三十路の恋はもどかしい~重い男は好きですか?~

キツネ・グミ

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発展編

27.気づき

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後半、雰囲気がちょっと重たくなります。

.........

今日からさっそく、ご令息の研修がスタートした。先ほど、チームのみんなと軽く自己紹介をし合って、今は美云と共にオリエンテーション中だ。

ご令息、王 㬶天ワン コウティンは佳敏くらいの背丈に、ちょっと武骨な感じのいわゆる男らしい男と言える顔立ちをしている。社長の若い頃に似ている顔立ちはさっそく女性社員を虜にしているようで、㬶天と美云の席に引っ切り無しにやってきてはちょっかいを出して帰っていく。

暑いのか癖なのか㬶天がシャツの袖を捲って筋肉質な腕が見えただけで目をキラキラさせている女性たちの中に佳敏も加わる。

「佳敏さん、仕事してください」

「獅朗、堅いこと言わないでよ。ちょっとくらい良いじゃない?」

獅朗が佳敏と話していると、美云と㬶天が何を話していたのか二人共に笑顔になる。何を話しているのかは気にならないけれど、美云のうっすらと開いた唇が獅朗は急に気になってしょうがなかった。

昨夜、美云に友達になろうと言われて咄嗟にキスしたことを思い出す。口角にほんのちょっと触れた程度のキスだったが、うっすら開いている美云の唇にキスをしていたら、きっとそれだけじゃ足りなくなっていただろう。

後悔はしていない。

ただ、自分への多少の戸惑いはあった。しばらくお付き合いするような女性がいなかったからだろうか?
美云が佳敏ばかり誉めるのが気に入らなかったから?
いや。それだけではないはずだ。一番のきっかけが"友達になろう"と言われたひとことだったのだから・・・

友達にはなりたくない。ただ、ずっと側にいるだけの関係なんてごめんだ。
どうせならどちらかが死ぬまでがんじがらめに、自分に縛り付けて離したくない。そんな意識が生まれた瞬間、獅朗は驚いて持っていたカップを落としてしまった。

重い。
獅朗は自分がそんなにも重い感情を抱いた男だなんて思いもしなかった。

遠くから大丈夫ですか?と言う声が聞こえてくる。ハッとして目を向けるとすぐ側に心配そうな顔をした美云と㬶天がこちらを見ていた。

「すみません。大丈夫です。お二人はそのまま研修を続けてください」 

カップを拾って床にぶちまけたコーヒーを軽く拭くと、カーペットが染みになら無いように早めに清掃担当に連絡をする。

「ちょっと打ち合わせに行ってきますね」

有りもしない予定を美云に告げて席を離れようとしている獅朗に、そんな予定ありましたっけ?と言いたげな顔で美云が頷くと、獅朗は逃げるように執務室から出ていった。 

「獅朗さん、打ち合わせが有るの忘れてたんですかね?」  

㬶天も不思議そうな顔をして今さっきまでこの場にいた獅朗を心配する。

「そうなのかもしれませんね。でも、めずらしいかも」

「そうですよね」

㬶天が幼い頃から知っている獅朗は先回りすることはあっても忘れるとか遅れるという言葉が似合わない男。獅朗はそんな印象の男だった。


………


カチャリ


静かな執務室にドアの開く音がやけに響いて、成徳チェンドゥはふと顔を上げるとそこには浮かない顔をした獅朗が立っていた。

「おや。誰かと思ったら珍しいお客さんがやってきたようだね?もしかして、美云君を返品しに来たのかい?それならお断りだよ。もう、クーリングオフの期間も過ぎたからね」

成徳が冗談を言いながら暖かな笑みを獅朗に向けると獅朗は泣きそうな顔をしている。

「成徳さん・・・」

「どうしたんだい?まぁ、座りなよ」

はぁとため息をつきながら獅朗は成徳の隣に座るもしばし口を開く気は無いようだ。

口を閉ざしぼぅっとする獅朗に成徳が優しく子どもをあやすように黙って見守る。

「子どものころを、思い出しました」

しばらくすると獅朗が口を開く。

「私が、まだ私だったころを」

他人に機械のようだと言われていないころを。母を、父を大好きだったころを。普通に笑えて、世界がバラ色だったころを。この世に生まれたことが幸せで仕方がなかったころを。

「あぁ」
小さく息をつくと、成徳は獅朗の肩を抱きしめた。自分よりも大きく若い男を、まるで幼子のように抱きしめた。

獅朗が幸せだった頃。それは両親がどちらも元気に生きていて家族仲良く暮らしていたころのことだ。

その幸せが粉々に壊れて失われてしまったのは、まだ獅朗が十歳にもならない時だった。
ある日、普通にそこにあった幸せが粉々に壊れた。
なぜなら、獅朗は子どもの頃に両親を事故で亡くしてしまったのだ。それは飛行機の墜落事故だった。



………


変なところで切ってしまい申し訳ありません🙇‍♀️

明日、次話投稿できるようにがんばります。

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