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求められて③
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***
次に目を、覚ました時。
外は既に明るくなり掛けていて、ベッドにはもう、奏くんの姿は無かった。
それが少しだけ寂しくて、彼の枕をぎゅっと抱き締めたタイミングで、部屋のドアがそっと開いた。
「あれ......おはよう、千尋さん。
起こしちゃったかな、ごめんね」
ベッドサイドに腰を下ろし、優しく私の頬に触れる奏くんの長い指先。
ふるふると左右に首を振り、彼の手に手を添えた。
「ううん、自然と目が覚めただけ。
おはよう、奏くん」
「......本人がいるんだから、枕なんかじゃなく俺を抱いてくれたら良いのに」
ニヤリとちょっと意地悪く笑って言われたけれど、願ってもいない申し出だ。
枕を放り投げ、素直に彼に向かい手を伸ばすと、逆に奏くんの方が真っ赤になってしまった。
......うん、可愛い。
「全く、千尋さんは。
......そういうところ、ホントズルい」
抱き締められたまま、こてんと私の肩に額を乗せる彼。
それが可笑しくて、思わずクスクスと笑ってしまった。
すると彼は不満そうな口調で、ボソボソと告げた。
「今日はかなり、帰りが遅くなっちゃうと思うけど。
三食分ちゃんと用意しておいたから、レンジで温めて食べて」
ちゅっ、と彼の唇が、私の首筋に触れた。
そのため体がびくんと大きく震えてしまったのだけれど、それを見た奏くんはご機嫌が直ったのか、プッと吹き出した。
「残念ながら、時間切れ。
......明日はちょっと早く帰れると思うから、いっぱいイチャイチャしようね?」
ペロリと耳たぶに這わされた、彼の舌先。
あまりにも恥ずかしくて返答に困っていたら、私の顔を覗き込むようにしながら、クスリと妖艶に笑った。
「可愛いなぁ、ホント。
名残惜しいけど、行ってきます」
今度は唇に、彼の唇が触れた。
「行ってらっしゃい、奏くん。
お仕事、頑張ってね」
彼は嬉しそうにコクンと頷き、もう一度私を抱き締めた。
こんな関係になっても、私は本当の奏くんのことなんて、まるで知らなくて。
この、数日後。
......真実を知った私は、大好きな彼を深く傷付ける事になる。
次に目を、覚ました時。
外は既に明るくなり掛けていて、ベッドにはもう、奏くんの姿は無かった。
それが少しだけ寂しくて、彼の枕をぎゅっと抱き締めたタイミングで、部屋のドアがそっと開いた。
「あれ......おはよう、千尋さん。
起こしちゃったかな、ごめんね」
ベッドサイドに腰を下ろし、優しく私の頬に触れる奏くんの長い指先。
ふるふると左右に首を振り、彼の手に手を添えた。
「ううん、自然と目が覚めただけ。
おはよう、奏くん」
「......本人がいるんだから、枕なんかじゃなく俺を抱いてくれたら良いのに」
ニヤリとちょっと意地悪く笑って言われたけれど、願ってもいない申し出だ。
枕を放り投げ、素直に彼に向かい手を伸ばすと、逆に奏くんの方が真っ赤になってしまった。
......うん、可愛い。
「全く、千尋さんは。
......そういうところ、ホントズルい」
抱き締められたまま、こてんと私の肩に額を乗せる彼。
それが可笑しくて、思わずクスクスと笑ってしまった。
すると彼は不満そうな口調で、ボソボソと告げた。
「今日はかなり、帰りが遅くなっちゃうと思うけど。
三食分ちゃんと用意しておいたから、レンジで温めて食べて」
ちゅっ、と彼の唇が、私の首筋に触れた。
そのため体がびくんと大きく震えてしまったのだけれど、それを見た奏くんはご機嫌が直ったのか、プッと吹き出した。
「残念ながら、時間切れ。
......明日はちょっと早く帰れると思うから、いっぱいイチャイチャしようね?」
ペロリと耳たぶに這わされた、彼の舌先。
あまりにも恥ずかしくて返答に困っていたら、私の顔を覗き込むようにしながら、クスリと妖艶に笑った。
「可愛いなぁ、ホント。
名残惜しいけど、行ってきます」
今度は唇に、彼の唇が触れた。
「行ってらっしゃい、奏くん。
お仕事、頑張ってね」
彼は嬉しそうにコクンと頷き、もう一度私を抱き締めた。
こんな関係になっても、私は本当の奏くんのことなんて、まるで知らなくて。
この、数日後。
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