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第2章 清須景明の悩み

第8話 後見人

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 梅の花が咲く頃、俺は18を迎え、本格的に清須宗家としての仕事を任されることが増えていった。仕事を継ぐにあたっても、清須が運営してる義勇兵ぎゆうへいの養育学校で教えることも出てくるので、大学には行かされた。
 学校や仕事や、会合という名の親戚付き合いなどで、毎日がてんてこ舞いだった。そんなある日、A4の封筒に入った書類を1部、父から手渡された。

「景明。お前、須藤 暁平が遺した遺言状については覚えているか?」
 その質問で俺は渡された書類がなんなのか察しはついた。
「はい、以前そのことで尋ねられ、その遺言状を父上に預けたはずですが、何かありましたか?」
「それの効力について顧問弁護士に相談して、いろいろ調査したが、お前が成人したら、問題なかったようだ。そこにサインすれば、お前が後見人としてを清須に迎え入れられる。書いたら早めに、私か顧問弁護士に提出しろ」
「はい、わかりました」

 父は用件だけ伝えると、去っていった。
 俺は自室の机に向かい、書類に目を通しながら考える。あの子のことを見たのは2回だけ。最初は遠目で見ただけだし、2度目は須藤 暁平殿が亡くなった時で、あの子は平静を装おうと必死なところがあった。
 普段のあの子はどんな子なんだろうか。
 あの子の兄には、何度か一方的に絡まれたことはある。兄には年相応の子供らしさみたいなのはあったが、あの子からは何となく違う雰囲気を感じた。
「とはいえ、あの子にとっては祖父を亡くした時だからなぁ。普段は違うのかなぁ」
 この書類にサインすれば、俺はあの子の保護者となる。あの子の人となりをある程度知っておく必要はあるだろう。
 父か須藤家あそこに出入りしていた使用人に聞いてみるか。
 そんなことを考えながら、書類のサインを終えた。

 書類を提出してからも忙しい毎日は続き、須藤家のことなどに頭を回す余裕もなかった。
 そんな数カ月間がたった頃、後見人としての承認が下りたとの書面が裁判所から届いたと父が興奮気味で、俺に伝えた。
「正直、あの女がごねたらどうしようかと思っていたが、まぁ着飾ることしか考えていない女だからな。書面に目を通すどころか話もろくに聞かずに『難しい話は全部清須に任す』と言ってくれたおかげですんなりいったよ! だが、ごねたところで証拠は握っていたから、後見人の話は揺るがなかっただろうが」
 証拠? 病気がちで床にふせっていることだろうか? それとも書面や土地、財産の管理を怠ってるということだろうか? あるいはその両方か?

 ご機嫌な父を刺激しないように、とりあえず俺は笑顔で受け答えをしておいた。
「なんにせよ、無事に進んで良かったですね」
「あぁ! それと引き取る際は景明、お前1人で行け。心配だったら使用人も連れて行っていい。お前ももうすぐ家を継ぐんだ。それくらい1人でできないとな」
「はい。わかりました」
「あとは、いざ、ごねられた時用に必要なものは使用人を通じて渡しておく。それと行く前に式を飛ばして、迎えに行く日を伝えておくように」
「先祖返り本人に?」
「あぁ。あの女には内密にしたいが、子供とはいえ、本人にも心準備は必要だろう? それに、お前が決めるとはいえ、我が家にとってはお前の婚約者候補でもある。印象は少しでもいい方が良いだろう」
「心得ました、父上」
「では、うまくやれよ」
 俺の肩をポンと景気よく叩き、父は自室へと戻っていった。

 数日後の深夜、大学の課題の片手間に、俺は飛ばす式に書く内容を考えていた。
 印象良く、それでいて術式も書き込むことを考えると、あまり長くないもの。確か、相手の歳は……10歳だったか? どんな内容がいいんだろう。
 そもそも父は、相手のことをと呼んでいて、人扱いをしていない。同じ先祖返りでも、俺は家族だからなのか、俺が生まれた時は大層喜び、いくらか情をかけもらった。もちろん厳しい時もあったが、宗家当主の息子という立場なら、普通だろう。

「悩んでても仕方ない。書くか……」

『須藤 暮羽殿。これを見ているということはきちんと届いたんだろう。3日後の昼に君を迎えに行くから、安心して待っててくれ。最後に自己紹介を。清須 景明だ。よろしく』

 書いてみたが、なんの面白味もない内容になってしまった。でも、これ以上頭を捻ったところで、他に思いつかないだろう。

「仕方ない。これで送るか」

 俺は空白の部分に術式を書き込んで、書いた紙を鳥の形に折ると、窓から飛ばす。鳥の形をした式はパタパタと羽ばたいて行った。
 問題なければ、明日届くだろう。もし、手違いで誰かの手に渡っても、渡った瞬間に焼失するように術式を施しておいた。これであの子の母や、他の者には知られることはないだろう。
 それにしても、俺が迎えに行くのはいいものの、残された家族を父は一体どうするつもりなんだろうか? 父に聞いたところで、意味はないだろう。自分のやりたいようにやる。そういう人だ。

「とりあえず、課題を片付けるか」
 再び机につき、集中して課題を解いていった。

 つづく
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