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魔王らしいって何ですか
しおりを挟むそこにはクシェル様より背も身体も大きい金髪碧眼の男性と黒髪赤眼の美しい女性が椅子に座っていた。
この二人がクシェル様のご両親なの、かな?
「お久しぶりですシェーンハイト様フレイヤ様」
ジーク様が二人に向かって会釈をする。わたしもそれに習って頭を下げた。
すると二人が立ち上がる。
お父さんの方は見上げると首が痛いくらい高い。2m50cmくらいあるんじゃないかな?近くに立たれると威圧感がすごい……。クシェル様と違い髪は少し癖っ毛の短髪で、耳も尖ってなくて、両耳に赤色の石が付いたピアスをしている。
お母さんの方もスラリと背が高く、多分170cmくらい?で、ストレートの黒髪は腰のあたりまである。耳は、髪に隠れて見えなかった。
二人とも長身とはいえ、体格差が凄い。
体格差だけ見たらまるで親子だ。
お父さんの方は体格もがっしりしてるし綺麗系と言うよりは男前?って感じで、クシェル様にあまり似てない。
クシェル様はお母さん似だと思う。
「久しぶりねジーク」
「待っていたぞ!おーその子がお前たちの天使か、確かにすごく愛いな!!」
クシェル様のお父さんはわたしと目が合うと一瞬で顔がデレーと緩んだ。
ーー天使⁈誰が?わたしが⁈
目の前の美しくも威圧感がすごい恐らく先代魔王である人の口から「天使」という単語が出たことにも驚いたが、それがわたしに向けられたものとは……。
先代様がためらいもなくそんな事を言うという事は、クシェル様かジーク様がそう伝えていたのだろうか?
「そうだ、触るなコハクが怯えてるだろ!」
クシェル様はあっさり天使発言を肯定し、わたしに触れようとした先代魔王様の手をはたき落とした。
「あ、すまないコハクちゃん」
先代魔王様はしゃがみ、わたしと目線の高さを合わせてくれた。とても紳士的で、優しい人だ。
クシェル様のお父さんは勇者に力を半分にされたと聞いていたから、同じ異世界人であるわたしのことを快く思わないんじゃ無いかと思ってたけど…。
ーーって、コハクちゃん⁈
ちゃん付けで呼ばれたのは小学生の頃以来くらいか?わたしそんなに幼く見えるのかな。
「い、いえ大丈夫です、すみません少し驚いただけですから」
わたしがそう言うと先代魔王様は奥様?の方を見る。奥様はそれに笑顔で返した。すると先代魔王様はパーと笑顔になりわたしの頭を撫でた。
わたしは今の一連の流れの意味が分からずキョトンとしてしまう。
「触るなって言ってるだろ!」
するとクシェル様がまた先代魔王様の手を払いのけた。
「怯えてないなら大丈夫だろ!」
先代魔王様はわざとらしく払われた手をさすりながら立ち上がった。
「ダメだ、これだから会わせたくなかったんだ!このロリコン‼︎」
「ロリコン⁈」
思わず先代魔王様を凝視してしまった。
ロリコンという単語が出て来たことにも驚いたけど、何よりこの見た目でロリコンというのが本当なら、実に犯罪臭がヤバイ。そして、クシェル様は自分がロリコンだっていう自覚は無かったらしい。
「違う!女性に優しいだけだ!確かに小さく愛らしいものは好きだが……」
「ロリコンじゃねーか!さっきからデレデレしやがって」
クシェル様のいつもと違う荒い口調に驚く。
こっちがクシェル様の素なのかな。
先代魔王様の寿命の話をした時の慌てようから、親との関係に少し不安があったけど、見る限り仲が良さそうで良かった。
「二人はほっといて、移動しましょう」
挨拶の後そのままジーク様と話をしていた奥様がわたしの肩を叩きドアの方を指差した。
わたしはジーク様に手を引かれて奥様についていく。
クシェル様も後ろからついて来たけど移動中も先代と言い合いが続いていた。話の内容はよく聞こえなかったけど。
「あれで成人してるとは……まさかあれがゴーホーロリというやつか!」
「はぁ⁈なんだそれ理解できん」
「可愛いは正義!ということだ!」
「開き直るな変態親父!」
「お茶でもしながらゆっくりお話ししましょう」
案内された部屋には円形のテーブルと5人分の席があって、テーブルの上にはティーセットが準備されていた。
ドアとは反対側に大きな窓があり綺麗な庭園が見えるようになっていた。
「甘い物が好きって聞いていたから本当はお菓子をいっぱい用意したかったのだけど、夕食前だから少しだけで我慢してね」
「いえ、ありがとうございます」
テーブルの上にはクッキーやケーキなどが並べられていて、わたしの好きな甘煮果実のケーキもあった。ティーセットとしては十分な量だと思う。
窓側にクシェル様の両親が座り、先代の隣にクシェル様、その隣にわたし、その隣にはジーク様が座った。
「改めて、私はフレイヤ・アメティスト・ヴェルンシュタイン、クシェルの母親よ、よろしくね」
紅茶が全員に行き渡ると、フレイヤ様が自己紹介をしてくれた。とても柔らかい雰囲気の方で、心からわたしを歓迎してくれているのが分かる。
「俺はシェーンハイト・ヴェルンシュタイン、クシェルの父親だ。よろしくねコハクちゃん」
シェーンハイト様は見た目とギャップがあり、陽気でフレンドリーな方だ。
「はい、よろしくお願いします」
さっきからシェーンハイト様はわたしのことを名前で呼んでいるけど、良いんだろうか?
イダル先生の一件でわたしのことを名前で呼んで良いのはクシェル様とジーク様だけということになったはずだけど……。
クシェル様を見るとイダル先生の時みたいな怒りは無かったがどこか不安げだ。
「ガッカリしただろ?」
「え?」
クシェル様がまた何かに怯えたように目を伏せる。
「俺は親父みたいに大きくないし、容姿だってーー魔王らしく無い」
クシェル様はテーブルの下で手を固く組み、わたしと目を合わせようとしない。
そんなクシェル様の姿を見て、昼間のことを思い出す。街の人たちに遠巻きに見られても「いつものことだ」と何でも無いように振る舞い、心を閉ざしてしまったクシェル様。
クシェル様だけでなく、みんな暗い顔をしてしまう。
「ーー魔王らしいって何ですか」
多分クシェル様は小さい時から周りの人に「魔王らしく無い容姿」だからと虐げられて来たのだろう。そのせいで心を閉ざしてしまい、自分の事を卑下するようになってしまった。
思わず口にしてしまった言葉にその原因であろう人たちへの怒りが表れてしまった。
その呟きにジーク様が丁寧に答えてくれた。
「魔王は代々大きくて金髪碧眼が良しとされ、シェーンハイト様は歴代の魔王の中で一番美しい魔王だと言われている」
確かにシェーンハイト様は大きくて、キラキラの金髪に透き通るような碧眼で存在感が凄まじく、威圧感があり、王としての威厳が一目で伝わってくる。
「私のせいなの、私の血が混じってしまったばっかりに…」
俯いてしまったフレイヤ様の肩を抱き寄せるシェーンハイト様。
「君のせいじゃない、俺のわがままのせいだ」
二人を見ていたら分かる。二人はただ愛し合っただけだ。容姿や周りの反応ではなく、心から愛した人と結ばれただけだ。二人は悪くない、悪いのは見た目だけで平気で人を虐げる周りの人達だ。
「クシェル様はクシェル様です!見た目で人を虐げる方がおかしいんです。クシェル様は優しい素敵な人です」
ーー大好きな、大切な人。だから泣かないでください。
クシェル様の固く握られた両手を包むと、クシェル様の両手から少しずつ力が抜けていく。
「コハク」
やっと目が合った。
「はい」と微笑みかけるとクシェル様に勢いよく抱きしめられ、わたしは腕をクシェル様の背中に回した。
「コハクちゃんのいた世界ではそういう差別は無いのかしら」
「…無いわけではありませんが、一般的には人種差別は良くない、人類皆平等という考えが良いとされています、わたしも人は見た目や力ではなく人柄が重要だと思っています」
隣に座ったままで抱き合い続けるのは難しく、手を繋ぎなおし、フレイヤ様の問いに答えた。
「つくづく驚かされるなコハクの世界には」
「コハクちゃんはクシェルの人柄を好きになってくれたって事かな?」
シェーンハイト様に直球で聞かれて顔が熱くなってしまう。
確かにそうだけど、クシェル様のご両親に(初対面で)そんな事を宣言するのはすごく恥ずかしい!
しかしシェーンハイト様は至って真剣で、わたしを茶化しているわけではない。ここはわたしも正直に、真剣に答えなくては。
「はい。でもこんなこと言っておきながら、あの、あれなんですが、わたしはクシェル様の瞳の色や髪の色も好きで、その、内面は勿論、外見も……すみません」
覚悟は決めたものの、やっぱり恥ずかしくてしどろもどろになってしまった。
「この髪も⁈」
クシェル様が目を見開く。
「は、はい。クシェル様の金茶色の髪は前から綺麗だなと思っていたんですけど、陽に照らされるとキラキラと輝いてまるで陽にかざした琥珀のようで、とても綺麗です」
みんながポカンとしてしまっている。
しまった、また語り過ぎてしまった?引かれた?
「陽にかざした、コハク?」
引かれたわけではなかったようだ。良かった。
「あ、琥珀っていうのは樹液が石化したもので、わたしの目の色がそれにそっくりだったから、母がわたしのことをコハクと名付けたそうです」
子供の頃、周りとは違う瞳の色やカタカナの名前のせいでよくからかわれていた。だから自分の名前も瞳の色も嫌いだった。
周りのみんなもお父さんもお母さんも黒いのにわたしの瞳は黒じゃないの?何でわたしはこんな変な名前なの?ーーて、でもわたしは名前の由来の話を聞いてから、自分の名前も瞳も大好きになった。
ダイヤモンドやエメラルドのようなきらびやかな宝石ではないけど、長い年月を経て石化して、一見地味に思えるが、陽にかざすと淡く輝き、控えめで温もりがある。
チビでぽっちゃりの運動も勉強も平凡で何の取り柄もないわたしの唯一の誇れる瞳。
「フフ、お揃いです」
わたしは細めた目元に手を添える。
再び強く抱きしめられ、クシェル様の泣くのをこらえる声が聞こえた。
この人を救ってあげたい。あなたが傷つく必要はないのだと、我慢する必要はないのだと……。
きっとこの世界は見た目や種族の違いで虐げられるのが当たり前で、耐えることしかできなくて、諦めて、心を閉ざす事で自分を守っていたんだ。
わたしは声を殺して泣くクシェル様を強く抱きしめた。
あの夢の声が神様の声だとしたら、わたしがこの世界に来たのが誰かを救う為だとしたら……わたしはクシェル様を救うためにこの世界に来たのかもしれない。
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