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獣人の国グラナート
しおりを挟む「獣人族の国、ですか?」
「あぁちょっと、大事な話があるとかで呼ばれてな……」
ピクニック後、ジークお兄ちゃんはわたしへの接し方を見直してくれて、外部の目がないところでなら、手を繋いでくれるようになった。そして、以前ほどとまではいかないにしろ、話しかけてくれる頻度が増え、夕食も食べさせてくれるようになった。
しかし、相変わらず頭は撫でてくれないし、寝ている時もずっと背中を向けて、一定の距離を置かれている。
つまり夕食時はジークお兄ちゃんに甘やかしてもらえる貴重な時間なのだ。
そんな夕食が終わりお茶が運ばれてくる。とクシェル様が思い出したかのように唐突に口を開いた。
「あ、グラナート……獣人族の国に行くことになったんだが」
「獣人族の国、ですか?」
「あぁちょっと、大事な話があるとかで呼ばれてな……」
「出発は?」
この話はジークお兄ちゃんも聞かされてなかったようで、出発の日取りを尋ねている。
「明日の昼頃には出ようと思う」
「随分と急だな」
「何分急を要する案件らしくてな、まぁ大体の予想はつくが……」
何故かクシェル様にジッと見られる。そして、それに続くように「……だな」とジークお兄ちゃんもわたしを見る。
ーーえ?わたし?わたしに関する大事な話ってこと?獣人族の国と?
「で、コハクはどうするか?という話なんだが」
「わ、わたし⁈」
「明日出たとして帰って来れるのは早くても10日後になる。その間コハクをここに残すのも、な……しかし、あちらの目的は、いや、それ以前にコハクは獣人を見たことがないだろ?だから大丈夫だろうか、と」
心配してくれたんだ。わたしが元の世界に存在しない獣人に会って平気かと、怖がらないかとーー
「多分大丈夫だと思いますよ?確かに元の世界に実在はしていませんでしたけど、アニメや漫画で見たことあるので!むしろ会ってみたいです!」
まさか本物のケモ耳ケモ尻尾を見れる機会が来るなんて!正直、興味しかない!
「な、なん、だと……」
わたしが獣人を怖がらない事が凄く意外だったらしく目を見開き大げさに驚くクシェル様。
「それに、10日も二人と離れるなんて……嫌です」
絶対に無理だ、耐えられる自信が無い。考えただけで、泣けてくるーー
そのせいで、最後の言葉が微かに震える。
それに気づいてくれたクシェル様が「俺も嫌だー!」と言いながらぎゅーと抱きしめてくれた。
「そうだよな、一緒に居るって約束したもんな!離れないって約束したもんな!」
わたしのわがままを喜んで受け入れ、頬擦りしてくれるクシェル様。それが嬉しくてわたしも頬を擦り寄せた。
翌日、クシェル様の宣言通り昼食後には馬車に乗って、獣人族の国グラナート王国へと出発した。
ーーは良いのだが
「そ、そんな⁈」
外聞を気にして、ジークお兄ちゃんが再びわたしを遠ざけようとして来た。
いや、分かる。ジークお兄ちゃんが言ってることが正しいって、それが最善だと理解は出来る。
でも、行って帰って来るまでの10日間手を繋ぐ事はおろか、親しげに話しかけることも、一緒に食事を摂ることも出来ないなんてーーしかも、ジークお兄ちゃんは他の人たち同様わたしのことを名前ではなく苗字で呼び敬語を使う。
更にわたしもジークお兄ちゃんをお兄ちゃんと呼ぶことを禁止され、気軽に話しかけたり、触れたりしないように注意を受けた。
そんな他人行儀な対応したくないし、されたくない!
「分かってください、これがお二人のためなんです。もし俺との関係が変な風に誤解されて広まったら、魔王様だけでなくシイナ様も困るんですよ」
「困る……」
その言葉が胸にグサリと刺さる。ここでわたしが『そんなの嫌だ』と駄々をこね、わがままを突き通しても、ジークお兄ちゃんを困らせるだけで、誰も得をしない。
「わ、分かった……わがまま言ってごめんなさい、ジーク、様」
わたしは馬車に乗り込んですぐに受けたジークお兄ちゃんからの注意事項を泣く泣く受け入れた。
その後馬車の中は重い沈黙が続いた。
「そ、そんな……」
今回は先を急ぐとあって観光的な事はなく、走っては宿に泊まり走っては宿に泊まりを繰り返す予定なのだが、その宿も外聞を気にして、みんな別々の部屋をとった。
ジークお兄ちゃんとは他人として過ごさないといけない。それだけでも悲しいのに、まさかの一人寝!無理、寂しすぎて寝れる気がしない!
ーーでも、仕方ないんだ。まだ婚姻を結んでない男女が同じ部屋で寝るのはあまり印象がよろしくない。実際はそういうアレな事をしていなくても、世間はどう受け取り、どう噂か広まるかわかったものじゃない。だから、今は我慢するしかないのだ。
そう自分に言い聞かせるしかなかった。
「では眠るまでお話しでもしていましょうか」
「良いの?」
「勿論です」
寂しくて眠れないでいると、サアニャがホットミルクを持ってきてくれ、わたしが眠るまで話し相手になると言ってくれた。
「では、せっかくですから獣人の国、グラナート王国について少し勉強しましょうか」
それから夜は必ずわたしが寝付くまでサアニャが側で話をして寂しさを紛らわしてくれた。
そんなこんなで、三日かけて西の港に着く頃にはグラナート王国やその他の国ついて最低限の知識は身に付けられた。と思う!
獣人族の国グラナート王国は魔族の国ヴェルンシュタイン王国から西に位置し、その王は代々、百獣の王という二つ名でも有名なライオンの獣人が国を収めている。
ここでは金属が多く取れるためその加工品であるアクセサリー類や武器防具類が多く売られている。また、広い土地を利用した農業も盛んで珍しい食材もたくさんあって、料理が美味しいらしい!
そして、ここでは結婚のことを『番う』と言い、その証としてお揃いのバングルをつけるらしい。つまり結婚指輪イコールバングルというわけだ。
「ですので、あの国では例えお相手が魔王様であってもバングルは受け取らないようにしてください」
で、もう一つ注意するように言われたのは、ケモ耳ケモ尻尾のことについてだった。
なんと獣人特有の耳や尻尾に触れる事は愛情表現(しかもかなりガチめ)で、それを褒めるだけでも「あなたに気があります」と言っているのも同然のことらしい。つまり、魔族で言うところの『名前』みたいな扱いだ。
分かってた、そう簡単に触って良いものとは思っていなかったさーーでも、それを褒めるのもダメなんて!
「そ、そんなご無体な……」
ちなみにさらに西に位置する人族の国はジェット王国、ヴェルンシュタイン王国から東に位置する竜人族の国はディアマント王国という名前で、今は亡きヴァンパイア、吸血族の国の名前はアメティスト王国という名前だったらしい。
なんかどれも響きがカッコいい。何か由来とかあるのかな?
そして馬車を降りたらすぐに船に乗り変え、一日以上海の上で過ごし、やっと着いた獣人の国、グラナート!!
長かったここまで本当に長かった!ずーっと馬車に揺られ、かと思ったら次は船に揺られーー流石に疲れた。
なんて、長旅の疲れと、得も言わぬ達成感に浸っているとジークお兄ちゃんが急かすように馬車へ誘導してきた。
「シイナ様、お疲れだとは思いますが、次はあの馬車に乗ってもらえますか?」
「え?あ、はい」
ジークお兄ちゃんに誘導されるまま馬車まで向かっているとコソコソと何か話をする声があちこちから聞こえてきた。
これはまさかーー
馬車に乗り込む際恐る恐るチラリと後ろを振り返る。すると、案の定多くの目がわたしに向けられていた。
またあの目だ。どこへ行っても一緒、所詮わたしはーー
あぁ、ジークお兄ちゃんはわたしをこれから守るために馬車まで急がせたのか。わたしが傷付かないように……
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