三十路の恋はもどかしい~重い男は好きですか?~

キツネ・グミ

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発展編

21.鶴の恩返しならぬ

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午後になり一時間ほど過ぎた頃だろうか。康宇カンユウからご令息が到着したと伝えられた。


「では、行きましょうか?」


獅朗に呼ばれ、美云と暁丹は社長室へ向かうため三人でエレベーターホールに行こうとしたところ、なぜか佳敏も一緒に執務室を出てくる。


「ちょっと、何よぉ三人して変な顔して。邪魔はしないわよ。静かに見守ってるから、アタシも一緒に行くわよ。」


特に獅朗にジト目で見られて佳敏が言い訳をしつつも、一緒に行くことは諦めないらしい。


はぁ、と小さくため息をつく獅朗。


「本当に邪魔はしませんね?」


一応、念を押す。


「しないわよ。たまにはアタシを信じなさい。」


「キャット、ついでに春紅さんまでついてくるなんてことは無いのね?」


「大丈夫よ。アタシが止めたから。」


なぜか胸を張って答える佳敏。

どうせ来月になれば嫌でも毎日顔を合わせるのに。他のマネージャーたちは遠慮して来ないのに。

やはり猫は猫だ。仕事中ですら自由に立ち回る。



しょうがないので 佳敏も連れて社長室へ向かうことにした。


社長室のある階へ着き、向かった先には令息と社長だけで、仲良く談笑をしていた。本当に仲の良い親子で、ここに夫人も加わるとさらに華やぐ。


獅朗たちがやって来ると、令息が立ち上がりわざわざ四人のところへやって来る。


「こんにちは。はじめまして。王㬶天ワンコウティンです。今回は引き受けてくださりありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします。」


まっすぐな視線を美云に送ってくる㬶天は佳敏と同じくらいの高身長で、170cmある美云ですら見上げるほどだった。

それに、顔立ちは精悍せいかんで男らしい男と言った感じだ。身体は程よく筋肉質で長い足を持て余しているようだ。

現に暁丹は目の前の㬶天を見てぼうっとしている。


セックスアピールの塊のようなキャット、ちょっと中性的な見た目の獅朗、そこに㬶天。見目麗しい男たち三人が美云の目の前にいた。


「こちらこそ研修担当になれて光栄です。これからビシビシ鍛えますから覚悟していてください!」


にっこり笑いながら㬶天を見つめ返す。

実は㬶天に会うのはこれが初めてではない。毎年、王家の屋敷で年に一度開かれるパーティで何度か目にしている。

初めて会った頃はまだまだ小さく、ひょろっとしたお坊ちゃんだった。それが今では立派に成長している。将来の王財閥の舵取りになる人の器にふさわしい成長と思えた。


打ち合わせは始終和やかに進み、そろそろお開きとなった時だった。


「そう言えば、獅朗さんには一緒にサッカーで遊んでもらった記憶があります。」


㬶天が口を開く。


「そうでしたね。あれはいつ頃でしたっけ?中学か、高校か、、、」


高校生の頃でしたね。と㬶天が続ける。

ほう。そんな頃から付き合いがあったのか、と美云は話に耳を澄ませる。


「確か、当時流行っていたバブルボールサッカーをやりに行こうってパーティの席で話していたら、話を聞いた㬶天君も行きたいって社長におねだりしていましたね。」


獅朗の話にそうでしたね、と照れくさそうに相づちを打つ㬶天は笑うと少年のような顔立ちになる。

それを見たキャットが内心舌舐りをしている顔になってるので思わず肘でつつくと、なによ?と言わんばかりにすんと元の顔に戻る。


「それで、試合はどうだったんですか?」


暁丹が二人に訊ねると、勝ち負けと言うより、みんなバブルボールを身につけて転がるのが楽しくて、試合にはならなかったとのことだった。社長も夫人も参加して楽しんだらしい。


恐らく、古参の美云がこの話を知らないのは李莉の看病をしていた頃だからだろうと年齢を頭の中で逆算してみる。


では、そろそろ。と今度こそお開きになり、では来月からよろしくお願いします。と獅朗たち四人は社長室を後にした。



一課に戻るエレベーターの中で美云はふと思いついたことを口にする。


「もしかして、獅朗に研修のお願いをしたのは㬶天君自身ですか?」


「・・・ええ。そうです。中々、研修担当部所が決まらない中、痺れを切らしたらしいご令息にご指名を受けました。」


少し間が空くも答えが返ってくる。


なるほど。世話焼き上手と言うのを㬶天が覚えていたと言うことだろう。


「獅朗さん、モテますね。」


暁丹がニヤニヤする。


「ちょっとあんた、男にまでモテるわけ?やるじゃない?それよりも、来月からあんなのが毎日ウチの課にやってくるってことは・・・毎日、嵐が吹き荒れるんじゃないかしら?ふふ。」


佳敏曰く、毎日、女子社員がやってきててんやわんやで獅朗のチームは大変そうね。と他人事のように言う。


「ご心配無く。ご令息がいてもいなくても一課はいつも佳敏さんのお陰でてんやわんやですから。」


それに、と続く。


「そうならないように研修担当を美云にお願いしたんですから。」


獅朗が佳敏にウインクしたところでエレベーターが一課の階に着いた。






......

今週は二話更新がんばります_(..)_
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