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やっぱり、ヒートだったんだ
しおりを挟む「お待ち下さいシイナ様!魔王様の所には近かないようにと!」
サアニャが慌てて止める。
しかしわたしは止まる気は無い!
サアニャの言葉で確信した。やっぱりクシェル様に何かあったんだ!
クシェル様の部屋の前にはいかつい顔の騎士二人が守りを固めていた。
「そこを通して下さい!」
「ダメだ誰も通すなと言われている」
「クシェル様は無事なんですか?」
騎士の人と言い争っているとドアの向こうからジーク様の声がした。
「コハクをここに近づけないように言っただろ!」
「すみません止めることが出来ず!」
そして、ドアが開いてジーク様が現れる。
「ジーク様!やっぱり…クシェル様に何かあったんですね!」
やっぱりジーク様はクシェル様の所に居た。
中の様子はドアが少ししか開いてないため、見えない。
「あ、あー兎に角早くここからっ!」
ジーク様が言葉の途中で後ろを向く…不思議に思う間も無くドアが大きく開かれ、腕を掴まれる。その手はひどく冷たい。
「クシェル様?」
ジーク様から視線を横に外すとそこには甘く微笑むクシェル様が居た。
でもその目は赤く、吸血衝動が出ているのが分かった。
あ、わたしまだアレが終わってなかったんだった!!あれ?でも、わたしが来る前から、体調が優れなかったんだよね?
それにクシェル様の目はすでに深紅にまで染まりきっている…もしかしてーー
なんて思考をどこかへやっていると、気づいたらソファに寝かされていた。
そしてクシェル様に上から覆い被さられている⁈えーーーー!!
頰に触れるクシェル様の手が冷たい。
この前の吸血の時はこんなことなかった。
もしかしてこれが月一で来ると言うヒート?
「コハク」
クシェル様は愛おしい者でも求めるかのようにわたしを呼んだ。
心臓の音がバクバクと早くなる。
「ま、待って下さい!」
まだここにはルークさんも居るし、ドアも開いたまま!
それに、さっきまで散歩してたから汗掻いたし、汚い!アレもまだ終わりきってないから血の匂いが!ってヒートだから血の匂いはもういいのか?いや、それにしても汚い!風呂入りたい!だって血を飲むって事は首を舐めるんだよ!
「さ、先にお風呂に!ひゃっ!」
首舐めた!
「わ、わたし汚い、待ってぇ!汗とかぁっ」
クシェル様はわたしの言葉は御構い無しに首を舐め続ける。
「や、クシェル様っ」
待って待って待って!ホント待ってーー!!
「ーーっうぇえ!!」
クシェル様の苦しむ声に思わず瞑っていた目を開けると、そこにはソファの端にうずくまりえずくクシェル様とその横で手から血を流すジーク様の姿があった。
「っえ⁈クシェル様なんで吐いて⁈」
「コハク、間に合って良かった」
そう言って血の出てない方の手でわたしの頭を撫でるジーク様。
「よ、良くない!ジーク様、ち、血が!」
ポタタと床に落ち、止まる気配がない。まさに流血!
「こんなのすぐに治る、気にしなくていい」
そう言って更に撫でるジーク様。
無理だよ!流血だよ?ジーク様にとっては本当になんて事ない傷なのかもしれないけど、絶対痛いよ!
「そんな事より、あのままだとあの時の二の舞、いや、最悪コハクを失っていたかもしれない…本当に良かった」
あの時とは多分わたしがクシェル様に血を与えて、貧血で倒れた時のことだ。
「アレもほぼ終わっているので大丈夫だと思います、よ?」
「今回はヒートだ、あの時よりひどい事になる可能性がある」
やっぱり、ヒートだったんだ。
「コハク…」
「く、クシェル様!」
クシェル様がわたしを呼ぶ。
わたしはすぐにクシェル様の元へ行こうとした。しかしジーク様に肩を掴まれ止められる。
「クシェル大丈夫か?」
「あー、お前に無理やり飲まされたおかげで少し頭が冷えた」
「そうか」
「だが……」
わたしを射抜くクシェル様の目は依然赤いままだ。
「やはり、ダメか」
「…あー、そのようだな」
クシェル様はジーク様と話している間もわたしから視線を外さない。
「それって、どういう…」
「今までは俺の血でやり過ごしていたんだが、何故か今回はさっきの様に拒否反応が出てしまって」
ジーク様が答える。
確かにさっきのクシェル様の苦しむ姿は尋常じゃなかった。それに、クシェル様の目もまだ赤く、吸血衝動も収まっていないようだ。つまり、ジーク様の血ではヒートを抑えられなかったということ?
「コハクの血はヒート時以外も吸血衝動が出てしまうほどだ!もしかしたら、と」
これは憶測に過ぎない。しかし、今は他の方法を探している時間は無い!とのことで、クシェル様が冷静なうちに急いでクシェル様の寝室に移動した。
そして、わたしは前回と同様にベッドの上でジーク様に後ろから抱かれ、クシェル様と見つめ合う形で座らされる。
「また暴走しかけたら、ジーク頼んだ」
「あー任せろ、止め方は分かった」
そう言いながら、洗って包帯を巻いただけの手をクシェル様へ向ける。
その手は血が滲んでいて痛々しい。
ーーて、止め方ってもしかしなくてもさっきのあれだよね。ジーク様の血を強制的に飲ませてクシェル様を正気に戻すって事?
あ、あんなに苦しそうだったのに、二人には迷いがない。
「コハク」
「は、はい!」
「手を握っててもいいか?」
クシェル様は申し訳なさそうに尋ねる。
「も、もちろんです」
ダメなわけがない。
わたしはどちらを出すか迷ったあげく、両手を前へ差し出す。すると、クシェル様はわたしの左手に指を絡ませた。
「クシェル、様⁈」
これって噂のこ、恋人繋ぎというやつでは⁈
「小さいなーー」
手を握る力が少し強まったと思ったら、またあの表情をする。
自分を責めるような、でもどこか諦めたようなそんな表情。
「クシェル様の手が大きいんですよ」
わたしも『グッ』と握り返す。
クシェル様の手は体格に見合った大きさで、握ると筋張ってて男の人の手だと分かる。でも、細く長い指で爪も艶があって、羨ましいくらい綺麗な手だ。
「コハク」
見開かれたクシェル様の目には涙が滲んでいた。
「はい」
わたしにはクシェル様の涙の訳は分からない。でも、クシェル様にはそんな顔して欲しく無い。泣いて欲しく無い。
わたしなんかがクシェル様の不安や悲しみを無くすことが出来るとは思えないけど、少しでもこの気持ちが伝わればと、わたしは空いている方の手でそっと抱き寄せた。
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