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19 同居人が増えた

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 立ち話も何だということで、女騎士を連れて庁舎に戻ることにした。

「やっぱり他のところもこんな感じだったのか?」

「そうだ。延々と廃墟が続いていた。
 魔物には遭ったが、人はまったくいなかったな。
 それにしても、これらの建物はずいぶんと文明が進んでいるように思う。
 そこかしこにうち捨てられている乗り物のたぐいもそうだ。
 見たこともないものが、あちこちにある」

 ジャンヌは俺に合わせて、馬を降りて歩いてくれている。
 スラっと背が高くて、俺は少し見上げるような感じになる。

「違う世界だからな。文明の進み方も違うんだろう。
 ちなみに、こちらの世界で騎士がいたのは、もう何百年も昔のことだ」

「なるほど、そういうものか……」

「そろそろ、我が家が見えてきたぞ」

 ジャンヌが庁舎を見上げて言う。

「さすがに領主殿の住まいだけあって、立派なものだな」



 とりあえず一階ホールの応接コーナーに案内する。

「この椅子はなかなか見事だ。牛の革を貼ってあるようだが?」

 合皮だと思うが、説明が難しい。

「よくは知らんが、たぶんそうだろう。
 とりあえず、菓子でもつまんでいてくれ」

 疲れてそうだったので、チョコやクッキーなどの甘いものを皿に盛った。
 チョコやクッキーは非常用のものが結構多く備蓄されている。

「すまない。遠慮なくいただこう。
 むぐむぐむぐ……、おぉ! これは美味!
 このような贅沢なものは初めて食べる。むぐむぐむぐ……」

 チョコを食べたジャンヌが固まった。

「こっ! これは何という……」

「それはチョコレートだな」

「なんという濃厚な味わいだ! これはこちらで作っているのか?」

「異界震の前はありふれた菓子だったが。
 今となっては失われた技術になるのかもな」

「そんな貴重なものを?
 良いのか? 私などが食べてしまっても」

「いや、構わない。見つかる時は、結構大量に見つかるからな」

「……そうか、良く味わっていただこう」




「領主様、食事の用意が整いました」

 ホビットの一人が呼びに来た。

「おぉ、ありがとう。
 さぁ、ブイヨン卿、食事にしよう。
 今日はワイバーンのステーキだ」

「な!? ワイバーンだと?
 まさか! 領主殿、冗談がすぎるようだ」

 ジャンヌは苦笑している。

「いいえ、ブイヨン卿。
 先日領主様が倒したばかりのワイバーンに間違いありませんよ」

「ワイバーンを倒しただと!? 信じられん。
 あれは災害級の魔物だぞ! 街一つが滅ぶほどのな」

「まぁ、運が良かったのもあるが、嘘じゃないぞ。
 ドワーフが皮と骨を持って帰ったから証明が難しいが……。
 あ! そうそう、この服と靴はワイバーンの革だぞ。
 ドワーフが作ってくれたんだぜ」

 俺はジャケットを脱いでジャンヌに渡す。

「確かにこれは獣の革ではないが……、これが本当にそうなのか?
 それに、ドワーフだと?
 あの偏屈で付き合いの悪い妖精が、作ってくれた?」

 ジャンヌはまだ信じていない様子だ。

「まぁ、信じるかどうかはさておき、飯だ飯だ。
 好きなだけ食ってくれ」

「そうだな、失礼した。
 ありがたく頂くとしよう。
 むぐむぐむぐ……。む! これは美味!
 鳥でもなく獣でもない、あっさりしていて旨味がある!
 このソースも絶妙だな。この肉に良く合っている!
 むぐむぐむぐむぐむぐむぐ」

 よほど腹が減っていたのか、すごい勢いで肉が消えていく。

「よかったら酒もやってくれ」

 せっかくなんで、ちょっと良いウイスキーを出してやる。

「これはかたじけない。
 グビリ、む! ンゴゴゴゴ……。ぷはぁ。
 なんという芳醇な味わい……素晴らしい!」

 何はともあれ、ジャンヌは食事を思う存分堪能したようだった。


「それで、これからどうする?
 行く当てがないなら、ここに居てもらって構わないが」

「いいのか?
 私からするとありがたいのだが、何もお返しできそうにない」

「お返しかぁ。そうだな、たまに妖魔退治を手伝ってもらったり、
 ホビットたちの護衛をしてもらえれば、それで良いよ」

「わかった。それで良ければ、ここに置いてくれ、領主殿」

「じゃぁ頼む、ブイヨン卿」

「いや、ジャンヌで構わない」

「そうかジャンヌ、よろしくな」

「……領主殿の名前をまだ聞いてないのだが」

「あぁ、俺の名前は――」

 あれ? 俺の名前は何だっけ……。
 そういえば、俺って誰だ?
 家族は? 友達は? 恋人は?
 ……全く思い出せない。
 一回死んでよみがえった影響なのかな。
 まぁ、それも今さらか。俺を知る者はもういないんだ。

 少し考えて、有名な串刺し公の名前を借りることにした。

「俺の名前は、ブラド。ブラド・ドラキュラだ。
 俺もブラドで構わないよ」

「わかった。今後ともよろしく、ブラド」


「空き部屋は十分にあるから、好きな部屋を使ってくれ。
 分からないことはホビットたちに聞けばいいよ」

「すまない、ブラド。
 こんな快適なところで眠れるとは思わなかった」








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