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ぬくもり① side千尋
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「そうなんだ。大変だね。
......千尋さんは、何も悪くないのに」
今にも泣き出しそうな私を前に、彼はぼそっと呟くように言った。
その言葉があまりにも意外だったから、反射的に顔を上げた。
目が合うと彼は、少し気まずそうに視線をそらし、困り顔で小さく笑った。
でも考えてみたらむしろ、これはこの人らしい反応だったのかもしれない。
ここがいくら私が買ったマンションだとしても、彼は私を追い出す事だって出来たはずなのだ。
......なのに、そうはしなかった。
彼は意地悪な事ばかり言うけれど、根はとても優しい人なのだろう。
仕事でもプライベートでも、泣いている姿を人に見せるのは嫌いだ。
だからいつだってこっそり、一人になってから涙を流してきた。
最後に付き合った恋人に、仕事と自分、どちらが大事かと聞かれた時。
私は迷う事なく、仕事を選んだ。
その結果別れ話になり、吐き捨てるように言われた言葉がこれだ。
『本当に、可愛げのない女だな。
......こんな時でも、涙のひとつも見せないとか』
彼の事は本当に大好きだったし、私だって悲しくなかったワケじゃない。
だけど泣いたりしたら彼を困らせてしまうと思ったから、必死に堪えたのに。
泣かない女が可愛げがないというのならば、感情的にヒステリックに喚き散らしたり、泣いて彼にすがり付けば良かったのだろうか?
しかし例えそんな見苦しい真似をしたところで、結果は変わらなかったはずだ。
......結局彼は、自分が悪者になりたくなかっただけなんじゃないの?
そういう風に冷静に考えてしまう辺り、私はやはり恋愛向きの人間では無いのかもしれない。
......千尋さんは、何も悪くないのに」
今にも泣き出しそうな私を前に、彼はぼそっと呟くように言った。
その言葉があまりにも意外だったから、反射的に顔を上げた。
目が合うと彼は、少し気まずそうに視線をそらし、困り顔で小さく笑った。
でも考えてみたらむしろ、これはこの人らしい反応だったのかもしれない。
ここがいくら私が買ったマンションだとしても、彼は私を追い出す事だって出来たはずなのだ。
......なのに、そうはしなかった。
彼は意地悪な事ばかり言うけれど、根はとても優しい人なのだろう。
仕事でもプライベートでも、泣いている姿を人に見せるのは嫌いだ。
だからいつだってこっそり、一人になってから涙を流してきた。
最後に付き合った恋人に、仕事と自分、どちらが大事かと聞かれた時。
私は迷う事なく、仕事を選んだ。
その結果別れ話になり、吐き捨てるように言われた言葉がこれだ。
『本当に、可愛げのない女だな。
......こんな時でも、涙のひとつも見せないとか』
彼の事は本当に大好きだったし、私だって悲しくなかったワケじゃない。
だけど泣いたりしたら彼を困らせてしまうと思ったから、必死に堪えたのに。
泣かない女が可愛げがないというのならば、感情的にヒステリックに喚き散らしたり、泣いて彼にすがり付けば良かったのだろうか?
しかし例えそんな見苦しい真似をしたところで、結果は変わらなかったはずだ。
......結局彼は、自分が悪者になりたくなかっただけなんじゃないの?
そういう風に冷静に考えてしまう辺り、私はやはり恋愛向きの人間では無いのかもしれない。
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