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第二部
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しおりを挟む「転移魔法だと……エラ嬢がそこまで魔力を高めたとは聞いていないが」
「いえ、いつもは使えません。少々ズルをしましたの」
エラはポケットに入れていた魔法石をイザードに見せた。
「これで一時的に魔力を高めた、ということか。これはエラ嬢が一人で考えたのか?」
「ええ」
「転移魔法は初めて使ったのか?」
「ええっと……」
イザードの強い瞳に見据えられ、エラは言い淀んだ。エラが受けている講義の一番の目的は魔力をコントロールする方法を身に付けることだ。それに付随して基本的な魔法はレクチャーされているが、高度な魔法を使うことは求められていない。反省するまでの謹慎期間のような状況で、それこそ転移魔法などをマスターしてしまえば謹慎の意味が無くなってしまうからだ。
「何だ?」
「使ったのは初めてです……ですがやり方は本で学びました。その、私が無理を言って先生方が手配してくれたのです」
魔法を学び始めたエラは勤勉だった。もっと学びたいと強請れば、講師たちはテキストを用意してくれた。だが、それはイザードの立場からしたらあまり褒められたものではないだろう。
「イザード様!エラを睨まないでくださいませ、怯えています!」
「うっ、いや……」
愛する婚約者に睨まれてしまいイザードはたじろいだ。小さく息を吐いた後でまた口を開く。
「エラ嬢、彼らを罰したりなどしないから安心して欲しい」
「良かった……ありがとうございます」
「君が魔法石の新しい活用方法を考えたり、本で学んだことをすぐ実践できるような優れた魔法使いだと知って少々驚いただけだ。勤勉であることはきっとエラ嬢のこれからを支える筈だ。高度な魔法を学ぶことも、今の君なら心配ないだろう。もっと学べるよう手配しておこう」
「ありが……「エラ、すごいわ!」
エラがお礼を言おうとしている途中でナスタジアがさらに力を込めて抱き締めてきた。
「……お義姉さま、なぜ泣いているのですか」
「だって嬉しいの。エラが勉強を頑張っていることも、講師の方を庇おうとしたことも。あなたが見ない内にあっという間に成長していくことが嬉しくて、少しだけ寂しいの」
潤んだ瞳で義妹を見つめるナスタジアは少し悲しそうに笑った。
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