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第1章 須藤 暁弥の生い立ち
第5話 現れた歌姫
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俺は今、とあるライブステージを見守っていた。しかし、観客ではない。俺の仕事は普段の要人の警護だが、今回はそうではない。同じ建物内で要人の記者会見が行われるので、その要人に危害を加えそうな人物をマークしているのである。
にわかに信じがたいと思うが、このライブステージで全ての視線を奪っている彼女こそが、危険人物なのである。派手なピンク髪に丈の短い黒のドレスが特徴の蝶野 音羽は今話題の歌姫だ。
しかし、彼女はデビュー当初からスキャンダラスな経歴を持っており、枕営業は当たり前で、違法薬物に手を出したとか、他にも詐欺に加担したなど毎日のようにゴシップで騒がせている。まぁ、情報源が怪しいゴシップ雑誌でしかないので、本当かどうかは怪しいのだが。
俺が今、なぜこんなことをしているのかと言うと、俺は妹が亡くなった一件で、俺自身も妖力汚染を受けたらしく、妖退治人としての霊力を失った。
その後は清須の分家に迎え入れてもらい、5年間妖に対処する術を教えてもらいながら、武芸に励んだおかげで、軍部の妖専門部隊、通称・義勇兵として半年ほど前に配属された。義勇兵との名の通り、正式な軍属ではなく極秘に組織された部隊なので、要人の護衛を主だって動いている。
現在ライブスタッフにまぎれて、こうして監視任務を行っているのも、イタズラとも脅し文句とも取れる内容のDMが今回依頼してきた要人のSNSに届いたからである。
『あなたが今から記者会見で行うビルとその周辺でいくつかのイベントがやってるが、その中の主演の誰かがあなたを殺すだろう』
このDMが届いたのが記者会見が始まる予定時刻の1時間半ほど前。IPアドレスをたどって犯人確保するには時間が足りず、結果、俺たち義勇兵が招集されたのである。
「守備はどうだ?」
「清須隊長!」
清須宗家の現当主にして、義勇兵を束ねる隊長の清須 景明殿が俺に笑顔で声をかけてくれた。敬礼をしながら俺は答える。
「今のところ、これといった動きは見られません」
「ならいいが、注意を払っておけ」
「はっ!」
清須隊長は苦笑しつつ声おさえて、俺に助言した。
「あと、それと須藤。こういう時は敬礼はやめておけ。相手にバレる危険性が高くなる」
「も、申し訳ありません」
「俺は他のところもまわってくる。気を抜くなよ?」
「はい!」
俺の気合いの入った返事をきくと、清須隊長は俺の肩をぽんと軽く叩き、そのまま警備へと戻っていく。
予告内容からすると、殺害の実行犯は『イベントの主演』である人物。ライブや舞台の主演、人気ライバーなんかも犯人候補として入るだろう。
現在、イベントと呼ばれる催し物をやっているところは、ここを含めて5箇所。他にも何箇所かあったがそれらは、記者会見中、もしくは会見前後の移動では狙えない場所として、建物の配置などから除外された。
しかし、20歳の俺が言うのもなんだが、俺と同じか歳下に見える彼女が、人を殺すような度胸を持ち合わせてるとは思えない。
とはいえ、俺たち義勇兵が動くということは、少なからず、妖絡みの可能性があるということ。
今のご時世、妖なんておとぎ話となり、見える者も少なくなったが、実際に存在し人を襲うことがあることを俺は身をもって経験している。
科学が発達した現在でも、不審死や行方不明が起きているのは、妖絡みの場合も多い。義勇兵は、そんな一般的な法では裁けないことを片付ける役目として、明治期以降に組織されたものだと聞いた。戦時中は、妖の式神を使った妖術や自身の呪術で、活躍もしたらしいが、現状は先ほど説明した通りである。
俺はずっとライブ会場を監視していたが、何事もなく大歓声とともに歌姫のライブは幕を閉じた。
それからほどなくして記者会見も終わり、両者は接触することなく、その日は終わった。
……かのように思えた。
だが、その日の22時頃。近隣の4箇所のホテル計6室でほぼ同時刻に銃声が鳴り響いた。襲撃されたのは要人の影武者を含め、4人。
隊長の意見で、要人が泊まるホテルをいくつかフェイクとして予約し、隊員たちで待ち伏せていた。当然、要人が使う一室も俺たち義勇兵が敵の襲撃に備え、寝ずに同じ部屋で警護する手はずだったのが、仕事を依頼してきた要人は、
「ホテルの時くらい、1人でくつろぎたい!」
と、ダダをこね、結果、要人を直接護衛する俺を含めた隊員3名は、要人の隣の部屋で待機することとなった。
しかし、銃撃が起きるその数十分前に、秘密にしていた要人のホテルの一室に客人が訪れるのを防犯カメラが収めていた。ピンクの長い髪と、黒い丈の短いドレス姿の女のようだった。
女は15分ほどで部屋を後にし、それから10分から15分ほどで銃声が鳴り響いている。
部屋を出てから銃声が鳴り響くまでの彼女の行動は、そのまますぐにそのホテルの共用トイレにより、5分足らずで廊下に戻っていることから、彼女が指示したとは考えにくく。また有名ライバーで占い師を名乗る男が、紫のハンカチを影武者に手渡した瞬間に銃声が鳴り響いたことから、その男が今回の事件の計画犯とされ、その場で取り押さえられた。
だが、これで事件を解決した訳ではなかった。
つづく
にわかに信じがたいと思うが、このライブステージで全ての視線を奪っている彼女こそが、危険人物なのである。派手なピンク髪に丈の短い黒のドレスが特徴の蝶野 音羽は今話題の歌姫だ。
しかし、彼女はデビュー当初からスキャンダラスな経歴を持っており、枕営業は当たり前で、違法薬物に手を出したとか、他にも詐欺に加担したなど毎日のようにゴシップで騒がせている。まぁ、情報源が怪しいゴシップ雑誌でしかないので、本当かどうかは怪しいのだが。
俺が今、なぜこんなことをしているのかと言うと、俺は妹が亡くなった一件で、俺自身も妖力汚染を受けたらしく、妖退治人としての霊力を失った。
その後は清須の分家に迎え入れてもらい、5年間妖に対処する術を教えてもらいながら、武芸に励んだおかげで、軍部の妖専門部隊、通称・義勇兵として半年ほど前に配属された。義勇兵との名の通り、正式な軍属ではなく極秘に組織された部隊なので、要人の護衛を主だって動いている。
現在ライブスタッフにまぎれて、こうして監視任務を行っているのも、イタズラとも脅し文句とも取れる内容のDMが今回依頼してきた要人のSNSに届いたからである。
『あなたが今から記者会見で行うビルとその周辺でいくつかのイベントがやってるが、その中の主演の誰かがあなたを殺すだろう』
このDMが届いたのが記者会見が始まる予定時刻の1時間半ほど前。IPアドレスをたどって犯人確保するには時間が足りず、結果、俺たち義勇兵が招集されたのである。
「守備はどうだ?」
「清須隊長!」
清須宗家の現当主にして、義勇兵を束ねる隊長の清須 景明殿が俺に笑顔で声をかけてくれた。敬礼をしながら俺は答える。
「今のところ、これといった動きは見られません」
「ならいいが、注意を払っておけ」
「はっ!」
清須隊長は苦笑しつつ声おさえて、俺に助言した。
「あと、それと須藤。こういう時は敬礼はやめておけ。相手にバレる危険性が高くなる」
「も、申し訳ありません」
「俺は他のところもまわってくる。気を抜くなよ?」
「はい!」
俺の気合いの入った返事をきくと、清須隊長は俺の肩をぽんと軽く叩き、そのまま警備へと戻っていく。
予告内容からすると、殺害の実行犯は『イベントの主演』である人物。ライブや舞台の主演、人気ライバーなんかも犯人候補として入るだろう。
現在、イベントと呼ばれる催し物をやっているところは、ここを含めて5箇所。他にも何箇所かあったがそれらは、記者会見中、もしくは会見前後の移動では狙えない場所として、建物の配置などから除外された。
しかし、20歳の俺が言うのもなんだが、俺と同じか歳下に見える彼女が、人を殺すような度胸を持ち合わせてるとは思えない。
とはいえ、俺たち義勇兵が動くということは、少なからず、妖絡みの可能性があるということ。
今のご時世、妖なんておとぎ話となり、見える者も少なくなったが、実際に存在し人を襲うことがあることを俺は身をもって経験している。
科学が発達した現在でも、不審死や行方不明が起きているのは、妖絡みの場合も多い。義勇兵は、そんな一般的な法では裁けないことを片付ける役目として、明治期以降に組織されたものだと聞いた。戦時中は、妖の式神を使った妖術や自身の呪術で、活躍もしたらしいが、現状は先ほど説明した通りである。
俺はずっとライブ会場を監視していたが、何事もなく大歓声とともに歌姫のライブは幕を閉じた。
それからほどなくして記者会見も終わり、両者は接触することなく、その日は終わった。
……かのように思えた。
だが、その日の22時頃。近隣の4箇所のホテル計6室でほぼ同時刻に銃声が鳴り響いた。襲撃されたのは要人の影武者を含め、4人。
隊長の意見で、要人が泊まるホテルをいくつかフェイクとして予約し、隊員たちで待ち伏せていた。当然、要人が使う一室も俺たち義勇兵が敵の襲撃に備え、寝ずに同じ部屋で警護する手はずだったのが、仕事を依頼してきた要人は、
「ホテルの時くらい、1人でくつろぎたい!」
と、ダダをこね、結果、要人を直接護衛する俺を含めた隊員3名は、要人の隣の部屋で待機することとなった。
しかし、銃撃が起きるその数十分前に、秘密にしていた要人のホテルの一室に客人が訪れるのを防犯カメラが収めていた。ピンクの長い髪と、黒い丈の短いドレス姿の女のようだった。
女は15分ほどで部屋を後にし、それから10分から15分ほどで銃声が鳴り響いている。
部屋を出てから銃声が鳴り響くまでの彼女の行動は、そのまますぐにそのホテルの共用トイレにより、5分足らずで廊下に戻っていることから、彼女が指示したとは考えにくく。また有名ライバーで占い師を名乗る男が、紫のハンカチを影武者に手渡した瞬間に銃声が鳴り響いたことから、その男が今回の事件の計画犯とされ、その場で取り押さえられた。
だが、これで事件を解決した訳ではなかった。
つづく
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