでもって長谷川さん達に声をかけてくれ。トウモロコシ茹でるからお昼にしようって」
 その指示に
「下田、悪いがゴミ頼むわ。俺長谷川さん達に声をかけてくる」
「りょ!」
「足元悪いから滑らないように気を付けろよ」
 言いながら俺は庭先に集められた草刈り機の刃を変えたりチェンソーのチェーンを閉めたりとメンテナンスをする。
 替え刃は綾人が大量購入した物とチェンジをするだけだが、綾人のじいさんがその葉を研ぎ直す機械を購入してくれているのだ。へー、こんなものがあるのかと驚く半面綾人が使っている所は見た事もない。どうせあいつの言う事だから時間と労力の無駄と言うのだろう。
 無駄遣いと思うかもしれないが、限られた時間の中では交換が一番。そして機械が壊れればすぐに新しい物へと交換。
 全くの無駄遣いだ!
 だけど綾人は鬼だから決して無駄にしない。そう、大和さんと翔太の宮下ブラザーズに修理を頼むと言う暴挙をお願いし続けていたと言う…… 悪魔だった。
「まぁ、修理したら使っても良いって事になってるから構わないけどね」
「あ、これ最新の草刈り機だ。前のと使い心地どうかなー」
 宮下兄弟が綾人の行動に疑問を持つ事をせずに前向きな発言をする辺りもう諦めているのだろう。不憫……
 俺としては大和さんにこの石に当って刃こぼれした物やついでにと言って木々を切った暴挙と言うか危ない事の限界を理解して切りまくった雑木の枝による潰れた刃を綺麗にしてくれなんてとても言えない。
 ちまちまと手入れする方を選ぶように縁側で砥いでいれば
「圭斗、お前マメだなぁ」
「あ、与市さんお疲れ様です」
 手を止めて挨拶をすれば与市さんは後なりにドカッと座り
「吉野のならそんな事しなくて済むように替え刃を用意してるだろう」
 仕上げた刃を見て器用だなぁと褒め称えくれたが
「用意はしてくれたけど、貧乏性な物で」
 篠田と言う鬼の住む家を知る長谷川さんは困ったかのように短い髪をかきながら
「それよりも仕事はどうだ?」
 この狭い山間の町、そして年寄が大半を占める土地で圭斗の仕事はほとんど便利屋だ。色々な人に声をかけてもらって仕事を分けてもらい、たまの依頼は町の便利屋として電球の交換からコーヒーの瓶の蓋開けとバラエティに富んでいる。一瞬断ろうかと思うも陸斗を学校に通わせるためにはどんな仕事でもすると決めているので迷走していると言われてもだから何だと言うしかないのが圭斗の現状だ。
 町の便利屋としての仕事を思い出している合間にいつの間にか俯いてしまった俺に与市さんは肩をポンとたたいて
「折角だから柵の張り方を覚えて行け。吉野のここに遊びに来た時知っていればメンテナンスも出来る。たかが柵、されど柵。細かなメンテナンスが獣の侵入を防げて安全が高くなる。覚えて損はない」
 春から頼まれたのに雨と霧の多いこの辺りでは中々に仕事が進まず、やっと西側の倒木を除去して柵の設置へとなったのだ。長かったなぁと思うもまだまだ資材の搬入をしている所。
「午後は草刈りを休ませてあいつらには勉強の時間に当てさせればいい。その間、お前は俺達の仕事を覚える。悪い話じゃないし、まだ夏休みは始まったばかりだ」
「まぁ……」
 一瞬断ってあいつらが勉強をさぼらないように見るべきかと思うも、山のように綾人が用意した宿題は昨日も何故かうちに泊まり込んでの勉強会で……
 俺が助言できることはなに一つもないのを悟れば
「じゃあ、お願いします」
「おう!なんでも若いうちの方が要領よく覚えれるからな!」
 パシパシと肩を叩かれれば離れから陸斗の元気が響く。

「ご飯出来ましたー!」

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