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美しき女剣士と呪われし運命の男 参

消えかけた光

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ある村の花畑で、二人の少女がはしゃいでいる。少女達は姉妹であり、姉が手作りの花冠を妹に与える。そして妹も手作りの花冠を姉に与える。蝶が舞い、晴れ渡る空の下、姉妹は幸せそうな笑顔を浮かべていた。

修道女が迎えに来る。花冠を被った姉妹は修道女に連れられ、修道院に向かっていく。そして姉はそっと妹の手を握る。


わたしたちは、ずっといっしょだよ――


それは、最も幸せだった頃の日々であった。あの頃の幸せがずっと続いていれば……そんな事ばかり思っていた。


「……サ……ラ……」
夢から覚めたリフが譫言のように呟き、目を開ける。不死皇帝として蘇ったゼファルドとの戦いで瀕死の重傷を負い、ネルの次元転送魔法エクスパルーションで海に投げ出されてから数日間漂流し、ラアカス大陸に流れ着いたところをアザラン族によって助けられていた。頭や身体の至る所に包帯が巻かれ、最低限の応急手当は施されているものの、アバラが数本折られ、利き腕と左足の骨も折れていて激しい痛みが全身を駈け巡り、自由に身体を動かす事も出来ない。うっすらとした視界に映るものは、洞窟の中に設けられた部屋の中といった風景である。リフが寝かされているベッドの傍らには、聖剣ルミナリオが立てられている。
「……私……誰かに助けられたの……? あれから……一体……」
状況を把握しようとするリフ。同時に自分を助けようとしていたネルの姿が頭を過る。ネルの力で辛うじて窮地から逃れ、助かったのは自分だけ。きっとネルはあれからゼファルドに挑んで犠牲になったのだろう。同行していたゾルアもどうなったのか解らない。そして自分はこの有様だ。伝説の勇者の武器とされている聖剣ルミナリオを手に入れても、ろくに使う暇も与えられずズタボロに叩きのめされてしまった。そんな現実に打ちのめされた気分で一杯であった。部屋に誰かがやって来る。現れたのは、アザラン族の男であった。
「お、目が覚めたのかい? ニンゲンの姉ちゃん」
アザラン族の男が声を掛けると、リフは横たわったまま男の方に顔を向ける。
「あんた、随分酷い怪我して流れ着いて来たんだぜ。このまま死んじまうのかと思ったよ」
男が言うと、リフは無言でぼんやりと見つめるだけだった。
「何があったのか知らねえが、当分の間安静が必要なのは間違いないぜ。医者がそう言ってたよ」
リフは自身の負傷具合を見てすぐに治るような状態ではないと悟り、気分が落ち込む。
「……ここは一体何処なの? あなたは……」
「俺達アザラン族が住むラアカス大陸って場所さ。あんたのようなニンゲンが来るなんて珍しいもんだよ。あんただけじゃなく、こんな大層な剣までも一緒に流れてきたんだが」
思わずリフはベッドの傍らに置かれたルミナリオを見つめると、別のアザラン族がやって来る。
「おぉドクター。気が付いたようだぜ」
「そうか」
やって来たのはアザラン族の医師だった。
「……あなた達が私を助けてくれたの? 私は……ぐっ!」
激痛がリフを襲う。
「無理に動いてはダメだ。アバラや右手、左足が折れているんだからな。最低でも完治まで数ヶ月くらいはかかるな」
実際身体をうまく動かす事すら出来ない状況のリフは医師の言葉に従う他なかった。
「それにしても、君のようなニンゲンを看護するなんて数十年ぶりだよ。船の事故に遭遇したのかね?」
医師が問うものの、リフはどう説明していいか解らず答えられなかった。
「何だ。とても言えない事情か? まあ、それなら無理して聞かないでおくよ」
医師はリフの元にそっと水を差し出す。
「身動きが出来ない間、食事の世話は我々に任せておいてくれ。メニューはちゃんとニンゲンのクチに合うモノだから心配はいらん」
男はリフに水を飲ませようとする。
「あ、ありがとう……うくっ……」
リフは辛うじて動く左腕で水の入った杯を取り、水を口に運ぶ。
「タテゴ。彼女の事は任せたぞ」
「ああ、解った」
タテゴと呼ばれた男にそう言い残し、医師は去っていく。
「俺の名はタテゴ。姉ちゃん、あんたの名前は?」
「……リフよ」
「リフね。覚えやすい名前で助かるぜ。食事の準備してくるから待っててくれ」
タテゴが食事の準備で去っていくと、リフは傍らに立てられたルミナリオを見つめる。光が感じられないルミナリオを見ているうちに、リフは無力感に襲われていた。
「……ルミナリオを手にしても……私は無力だった……例え勇者の武器を手にしても……私にはサラを救えないというの……」
サラを助ける力となる聖剣ルミナリオを手に入れたというのに、心強い味方を失い、当分戦えない無様な姿になった自分が余りにも情けない。悔しさと情けなさの余り、リフは止まらない涙を溢れさせる。



そう……私は、無力だった。


タテゴが焼き魚を持って再びリフの元にやって来ると、リフは嗚咽を漏らしていた。
「お、おい……どうしたんだよ? 何泣いてるんだ?」
何があったんだとタテゴが声を掛けるものの、リフはただ泣くばかり。タテゴはどうしていいかわからず、黙って見守るしかなかった。


ラアカス大陸の全体を占める、全てが氷で覆われた氷壁の大地。人や他の種族が立ち入る事自体滅多になく、氷点下百度以上の気温でも生活可能なアザラン族しか住んでいない。そして大陸内に住むアザラン族の数は絶滅の危機に瀕しており、今ではごく僅かしか存在していなかった。大陸には集落があり、流れ着いたリフは集落にある氷の家の地下に運び込まれていたのだ。集落の中心部には、族長のゴマッフが住む氷の砦が建てられている。
「どうだ、海の状況は」
「……ダメです。以前よりも更に減少しています」
アザラン族の食糧である海の魚やイカが数ヶ月前からどんどん減少していき、食糧難の問題に陥っているのだ。
「うぬぬ……我々は自然の定めのままに滅びるというのか」
成す術のない問題に直面したゴマッフは途方に暮れるばかり。ゴマッフの元には、仄かな光を放つ鍵のようなものが飾られていた。


氷点下の気候で支配されたラアカス大陸は、白夜となっていた。静かに吹く冷気の風。
「くそ……今日も少ない。一体何故ここまで減少したんだ」
「どうにも悪い予感がする。近々よくない事が起きるような……そんな気がする」
流氷の中、魚を求めるアザラン族の中には不吉な気配を感じている者がいた。



北東の大陸ノスイストルに存在する巨大な神殿――それは太陽の神殿と呼ばれる古代の遺跡であり、古代文明が栄えていた時代にて神を崇める民が光溢れる世界を創りし神を祀る為に建てたという伝説が存在する場所であった。古代文字と様々な象形文字が刻まれた神殿の奥には、バキラとクロトが潜入している。タロスに命じられ、神殿に封印された秘宝を手に入れるのが目的であった。その秘宝とは、タロスが新世界の創造主となる為に必要となる古の産物だ。秘宝を守るガーディアンは、絶え間なく次々と二人に襲い掛かる。
「消えろ」
闇のオーラを纏った邪剣ネクロデストによる一閃を繰り出すクロト。叩き斬られていくガーディアン達だが、新手のガーディアンが数体現れる。
「やれやれ。流石にめんどくさいね」
バキラが宝玉を出すと、人間の兵士達が現れる。傀儡の呪術で操り人形にされたマカフィロの兵士であった。バキラが指を鳴らすと、銃火器で一斉にガーディアンを攻撃する兵士達。だがガーディアンに兵士達の攻撃は通用せず、返り討ちにされてしまう。
「ふん、やっぱり人間は使い物にならないか」
捨て石感覚でバキラが言い放つ。新手のガーディアンはクロトに一掃され、更に奥へ進む二人。辿り着いた先は、突き当りに巨大な扉が立ち塞がる大広間。青い炎が灯された幾つもの燭台。あからさま神殿に眠る秘宝が封印されている事を物語っていた。


忌まわしき魔の者どもよ……我が光の剣で滅ぼしてくれる――


響き渡る声と共に現れたのは、大剣を構え、光り輝く鎧を身に纏った大柄の戦士だった。秘宝の封印を守るガーディアンである。
「我が名はソーリアン……魔の者どもよ、滅びよ」
ソーリアンと名乗るガーディアンは大剣を手に斬りかかる。応戦するクロトはソーリアンと激しく剣を交え、両者の攻防はほぼ互角であった。
「……やるな」
相手は強敵だと悟り、闇の力を全開にするクロト。ソーリアンはそれに対抗するかのように、全身から光の衝撃波を放つ。クロトの全身を纏っていた闇のオーラが光によって浄化されるかのように消えていく。
「何だと……?」
クロトが驚いた刹那、ソーリアンの剣の一撃がクロトを捉える。
「グボッ……」
深々と切り裂かれたクロトは黒い血を吐き出し、後方に飛び退いて距離を取る。
「……光……嫌な感じだ。気に入らない」
バキラは不快感を露にし、鋭い目つきで表情を歪める。
「ウオオオオオオオッ!」
再び闇の力を全開にさせ、怒り狂った猛獣の如くソーリアンに襲い掛かるクロト。凄まじい攻防が再び始まり、怒涛の斬撃がソーリアンを怯ませる。その隙を逃さなかったクロトはソーリアンに一閃を加え、鎧に傷を負わせる。傷口から血は出る事なく、光の粒子が漏れ始めていた。傷を負ったものの、ソーリアンは反撃に転じる。光の剣と邪剣の激突が続く中、バキラは忌々しげに宝玉から援軍を出そうとする。
「グオア!」
ソーリアンの強烈な一撃で吹っ飛ばされるクロト。
「滅びよ……魔の者よ」
ソーリアンが剣を構え、凄まじい速さでクロトを次々と斬りつける。
「ゴボァァッ!」
ズタズタに裂かれたクロトは血を撒き散らしながらも倒れる。
「ぐっ……」
悪鬼のような表情を浮かべるバキラ。クロトは立ち上がろうとするものの、とどめと言わんばかりにソーリアンが迫る。その時、クロトの前に空間を裂いて次元の穴が出現する。そして穴からはダグと巨大な人の形をした三つ目の黒い魔物が現れる。
「あれぇ。珍しく加勢に来たわけぇ? しかもナイトメアもご一緒か」
バキラが言うと、ダグは倒れたクロトの姿を見つめる。
「……タロス様の命令だ。貴様らは下がれ」
タグが手元に巨大な槍を出現させると、ナイトメアと呼ばれた魔物は口から黒い瘴気を吐き出す。瘴気は、ヘルメノンであった。ダグは両手で槍を翳すと、ヘルメノンが槍に吸い込まれていく。ソーリアンは標的を変えてダグに斬りかかった瞬間、ダグは即座に槍をソーリアンの胸目掛けて突き付ける。
「ご、アハァッ……ガアアアアアアッ!」
槍に貫かれたソーリアンが膝を付いて絶叫する。鎧の中にヘルメノンが流し込まれている様子だった。更にダグは両手に魔力を集中させると、ソーリアンの身体が凍結していく。氷の甲冑と化したソーリアンにダグが一撃を叩き込むと、敢えなく粉々に砕け散った。巨大な槍はダグの手元に戻る。
「ハハ、流石だね……」
半ば驚きつつも、拍手を送るバキラ。
「この先にあるのか」
ダグが巨大な扉を指して呟くように言う。
「お前だったらこんな扉、軽く壊せるよね? さっさとやっちゃってよ」
急かすようにバキラが言うと、ダグの両手が雷のオーラに覆われ始める。静かに扉の前に立つと、ダグは扉に向けて拳を叩き込んでいく。扉は罅が入り、割れ目から光が漏れると同時に吹き飛ばされた。



その頃、暗黒魔城では――


「お目覚めかね? 美しき歌姫よ」
リヴィエラが目を覚ますと、そこは牢の中だった。そしてリヴィエラの前にはタロスがいる。タロスはリヴィエラの姿をジッと見つめていた。
「あなたは一体……。私をどうするつもり?」
内心込み上がる恐怖を抑えつつも気丈に問うリヴィエラ。
「まずは初にお目に掛かる。私の名はタロス・ティルシェイド。新たな世界の創造主となる者だ。以後お見知りおきを」
タロスは紳士的な態度で自己紹介がてら挨拶をしつつも、言葉を続ける。
「このレディアダントは間もなく私の手によって新たな世界へと塗り替えられる。闇が支配する我が理想郷となりし世界の誕生を祝う歌姫の存在が欲しくなったものでね。そこで君を新たな世界の歌姫として選んだのだよ」
リヴィエラを攫った目的について一通り話しつつも距離を縮めていくタロス。一体何を言ってるのと口にしようとしても声に出せないリヴィエラは、恐怖感に支配される余りたじろぐばかり。
「君はこれから我々の歌姫として生きていくのだ。家族や故郷を捨ててな。我が手中に収まった以上、君に残された道はもう我々の元で生きる他にない。君は、我が世界の永劫を歌う者となるのだよ……」
タロスがそっと手を差し伸べると、リヴィエラはその手を払い除ける。
「フム……恐怖を感じつつも抗おうとするその気丈さ、実に気に入ったぞ。そんな君に免じて、一ついいものを見せてやろう」
タロスが手を翳すと、空中に紫色の球体が出現する。球体の中には、一人の人間が閉じ込められていた。
「あの男はとある王国の兵の一人だ。我がしもべが襲撃のついでに手に入れたものだがね」
球体の中の人間は、バキラによって捕えられたマカフィロ王国の兵士だった。
「ショータイムだ」
翳した手に魔力を込めると、球体の内部が黒い炎に覆われる。
「ぐっ、ぐああああああああああああああ! ぎゃあああああああああああああああああああああああああああッ!」
黒い炎に焼かれる兵士の悲痛な絶叫が響き渡り、思わず目を覆うリヴィエラ。
「クックックッ……あの男はそう易々と死ぬ事は出来まい」
兵士はネヴィアの冥府の力で不死の肉体を得ていたのだ。不死であるが故、黒い炎で焼かれるだけでは死ぬ事が出来ず、地獄のような苦痛に叫び声を轟かせながらもがき苦しむばかりだった。男が絶叫する中、球体は萎むように消えていく。
「あの男は魔の球体の中で永劫の苦しみを無限に味わう。名付けて、エターナル・ダムネイションだ」
目を覆い、恐怖に怯えるリヴィエラに再度近付くタロス。
「そう怯える事はあるまい。君は大切な歌姫だ。我々や新たな世界の為に歌い続ければいいのだよ」
タロスの指はリヴィエラの頬を軽く撫でる。
「私がその気になれば君の同族達も先程の男のようにもがき苦しませる事も容易い。だが、如何に屈させる為といえど、私から無暗に攻撃するような事は性に合わぬ。最も……私に牙を剝く事があらば別だがね」
タロスを前にしたリヴィエラの目からは光が失われていく。それは心の底から絶望している様子を物語っていた。
「これからは君の新たなる人生が始まる。生まれ変わった新たなる世界の為に、歌い続けるのだ――」
穏やかながらも冷血さが感じられる声で言うと、タロスは牢から去って行く。恐怖と絶望に苛まれたリヴィエラはまるで魂が抜けたかの如く、その場に座り込んでいた。

常闇の空間に戻ったタロスの元に、ファントムアイが飛んで来る。
「タロス様。たった今、バキラ様達が任務を成功させた模様です」
ファントムアイの現状報告にタロスは唇を上向きに歪める。
「良い知らせだ。実によくやってくれた」
タロスが指を鳴らすと、ネヴィアが杯に酒を注ぐ。雷鳴が鳴り響く中、玉座に腰掛けたタロスは酒の入った杯を口に運ぶ。
「ククク……我が理想郷の完成……ますます楽しみになってきたぞ」
酒を飲みつつも、タロスは自身の計画の終着点を想像していた。


一方――フロスタル大陸へ向かうグライン一行は、たまたま発見した小さな無人島で休憩していた。
「こりゃあうめえ。無人島の魔物って案外美味いもんだな」
クレバルは島に生息する食用の魔物の肉を満足そうに堪能していた。夜も更け、焚火を囲む中でひと時の休息を取る一行。
「フロスタル大陸まであとどれくらい掛かりそう?」
「ウーン、まだもうちょっとありそうネ。大陸に近付くにつれて寒くなるからネ……」
「俺は正直行きたくねぇけどな……」
フロスタル大陸は途轍もなく寒い場所だという考えが頭から離れないクレバルは、全く乗り気でない状態だった。
「全くグチグチと情けないわね。そんなに行きたくなければ島で留守番してもいいのよ?」
「それもそれで勘弁だぜ!」
「だったら頑張りなさいよ。あんたには準備運動が必要かもね」
「別にいいっての!」
リルモに喝を入れられるクレバル。遠い位置で、ガザニアは夜の闇に包まれた海の向こうをジッと見つめていた。
「どうかしたの、ガザニア?」
ガザニアの元にやって来たグラインが声を掛ける。
「……別に。ちょっと考え事しててね」
「考え事?」
「外の世界って思ったよりも色んなモノがあるのねって思っただけよ。今はろくでもないモノが多そうだけどね」
海の向こうを見つめたまま言葉を続けるガザニア。
「それにしても、あの裏切り者は今頃何処ほっつき歩いてるのかしらね」
裏切り者――ジギタの事であった。
「ジギタ……あいつはドレイアド族に復讐する目的でルエリアさんを……」
グラインは不意にルエリアの悲劇を思い出し、同時に怒りが湧く。もしジギタと再会し、敵として戦う事になればまたも自分の手で命を奪わなければならないのだろうか。ドレイアド族の間では同族の命を奪ってはいけない掟がある以上、ガザニアにはジギタの命を奪う事は出来ない。いや、命を奪うような事まではしてはいけない。可能な限り、命を奪うような事をしてはいけないんだ。
「奴の事なら心配無用よ」
グラインの心情を察したようにガザニアが言う。
「奴はわたくしが裁く。同族の汚点はわたくしが始末しないと気が済まないのよ」
「ガザニア……」
「いちいち気に病むんじゃないわよ」
ガザニアの一言に思わず黙り込んでしまうグライン。
「おい、何二人きりで話してんだよ?」
クレバルが割って入る。
「ああ、何でもないよ。別に大した話じゃないから」
「ふーん? もしかするとお前、ガザニアの事が気になってアプローチしたってわけか?」
「まさか。そういうわけじゃないよ」
クレバルのからかい半分の一言を全力で否定するグライン。
「随分とオツムの足りない発想に結びつくのね。わたくしは人間の坊やには興味ないの」
棘のある言葉でガザニアが反論する。
「わ、悪かったなオツムの足りねぇ奴でよ!」
さっさとその場から去るクレバルを見て何バカな事言ってんのよとリルモが言う。
「サ、ワタシもそろそろ寝るワ。アナタ達も早く寝なさいヨ」
ティムが寝る準備に入る。この日は無人島での野宿であった。
「はぁ……明日中に寒いとこへ行くんだよなぁ……」
翌日の事を考えつつも、クレバルは焚火の元で寝転がる。
「グライン。明日に備えてそろそろ寝た方がいいわよ」
「うん。でも、ちょっと精神を研ぎ澄ませるよ」
グラインは今後に備え、深呼吸をして心を落ち着かせる。空を見上げると、無数の星が瞬いている。だが星空を見ているうちに、何処かしら不吉なものを感じる気がした。


いずれ何かよくない事が起きるかもしれない。考えたくはないけど、そんな気がしてる。


グラインは込み上がる不安感を抑えようと呼吸を整え、再び精神を研ぎ澄ませた。

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