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後編

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 豪奢ごうしゃなシャンデリアに照らされたパーティー会場に、ひときわ大きな歓声が上がる。
 グラス片手に壁の華を決め込んでいたレリエッタが顔を上げると、本日の主役であるエヴィン王子が姿を現したところだった。
 階段の上段で満足げに客人達を睥睨へいげいする王子の隣には、白銀色の髪の小柄な女性――聖女がいた。長い髪を結い上げ、紅を差した唇に淡い笑みを浮かべている。
 髪と同じ白銀の双眸を細めて人々を見下ろす姿は、聖女と呼ぶに相応しい清らかさと気品をまとっていた。
 王子の偉業を褒めそやす貴族達を遠巻きに眺めながら、レリエッタはひとり思考に沈む。
 王族の中でも召喚儀式に臨めるのは一握り。
 もし儀式に臨めたとしても、召喚に成功する確率は決して高くない。召喚出来なかっただけならまだマシで、場合によっては負傷したり命を落とす危険もある。
 エヴィン王子は召喚儀式に挑む資格はあったものの、適当な理由をつけてずっと避け続けて来た。無駄にプライドだけは高い王子の事だ、失敗して笑い物にされるのが怖かったのだろうと、レリエッタは踏んでいる。
 しかし半年前、第ニ王子が聖獣の召喚に成功した途端に王城内の風向きが変わった。第ニ王子を次期国王に推す声が高まり、いよいよ追い詰められた第一王子エヴィンは召喚儀式に挑まざるを得なくなり――聖女の召喚を成し遂げた。
 レリエッタは改めて聖女へ目を遣る。慈愛に満ちた微笑みで人々に応える聖女は、けれどよく見るとその白銀色の双眸は底冷えする様なくらさがほほ見えている。
 王子達を取り巻く貴族達はそれに気付いていない。しかし会場で給仕に動き回るメイド達の中にはレリエッタ同様、聖女が放つ異質さに感付かんづく者が見受けられた。
 召喚者の本質を見抜いた上で召喚されるモノが決定されると言い伝えられている召喚儀式。
 婚約者として長年、王子を近くで見て来たレリエッタから見れば、あの王子に聖女を召喚出来る程の人間性が備わっているとは到底思えない。ならば、あの聖女が内包し、この国にもたらすモノは。
「……嵐が来そうね」
 独りごちて、壁から離れる。グラスを給仕係に渡し、そっと廊下へと身を滑らせた。
 婚約解消で、レリエッタに向けられる同情の目や噂話が鬱陶うっとうしい。それらから逃れる名目で王都を離れて領地へ戻っても然程さほど不審がられはしないだろう。
 両親や領地の様子も気になるし、嵐を避ける意味でもしばらく領地に引き篭もって動向を見守っていたい。
「何事もなければ、それはそれで幸いな事。私の、男性を見る目がなかったと言うだけの話ですものね」
 そう結論付けて、レリエッタは静かな廊下を進む。
「ご多幸たこうをお祈りいたしますわ、エヴィン王子」
 呟きは、夜の闇へ吸い込まれて消えた。
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