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【クシェル】ガッカリしただろ?
しおりを挟むコハクを両親に合わせ、全てを話すと決心したものの、やはり乗り気にはなれない。自分が抱えている問題をコハクに伝えるには街に出て、両親に合わせるのが一番である事は分かっているが、街には自分だけでなくコハクにまで負の感情を向ける奴がいるだろう。
途中の街に宿泊する事にならないように朝食を終えるとすぐに城を出た。
俺とジークだけでも十分コハクを守れるが、万が一のことを考えて護衛を二人つける事にした。
二人はジークの直属の部下だから人間にいい感情を持っていないとしても、コハクに手をあげる事はないだろう。
今日はコハクがここに来て、初めての外だ。
馬車に乗り込むと、コハクはキョロキョロと辺りを見回し、少し空いた窓から外の様子を見てワクワクしているのが伝わってくる。
ーー可愛いな
これはコハクとの初デートだ!そして、コハクにプレゼントを買える絶好の機会だ!
俺は色々悩むより、コハクとのデートを楽しむ事にした!
案の定街の奴らは俺だけでなくコハクにまで憎悪や殺意を向ける。
コハクは自分のせいで俺たちまで怪訝な目で見られていると考えてしまったようだ。
他人にそんな目で見られるのはいつものことで、コハクのせいではない。
そんな者たちの事より今はコハクへのプレゼント選びの方が重要だ!
俺は二つの髪飾りを手に取った。
コハクみたいに小さく可憐なピンクの花と小さな太陽のような明るい黄色の花ーーコハクはピンクの方を選び、付けて行きたいと言ってフードを取る。
付けてやるとコハクははにかんだように微笑んでくれた。
「「可愛い」」
周りはコハクの容姿(この世界では珍しい色)に騒ついたが、コハクは気にしないふうで、もうすっかりいつもの三人だけの世界だ。
ジークはコハクが傷付かないようにフードを被せたようで、コハクが気にしないと分かるとコハクが暑そうにしていたこともあり、脱がせた。すると、後ろを歩いていた護衛が慌ててかけ寄り栗色のチビが「自分が持つ」と言い出した。
本人は隠せているつもりだろうが、コハクに嫌悪を抱いている奴なんかにさっきまでコハクが着ていた服を持たせるわけがないだろ!
というか、俺達が持ちたいと言っているのに邪魔するな!
終いには俺がその方がコハクを守れると言うと、二人はコハクへの憎悪を強め、赤茶のツンツン頭に至っては殺意をも抱いていた。
人を種族や容姿でしか判断出来ないクズどもが。俺がお前を殺してやろうか?
自分の部下に殺意を向ける俺に気づいたジークが話を切り上げる。
こんな事でコハクを困らせるわけにはいかない、それにこんな奴らの相手をするのも面倒だ。俺はジークから服を受け取るとコハクの手を引き次の店へ向かった。
コハクは全くと言っていいほど欲がない。
装飾品も服もおもちゃもいらないと言う、好きな甘い物も必要最低限しか買わない。
ーーもっと甘えてわがままを言って欲しい
昼はコハクが楽しみにしていたコロケのある店へ入った。
店主がコハクに殺意を向けているのが気に食わなかったが、魔王と騎士団長が居る所で馬鹿な真似はしないだろうと、料理を待った。
しかしいざ料理が来るとーー料理から黒いものを感じた。子供の頃以来の感覚である。しかし、はっきりと分かったーー毒が盛られている、しかもコハクが楽しみにしていたコロケだけに。
頭の中で何かが切れる感覚がした。
コハクの好きなモノをこんな事のために汚した、コハクの笑顔を奪おうとした!コイツらはコハクを殺そうとした、俺からコハクを奪おうとした!俺を嘲笑い蔑むだけでは飽き足らず、やっと見つけた幸せを安らぎを愛しい存在を壊そうとした…。
殺してやる殺してやる殺してやるこんな奴ら要らない、消えろ消えろ消えろ消えろっ!コハク以外要らない!
自分の中で黒いものが渦巻きそれに支配されそうになった時コハクの俺を呼ぶ声が聞こえた。
声のする方を見るとコハクと目が合い、そこからは困惑と不安が見えた。
またやってしまった……
ジークは俺の反応から毒が入っていたと分かっているはずだが、気を利かせてコハクには毒ではなく虫が入っていたと説明していた。
しかし、さっきの俺の反応からコハクも流石に虫ではない事は分かっていたようで、繋いだ手が微かに震えていた。
コハクは何も悪くないのにーーこの世界の勝手な都合で平和で安全な世界から無理やり連れて来られただけで、異世界人だからと、人間だからと疎まれ蔑まれて挙句には命を狙われてーーそれなのにコハクは誰も責めない……。
俺はこの世界を国をどうすることもできない自分が酷く情けなく感じた。
「潰せ」
店から出る際コハクには聞こえないように、護衛の二人に命令を下した。二人は震え上がり顔を見なくても怯えているのは分かったが、まーどうでもいいことだ。
結局昼食は馬車に向かう途中で適当に串焼きを買い馬車の中で食べた。
コハクは初めは食べるのを躊躇していたが、俺が「これは大丈夫だ」と言って渡すと美味しそうに食べてくれた。
俺もあいつら同様魔族であるのに、コハクは俺を信じてくれたのだ。
ーーどこまでも純粋で可愛らしい俺の天使
両親のもとには予定より遅れてしまったが、どうにか夕食前には着くことが出来た。
両親にコハクを会わせると案の定ロリコン親父がコハクに触れようとしてきた!
手をはたき落とし「コハクが怯えている」と嘘をつくと親父は母さんに目で尋ねる。母さんの反応からコハクが怯えてないと分かると今度は躊躇なく頭を撫でた、鼻の下を伸ばして緩みきった顔で!
ーーこれだから会わせたく無かったんだ、ロリコンの親父は絶対コハクに手を出して来ると分かっていた。
「可愛いは、正義って事だ」
黙れ!変態ロリコン野郎!!
夕食前にゆっくり話をするために母さんのお気に入りの庭園の見えるティータイム専用室へ移動した。
そこにはすでに五人分の席とティーセットが用意されていて、コハクが好きな甘煮果実のケーキもあった。母さんが俺が報告したことを覚えててくれたようだ。
両親が改めて自己紹介をする、とコハクが不安げに俺を見てきた。
さっきはロリコン親父のせいで気付かなかったが、コハクは両親と会ってからずっとこんな目で俺のことを見ていたのかもしれない、そして美しい両親を見た後では、俺なんか……
「ガッカリしただろ?」
コハクは俺の目を「一番好きな色」だと言ってくれたが、親父は…本物の魔王は俺なんかより大きく、澄んだ碧い瞳でくすみのない綺麗な金髪で、誰もが憧れ慕う完璧な魔王。
ーー俺は魔王らしくない
「ーー魔王らしいって何ですか」
この時のコハクの声は今までで聞いた中で一番低く、俺はコハクの顔を見ることが出来なかったが、コハクが怒っているのが声だけで分かった。
コハクの問いに答えることの出来ない俺のかわりにジークが答えてくれた。
すると、コハクは周りの人がおかしいのだと、俺の硬く握られた両手を優しく包み込んで、俺の事を「優しい素敵な人」だと言ってくれた。
顔を上げ左を向くと、そこには、いつも無く真剣な面持ちのコハクがいた。
「コハク」
「はい」
名前を呼ぶとコハクはいつものように優しく微笑んでくれた。
そして、なんとそこには周りのものが俺に向けるような負の感情はもちろん、家族やジークが俺に向けるような、哀れみも無かったのだ。
街で周りの者の俺への態度を見ても、ジークから俺の容姿のことを聞いても、コハクは今までと変わらず俺の抱擁に優しく答えてくれた。
このままの体制では両親の問いに答えずらかったのか、すぐに解かれてしまったが……
しかし、コハクは自ら机の下で手を繋いでくれ、もうそれだけでもう俺は今まで沈んでいた心が嘘みたいに雲一つなく晴れ、幸福が満ちた。
両親とコハクの会話は続く。
俺は今の幸せに浸っていたため会話は聞き流していたが、更に信じられない話が聞こえてきた。
コハクは俺の瞳だけでなく、この燻んだ髪も好きだと言ってくれたような気がする。
「この髪も⁈」
俺が聞き返すとコハクは、俺の髪は陽にかざした琥珀のようでとても綺麗だと、自分の瞳の色と同じだと、頰を赤く染めながら、「お揃いです」と笑った。
コハクの名前はその瞳の色と同じ石が由来だったらしい。
初めて目があったあの時コハクの瞳を宝石のようにとても綺麗だと思ったが、コハクはそれとこの俺の髪が同じだと言う。
ーー俺のこの髪は琥珀色…コハクと同じ!
今まで燻んだ醜い色だと思っていた髪がコハクの一言で大好きになった。
隠していたこの世界での俺の評価も、全て話した後でもコハクは俺の事を大好きだと言ってくれる。いつもコハクは俺のトラウマを受け止め俺を救い出してくれる。
ーー俺の天使!
俺は両親の前だと言うのに泣くのを我慢することが出来なかった。コハクもいつも以上に強く抱きしめ返してくれて、更に涙が溢れた。
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