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第二章 婚約者編

第十一話 思っていたよりも和やかな生活からの……どきどきの初顔合わせ③

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◇◆◇

「私(わたくし)、ラーマと言います。会えて本当に嬉しいわ。早くお話をしてみたかったのだけれど、中々時間が取れなくて……本当にごめんなさい」

 緊張の面持ちで謁見の間に入室した僕を出迎えてくれた王妃殿下は、僕が思っていたよりもかなり気さくな方だった。しっかりした女性だとは聞いていたが、元々貴族の家柄であるとのことだったから、もう少しきついタイプだと想像していたんだけど、変に気取ったところのないさっぱりとしたといった表現が似合う方だ。

 綺麗な銀色の近い淡い色の髪に、チョコレートのような甘い茶色の大きな目という外見は、フィン様とはあまり似ていないが、雰囲気は似ている。あ、でも笑い方はそっくりかもしれない。

 誰もが目を惹くような派手な美女というわけではないが、知性と愛嬌を感じさせるところがとても魅力的な女性だと思う。

「と、とんでもないことでございます」

「ト、トーマ」

 つい、中々普段使わないようなぎこちない言い回しをしてしまった。フリードリヒ様が、ちょっと戸惑っている。フリードリヒ様にも、ここまでへりくだった言い方はしなかったからね。

 嫌われないようにと思って、持っているあやふやな敬語の知識を総動員した結果だったんだけど、もしかしたらやりすぎだったのかもしれない。小さな声で、フリードリヒ様が「いくらなんでもそこまで丁寧な挨拶はいらないぞ?」と教えてくれる。

(う……逆に、変な風に思われたかな)

「ふふ。トーマは、今後正式にフリードリヒ殿下の王配になられる方なのですから、私(わたくし)にそのような話し方をしなくても良いのよ。もう少し砕けた言い方で構いません」

「は……はぃ」

「母上、いきなりそう言われてすぐに順応できる人間はおりませんよ。彼は今まで貴族階級の人間の暮らしを経験したことはないのですから」

 そう言われても……と、戸惑った結果、かなりか細い声になってしまった僕に、同席してくれたフィン様が少し苦笑しながらも横からそっと助け船を出してくれた。

「あら、でもルーイはすぐに馴染んだわよ?」

は失礼なだけです」

 王妃殿下は、フィン様の様子におかしそうに笑った。勿論、上品に扇で口元を隠してだけれど、どこか揶揄う様な言い方をしたのは、多分ルーイのことをフィン様が嫌っていることを分かっていてあえて言ったんだろうな。フィン様よりも上手といえるその言動は、確かに外交能力という点でとても頼りになりそうだった。

「兄上、ラーマ王妃……ルーイの話はあまり……ですね」

「あら、貴方もう吹っ切ったという話では?」

「……いえ、確かにそう、なんですが……その」

 言いにくそうにしつつも、おずおずと話題を変えようとしたフリードリヒ様にも、王妃殿下は容赦がない。もしかすると、ルーイの件で王妃殿下も何か迷惑をかけられたのかな。

(でも、関係は本当に悪く無さそう。フリードリヒ様は少し遠慮しているようには見えるけど……)

 王妃殿下がフリードリヒ様を見る目は、苦手な相手を見るようなものではなかった。さすがに実子であるフィン様ほどとはいかないだろうけれど、親しみが感じられる。フリードリヒ様も、王妃殿下に対してそういう嫌な感情はなさそうだし……正直言って安心した。

 フリードリヒ様もフィン様も苦虫を噛み潰したみたいな顔してるから、もう少しお手柔らかにとは思うけど。

 僕はちらりと王妃殿下の隣、国王陛下へと視線を向ける。

 五十代中頃くらいの、渋めの美丈夫。そんな言葉が似あう様な外見だ。背格好は筋肉質で、フリードリヒ様よりもがっしりしている。顔立ちはフリードリヒ様とフィン様をそのまま年を取らせた感じかな。ダンディな髭が似合っている。

 確かに愛想はない。というか、言い方はあれだけど鉄仮面みたいな微動だにしないタイプに見える。威圧感もすごいし、これなら確かに近寄りがたいだろうとは思う。

 終始こんな感じだというのなら、外交面で王妃殿下の助けが必要だというのは頷ける。

(ずっと無言だ……)

 睨まれているとか、敵愾心を持たれているわけではないとは思うんだけど、どこかこちらの様子を探っている感がひしひしとする。僕がフリードリヒ様を騙しているかも? とか疑われているのかな。

 フィン様もフリードリヒ様も僕のことは話してくれている筈だし、大丈夫だとは思うんだけど……。
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