41 / 59
41 ドワーフ鉱山にお出かけ
しおりを挟むクロエがドワーフに会いたいと言うので、皆でドワーフ鉱山に行くことになった。俺はちょくちょく顔を出していたのだが、ジャンヌにとっては久しぶりの訪問になる。クロエはドワーフに会うのは初めてで、非常に興奮していた。
「いろいろな災難に見舞われましたが、それでもこちらに来れて幸せです。
ふはぁぁぁ、あの伝説のドワーフに会えるとはぁ。ありがたやぁ……」
クロエは喜びのあまり泣き始める。
「待て待て。泣くほどのもんじゃないから、落ち着け」
「ハヒィ! ずびばぜん……」
また涙と鼻水とよだれで顔がぐしゃぐしゃになるのだった。
ジャンヌがクロエの顔を拭ってやっている。
「あの連中の鍛冶の腕前は確かだぞ。
このロングソードなどはなかなかの業物だしな」
ジャンヌはロングソードを意味もなく抜いてニヤニヤする。
「私たちの農具や自転車の修理などもやってもらってお世話にはなってますが、
大酒のみで偏屈ですからね。崇拝するほどの人格ではありませんな」
ホビットのドワーフたちに対する評価は辛めだ。表面的な諍いはなくなったが、微妙な部分で価値観が違うせいか、まだ仲良しとは言えないようだ。
「荷物は全部載せたか? じゃぁ皆車に乗ってくれ」
ドワーフに頼まれている本や酒、ホビットの作った野菜や修理の必要な道具類、それからゴブリンやこないだの暗殺者からはぎ取った装備など、車の荷室は荷物で一杯だ。やはり、バンタイプの車はこういう時に便利だな。
助手席にジャンヌ、俺の後ろにクロエが乗った。
ホビットは基本的にはドワーフには会いたがらない。今回も留守番だ。
「じゃぁ、留守を頼む。まぁ車だからすぐだけどな」
「はい。いってらっしゃいませ、領主様」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「それにしてもブラドさん、この自動車という乗り物は凄いですね。
乗り心地も良いし、速いし、荷物もこんなに積めるし」
「異界震のおかげで今はこんな状況だが、以前の世界では必需品だったんだ。
この車の整備もドワーフがやったんだぜ。
燃料も連中が作ってるし、これが今動かせるのは連中のおかげだな」
「はへぇぇ」
クロエはテクノロジーに関しては非常に思い入れが強い。
彼女がドワーフを尊敬しているのも、多分その辺りにあると思う。
「しかしブラド、このようなものがあると、馬が用無しになってしまうな」
サファイア号のことを考えたのか、ジャンヌが少し悲しげな顔をする。
「確かに異界震以前の世界では、日常では馬をほとんど見なかった。
一部の娯楽や、行事で使われるくらいだったからな。
けど、今のところは道の整備がまだまだだから、馬もまだ有用だと思うぞ」
「そうか! そうだな」
俺としては道の整備も急ぎたいところではあるが……。
「さぁ、着いたぞ」
「ブラドは冗談が下手だ。そんなわけが……えぇ。
なにぃ!? 鉱山が近づいたのではないだろうな?」
いつもはリヤカーを引いて歩いていたから、一時間ほどかかっていた。今回は車だから、五分程度で到着したのだった。ジャンヌの驚く気持ちも分かる。
「うわぁ、スゴイですね! 自動車がこんなにも……」
「はぁぁぁぁ!? 何だこれは!」
二人が驚きの声を上げる。
ドワーフの鉱山前は、大規模な中古車展示場のようになっていたのだった。
俺が以前に来たときから、さらに自動車の数が増えていた。
「また増えたな……。
お~い! やってるか?」
ドワーフたちが中からどたどたと出てくる。
「おぅ、ご苦労さん。今日も荷物が満載じゃの。
この車があって正解じゃろうが」
まさか、そのためにこの車をくれたんだろうか。領主とはいったい……。
「酒と本と食料と、ホビットたちの注文と、それからくず鉄。
あと、この子は向こうから飛ばされて来た魔術師見習いだ。見学に連れてきた」
「クッ、クロエです。よろしくお願いいたします」
「ふん、そうか。わしはここの責任者のドルフじゃ。よろしくの。
魔術師とは珍しいのぉ。わしも会うのは初めてじゃ」
「私はまだ見習いです。まだまだ未熟者です」
「ガッハッハッ、まぁ、いくつになっても勉強じゃ。
自分はまだまだという気持ちは大事じゃの」
「彼女は魔術師なだけあって、技術的なことにも興味があるんだ。
いろいろと見せてやってくれるか」
「分かった、良いじゃろう」
「それにしても、また車が増えたな。あんなにどうするんだ?」
「特にどうするというわけではないんじゃが、
放置されている車を見つけると無性に直したくなるんじゃ」
「気持ちは分かるがな……」
クロエは、巨大な原油の蒸留装置を前に呆然としていた。
「これは、いったい……」
「それは、原油からいろいろと有用な油を抽出する装置じゃ。
ガスも出てくるが、ガスは風呂炊きに使っておる」
クロエはいつも持っている分厚いノート片手に、ドルフに様々な質問を投げかけ始めるのだった。やがて疲れ果てたドルフは、別なドワーフにクロエを託した。
「すまんの、わしは他にやることがあるのじゃ。あとはこいつに聞いてくれ」
「あっ、ありがとうございました、ドルフさん」
「それでブラド、他にも用があるんじゃろ?」
「あぁ、すまない。実はジャンヌにまた作ってやってもらいたいんだ」
こないだガーゴイル達に襲撃されたときに、空中のガーゴイルに剣が届かず苦戦したのだった。それにこりた彼女は遠距離用の武器を欲しがった。
「私としては弓が良いと思うのだ。
弩は威力はあるが携帯できないし、連射もできない。
備え付けの兵器としては良い物だが、急な対応には向かないしな」
「ふん、なるほどの」
「彼女は力が強いから、強弓が良いかなと思ってな。
それでちょっと調べたら、こんなのがあって」
俺は一枚のイラストを取り出してドルフに見せた。
ドルフの目がキラリと光った。
「これは、なかなか面白そうじゃの」
イラストにはコンパウンドボウが描かれていた。コンパウンドボウとは、滑車とワイヤーの力を利用した特殊な弓だ。普通の弓に比べると少々複雑な造りで、故障しやすいというデメリットはあるが、射程距離や命中精度はぐっと良くなる。
「資料も集めて持ってきているんだが、どうだろうか」
「わかった。引き受けよう」
「いつもすまないなぇ」
「なんのなんの、それは言わない約束じゃよ、ガッハッハッ」
「よぉし! これで不安はなくなった!」
新しい武器を約束してもらって、ジャンヌは拳を振り上げて喜ぶのだった。
その後、岩風呂を発見したジャンヌがいきなり入ろうとするのを羽交い締めにして止めたり、ドワーフを質問攻めにしているクロエを無理矢理引き剥がしたりして、なんとか帰還することに成功した。
今度からは、二人一緒に連れてくるのはやめようと思った。
0
お気に入りに追加
375
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-
半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる