不死身のバンパイアになった俺は、廃墟と化したこの世界で好きに生きようと思います

珈琲党

文字の大きさ
上 下
18 / 59

18 女騎士

しおりを挟む

 この厄介なエルフの名前はサラ・ラ・エルフィナ。
 一応女ということは分かっている。実年齢は知らないが、精神年齢はかなり低い。

「この犬は僕のだから、家に持って帰るよ」

 サラはポチに首輪をかけようとしていた。ポチはかなりデカいので、通常の犬用首輪などは入らない。専用に作らないといけないだろうが、サラはわざわざ合うものを用意してきたらしい。

「いやいやいや。
 まず、犬じゃない。魔狼だから。
 それからお前のじゃない。コイツは俺に仕えてるの!」

「いつから? 誰が決めたのかな?
 僕たちは神に選ばれし至高の民族、森の民。
 そもそも、この世界のものは全て僕たちのものなんだよ。
 君たちは皆、僕のしもべ。
 君の物は僕の物なのさ、分かるかい?」

 最近分かったことだが、サラの言葉には精神を支配する効果があるらしいのだ。
 魔狼たちや、ホビットたちも、いつの間にかサラの術中にはまり、操られている。俺は彼らに、サラの言うことは絶対に無視しろと強く命じてあるのだが、それでもダメなのだ。
 しかし、そんなサラの言葉も、バンパイアの俺には全く効果がないのだった。

「分かるかボケェ! もういいから帰れ」

「下僕の分際で、その言葉は失礼だと思わないかい?
 僕がいるって言ってるんだから、喜んで差し出すのが道理だろう?
 さぁ、そこに土下座しながら、参りましたご主人様と言いたまえ」

「帰れ」

「あっ! 分かった。君はバンパイアだったね。
 耳が腐っているから、僕の言葉がわからないんでしょ。
 もしかして頭の中も腐ってるのかい?」

 俺は努めて穏やかに、ゆっくりと言った。

「最後の警告だ。かえれ」

「じゃぁもう犬はいらないや。
 あのおチビさんたちを何匹か連れて帰ろう」

 俺は無言でボディブローを叩きこむ。

「うっ……」

 こちらに倒れ込んできたサラを、うつぶせのまま脇に抱えこみ、パンツごとズボンをずり下げて尻を丸出しにしてやる。

「きゃぁぁぁぁぁ! 変態ぃぃぃ!」

 わめくサラに構わず、音速の尻叩きをお見舞いしてやる。

「オラオラオラオラオラオラオラオラァ!」

 スパパパパパパパパパァァァァンと景気の良い衝撃音が部屋に鳴り響いた。
 サラは小便をもらしながら叫ぶ。

「ぎゃぁぁぁぁぁ!」

「フンッ!」

 伸びてしまったサラを小便まみれの床に放り出す。
 サラは床の上で無様なマングリ返しを披露していたが、やがて立ち上がって叫ぶ。

「このゴミムシ以下の糞野蛮人がぁ!」

「帰れ。それともまだ足りないのか?」

 サラは真っ赤に腫れ上がった尻を丸出しのまま、部屋から逃げ出して行った。
 ガラガラガッシャーンっと自転車置き場から音がする。

「領主様ぁ」

 困り顔のホビットの一人が駆け上がってきた。
 サラが自転車をパクって帰って行ったらしい。

「まぁ、いつものことか……」



 しばらく後のこと、一匹の魔狼がポチのもとにやって来た。
 領地の北面を警戒している群の一匹だ。警戒網に何かが引っかかったらしい。
 わざわざ伝えに来たということは、通常の妖魔ではない。

「仕方がない、ちょっと見に行くか」

 俺はドワーフ謹製の戦闘服に着替えて、ロングソードを背負う。
 身支度を整えた俺は、ポチ達を伴って現場へ走った。



 魔狼たちの輪の中には、馬に乗ったピカピカの鎧を着た騎士が一人、剣を片手にもち、ゼイゼイと肩で息をしていた。
 俺は魔狼たちを下がらせて、騎士に近づく。

「むこうの街で領主をしているものだが、お前は何者だ?」

 騎士は俺の落ち着き払った様子を見て、しばらくビックリしていたようだが、やがて馬を降り、ヘルメットを脱いでから名乗った。

「私はジャンヌ・ド・ブイヨン。ブランク王国の騎士だ。
 王都ガリアより伝令として、エルデの街に向かっている途中なのだ」

 金髪碧眼の凛とした顔立ち、透明感のある白い肌のなかなかの美少女だった。
 正直、あのサラなんかよりも、ずっとエルフのイメージに近い。

「ブイヨン卿、その王都ガリアはこの近くなんだろうか?」

「ここから馬で北に二日の距離だ。
 ときに、ここはどこなのだろう?
 峠道で妙な嵐にあい、それからどうやら迷ったらしいのだ」

 なるほど、彼女も異界震に巻き込まれたくちか。

「ここは、ニホン国の街の一つだ。
 いや、正確には街だったところだ」

「何!? ニホン国? 聞かぬ名だが……」


 俺は異界震のことや、この世界のことなど、知っていることを話した。

「……にわかには信じられん」

「でも、ここに来るまでに、いろいろ見てるだろ?」

 廃墟になっているとはいえ、彼女が全く知らない様式の家が建ち、大きなビルがそびえ、高速道路や鉄道もまだ形を残している。道端には自動車やバイクが放置されているし。彼女も内心は分かっていたんだと思う。

「つまり……。私は異界に迷い込んだということか?」








しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

処理中です...