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Chapter2(フラ編)
Chapter2-⑫【ラブラドール・レトリバー】後編
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「おい、落とした…ぞ…。」
ユーリの笑顔が凍る。
ワタルが二人いると思った時、片方がベッドに倒れた。
残ったワタルに手を伸ばすが、その身体をすり抜ける。
残像は直ぐに消えた。
「どっ、どうした?」
倒れた身体は驚く程熱い。
吹き出す汗は興奮の所為ではなさそうだ。
「どっ、どうしよう?」
頭が真っ白で何も浮かばない。
「落ち着け、落ち着け。」
自分に言い聞かす。
何が起こったか、順序立てて考える。
異変は突然起こった。
薬を飲んでからだ。
起因は薬に間違いない。
「One tablet a day!」
店員が繰り返し言ってた事を思い出す。
だがワタルは一錠しか飲んでいない。
「あっ!」
昼間の醜態に辿り着く。
「二錠だ!」
しかも全く同じ薬かどうかも分からない。
ただ緊急事態なのは確かだ。
ユーリはキッチンへ向かう。
冷蔵庫からありったけの氷を出してタオルを浸す。
「まさか死んだりしないよな?」
溢れた言葉が全身にのし掛かってきた。
『死?
また大切な人を失う?
まさか…。』
居ても立ってもいられず鍵を持ち、表に出る。
エレベーターに乗り込み、最上階を押す。
最後の望みをプールに託す。
「夜のプールはインスタ映えするよな!」
騒がしい声が今は頼もしい。
暗闇の中、フラッシュが光る。
光の輪が連結する二人を一瞬浮かび上がらせた。
「大変なんだ!
助けてくれ!」
闇から現れた闖入者に二人は慌てて離れた。
ユーリはプールサイドの照明下に入っていく。
「何だ、昼間の奴か。
驚かせるなよ。
助けてくれって、穏やかなじゃないな。
面倒ごとは勘弁だぜ。」
腰にタオルを巻きながらケイジが言った。
エレベーターの中で経緯を説明する。
「おいおい、思い切り面倒ごとじゃないか…。
首突っ込むのヤバくないか?」
ケイジがパットの腕を引っ張った。
「薬を飲んだのは何時ですか?」
パットはその手を振り解く。
「5、いや10分は経っているかな…。」
「そうですか、微妙です。
間に合わないかもしれません。」
パットが神妙に言う。
「間に合わないって!
間に合わなかったらどうなるんだ!」
ユーリの声がエレベーター内に響く。
「万が一に備えた方がベターという事です。
その時はあなた一人で対処して下さい。
私達は関係ありません。」
パットの発言に足元がぐらつく。
降下する時間が酷く長く感じた。
「逆に上手くいったら私の希望を聞いてもらいます。
いいですか?」
「えっ?それって可能性はあって事?」
ユーリはパットを見上げる。
「生憎、私は医者ではありませんから、やってみないと分かりません。
前に似たケースをクラブで見ました。
その時の対処を覚えています。
私はそれしか知りません。
今回のケースがそれと同じか、分かりません。
ただゼロではないでしょう。」
「兎に角やってくれ!
何でも言う事聞くから。」
涙声で訴えた。
(つづく)
ユーリの笑顔が凍る。
ワタルが二人いると思った時、片方がベッドに倒れた。
残ったワタルに手を伸ばすが、その身体をすり抜ける。
残像は直ぐに消えた。
「どっ、どうした?」
倒れた身体は驚く程熱い。
吹き出す汗は興奮の所為ではなさそうだ。
「どっ、どうしよう?」
頭が真っ白で何も浮かばない。
「落ち着け、落ち着け。」
自分に言い聞かす。
何が起こったか、順序立てて考える。
異変は突然起こった。
薬を飲んでからだ。
起因は薬に間違いない。
「One tablet a day!」
店員が繰り返し言ってた事を思い出す。
だがワタルは一錠しか飲んでいない。
「あっ!」
昼間の醜態に辿り着く。
「二錠だ!」
しかも全く同じ薬かどうかも分からない。
ただ緊急事態なのは確かだ。
ユーリはキッチンへ向かう。
冷蔵庫からありったけの氷を出してタオルを浸す。
「まさか死んだりしないよな?」
溢れた言葉が全身にのし掛かってきた。
『死?
また大切な人を失う?
まさか…。』
居ても立ってもいられず鍵を持ち、表に出る。
エレベーターに乗り込み、最上階を押す。
最後の望みをプールに託す。
「夜のプールはインスタ映えするよな!」
騒がしい声が今は頼もしい。
暗闇の中、フラッシュが光る。
光の輪が連結する二人を一瞬浮かび上がらせた。
「大変なんだ!
助けてくれ!」
闇から現れた闖入者に二人は慌てて離れた。
ユーリはプールサイドの照明下に入っていく。
「何だ、昼間の奴か。
驚かせるなよ。
助けてくれって、穏やかなじゃないな。
面倒ごとは勘弁だぜ。」
腰にタオルを巻きながらケイジが言った。
エレベーターの中で経緯を説明する。
「おいおい、思い切り面倒ごとじゃないか…。
首突っ込むのヤバくないか?」
ケイジがパットの腕を引っ張った。
「薬を飲んだのは何時ですか?」
パットはその手を振り解く。
「5、いや10分は経っているかな…。」
「そうですか、微妙です。
間に合わないかもしれません。」
パットが神妙に言う。
「間に合わないって!
間に合わなかったらどうなるんだ!」
ユーリの声がエレベーター内に響く。
「万が一に備えた方がベターという事です。
その時はあなた一人で対処して下さい。
私達は関係ありません。」
パットの発言に足元がぐらつく。
降下する時間が酷く長く感じた。
「逆に上手くいったら私の希望を聞いてもらいます。
いいですか?」
「えっ?それって可能性はあって事?」
ユーリはパットを見上げる。
「生憎、私は医者ではありませんから、やってみないと分かりません。
前に似たケースをクラブで見ました。
その時の対処を覚えています。
私はそれしか知りません。
今回のケースがそれと同じか、分かりません。
ただゼロではないでしょう。」
「兎に角やってくれ!
何でも言う事聞くから。」
涙声で訴えた。
(つづく)
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