年下俺様アイドルの、正しい飼い方

ryon*

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庇護欲VS嗜虐心①

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 その後女性向け雑誌のインタビューと、新しく始まるドラマの番宣を兼ねたバラエティ番組への出演があり、それらがすべて終わる頃には時刻は、21時を少し回っていた。

 そしてようやく家に着き、玄関のドアを開けると、部屋からはカレーの匂いが漂ってきた。

 でも正直なところそれは、決していい薫りだとは言いがたいモノだった。
 なぜなら明らかに焦がしたような、香ばしいを通り越して思わず鼻を摘まみたくなるような悪臭を放っていたからだ。

 その事に驚き、慌てて靴を脱ぎ捨てると、キッチンに向かい駆け出した。
 そこには案の定、呆然としたような顔をして涙目で床にペタンと座り込む、千尋さんの姿。

 調理台の上には、俺が買い揃えたターメリックやらウコンやらの香辛料達が、所狭しと並べられている。
 この人は料理初心者の癖に市販品のルーを使わず、カレーを作ろうとしたという事か。
 
 お気に入りのプロ仕様の寸胴鍋の底は、見るも無惨に焼け焦げている。
 ......ホント、なんて無謀な事を。

「お帰りなさい、奏くん。
 ......ごめんなさい」

 レードルを握り締めたまま、千尋さんは震える声で言った。

 その言葉を聞いた瞬間様々な感情が交錯して、つい無言になってしまった。
 だって今日、初めて呼んでくれたのだ。
 ......千尋さんが、俺の名前を。

 こんな状況下ではあるものの、これは俺からしてみたら、大変大きな前進と言えるのでは無かろうか?
 例え他人から見れば牛歩以下の歩みだとしても、クソ真面目を絵に描いたようなこの千尋さんが相手なのだから。

 大切に使っていた鍋を焦がされてしまったというのに、それ以上にそんなささやかな事がどうしようもなく嬉しいと感じてしまう辺り、本当になんてチョロい男なんだと、自分でも少し呆れてしまうけれど。
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