三十路の恋はもどかしい~重い男は好きですか?~

キツネ・グミ

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発展編

22.逢瀬

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顔合わせから戻ってきて美云は席に着くと、戻ってくる間に仕入れた情報を思い返し忘れないようにメモを取る。


社長室での緊張感から解放され、さてお茶でも飲むかといつも使ってるタンブラーを手に取ると、それは飲み干したあとだったようでとても軽かった。

じゃあ給湯室にお茶を作りに行こうと引き出しからお気に入りのお茶を取り出し席を立つ。


少し歩いた角に給湯室があり、その場所は行き交う人の死角となっているのでひと息着くのにちょうどいい場所だったことを思い出す。


ふと、路臣らしき人物の声が給湯室から聞こえてきた。また遊びに来たのかと、遊び癖のある甥っ子に喝でも入れてやろうかと一歩足を踏み入れた美云は思わず『あっ』と驚いて咄嗟に手で口を押さえた。


美云の声に気づいたのであろう人影も驚いて咄嗟に動く。

えっと。と一瞬固まるも気を取り直す。確かに給湯室にいた人物は路臣ではあったが、ひとりではなく連れがいて、美云はどうやら二人が熱い接吻を交わしている最中にやってきて、邪魔をしてしまったようだった。


しかも、相手は佳敏のチームの春紅だったので、路臣が一課に頻繁に来る理由も流れで察することができた。


二人に対して申し訳ない気持ちになりつつ、いや待て今仕事中だし、ここは職場だし、なぜ自分が申し訳なく思わなくてはいけないのかと美云は腹が立ってきた。


「えーと、私には関係ないけど、二人はもう付き合ってるのかしら?それとも、路臣が春紅さんを口説いてる最中だったのかしら?」


「口説いてたとこ。」


大変素直でよろしい。いや、よろしくはないけど返事が返ってきて、奥にいる春紅を見ると茹でダコのように顔を真っ赤にしている。


この会社は社内恋愛は禁止されていない。だけど、イコール職場内で人目があろうが無かろうがイチャイチャして良いとはならない。


「路臣、もう少しちゃんと考えて。ここは会社なんだから。」


「はいはい。わかったよ、ママ。」


誰がママだっ?!と言い返したかったが、実際、まさにティーンネージャーを叱る母親のようになっている自分に気づく。


「おや、みなさんお揃いですか?」


不貞腐れてる路臣にまた言葉をかけようとした時に、あろうことか獅朗が給湯室にやって来た。

美云は咄嗟に獅朗の視界を塞ぐために両手で獅朗の目を被うが、これじゃ自分達が悪いことしてましたって言っているようだと気づく。


思ってるうちに獅朗が口許で微笑みを作りながら優しく美云の両手を降ろすと、訳知り顔で背中を向けコーヒーを淹れる準備を始める。

その姿を見て、自分もお茶を作りに来たんだと思い出す。


「美云、大丈夫ですよ。今ここで何が起きていたのか?については何も知らないことにしておきますから。」


と言うことは、本当は何か知っていると言うことだろう。 


「美云もコーヒー飲みますか?」


「えっ?あぁ、今の私にコーヒーはちょっと・・・お茶があるから大丈夫です。」


「お二人はどうですか?」


獅朗は路臣と春紅に声をかける。春紅がいただきます。と答える小さな声が聞こえて来る。


路臣も同意しつつ、自分のこれまでの行動を含めて薄々は獅朗にバレていたことは何となく感じていた。

でも言わせてもらえるなら、と少し鼻息を荒くして思うことは、じゃあ獅朗こそ姉貴をどう思ってるのか?どうしたいのか?知りたくてしょうがなかった。


つくづく読めない男が恋をしているところが想像できなくてウズウズしてしまう。

確かに過去、職場の同僚と獅朗が交際していたことは知っているし、実際、相手の方が獅朗に肩入れしてひっついている姿を目撃したこともある。


その時、見えた獅朗の眼差しからは何の感情も読めなかった。ただ、仕事をする男がそこにいただけだった。

女性たちもだんだんとそんな獅朗に気づくのか、気がつけば熱が冷め離れていっていた。それでも獅朗に恋をする女性は後を絶たず、この甘いマスクに引き寄せられ胸を焦がす。


ただ、今のこの男からは何か渇望感のようなものを感じられる。これはうれしく思うべきか、警戒するべきか。

今まで見馴れない姿を見せる(とは言え見えてるのは勘の鋭い路臣と野生の勘が働く佳敏ぐらいだが)獅朗が真新しく感じた。


「じゃあ、そろそろ仕事に戻りましょうか?残業したい人はいないでしょうから。」


他愛の無い雑談をひとしきりした後に獅朗が口を開く。


隣にいる春紅を見れば、真っ赤な顔が和らぎ落ち着いた姿に戻っていたので、もしかしたら春紅を気遣ってのことだったのか。

後先を考えていなかった路臣は少し、本の少しだけ反省し、獅朗の気遣いを見習おうと心の片隅に置いた。


「獅朗さん、ありがとうございます。」


「ふふ。何でもないことですよ。」


じゃ、と手を振って獅朗は給湯室から出ていく。


「姉貴、獅朗さんって良い人だね。」


「えっ?良い人・・・かな?不思議な人よね」


「あ、分かります。不思議な人ですよね。不思議な魅力がある人で、私も一課にきた頃は獅朗さんに恋してましたから。」


「ちょっと!」


たった今口説いていた女性の過去の恋話なんて聞きたくはない路臣は大きな声を出してしまったが、恋する気持ちは分からなくもないと思った。


「でも、分かるわ。俺も女性だったら獅朗さんに恋してたかも。」


「「えっ?!」」


じゃ、俺も行くね。あ、後でメールするね。と春紅に声をかけた路臣は美云にイタズラっぽい笑顔を向けると仕事に戻っていった。



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