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第二章 婚約者編
第九話 まずは婚約者から始めましょう?③
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「……ありがとうございます」
こうして、僕はフリードリヒ様の正式な婚約者になった。
今回の件の詳しい采配に関して、国王陛下からすべて任せるとは言われていたらしいフィン様も、さすがに婚約者と言う話に変わった事を伝える必要はあるとのことで、その日は一旦は帰っていった。僕を屋敷へ迎え入れる準備などもあるからということで、実際に迎えを寄越すのは二、三日はかかるかなと言っていたが……やはりというか少々揉めたらしい。だからこそ、十日もかかったのだ。
娼館の子たちやミネアとじっくりと最後に話せる時間が出来たから、結果的にはそこは幸運だったんだけどね。
それに、むしろ十日で許されたというのは快挙なのかも?
揉めたと言っても外野が煩いのが中心で、意外と王族に近い地位の人たちは受け入れていたらしいんだけどね。彼らがなんで受け入れてくれたのかは分からないけど……、僕を敵視するような人たちだけではないと知ってちょっと安心した。
(まぁ、でも簡単に受け入れられないのは当然だよね。国王陛下やフィン様はともかく、周りの人たちから見たら僕みたいなのを婚約者にするなんて意味が分からないだろうし)
婚約者じゃなくて、素直に嫁入りしていたらもっと色々と言われていたかもしれないので、そういう意味でも今回は婚約したのは大正解なのかも。というか、フリードリヒ様の娼館通いよりも、こっちのほうが問題あるんじゃ……? って思うのは僕だけかな。
受け入れてしまった以上はもう撤回は出来ないから、今更言っても仕方ないんだけれど。
「元気でやりなよ……っ」
「嫌になったら逃げて来ればいいから!」
男娼の子たちは、泣きすぎて化粧がちょっと落ちている。元が可愛いから、それでも全然綺麗なんだけど、ミネアたちはちょっと引いていて笑った。僕がいなくても、多分皆なら男娼の子たちとも仲良くやっていけるとは思うけど、大分タイプが違うからなぁ。はは。
「……トーマ、そろそろ良いか?」
話し込んでいると、少し離れた場所から、遠慮した様子のフリードリヒ様に声をかけられた。
普段よりもきっちりとした正装に身を包んだフリードリヒ様は、普段の少しだけ強面というか俺様な雰囲気が緩和されていてカッコイイ。王太子自ら迎えってどうなんだろうなとは思ったけれど、そうすることでフリードリヒ様が本気なんだと周知させることができるからという理由で、半ば押し切られた結果だ。
「すみません。長く話し込んでしまって……」
「いや、気にするな。本当ならもっと話す時間をやりたいくらいだ」
僕が謝ると、フリードリヒ様は柔らかく笑った。そのまま近寄ってきたフリードリヒ様にそっと頭を撫でられる。準備の期間中に一度だけフリードリヒ様が娼館にお忍びで挨拶に来てくれたんだけど、フリードリヒ様は僕との婚約自体は本当に嬉しかったみたいだ。
秘密で会いに来てくれていたので長い時間は話せなかったんだけど、僕がフィン様に伝えたことをフリードリヒ様も理解はしてくれた。僕が仕事でというくだりはやっぱりちょっとショックだったとは言われてしまったけど……。フィン様、何を思ったか僕の話をそのまま伝えちゃったんだよね。
ちなみに、強引に話を勧めたからということで、当然のごとくフリードリヒ様がフィン様にブチ切れたようで、噂によると現在のフィン様の顔に青あざができているとか……。暴力は良くないとフリードリヒ様には勿論言ったんだけど、フリードリヒ様も見えないところに反撃されたようでおあいこらしい。
ますます、フリードリヒ様のフィン様に対するおとなしい性格という認識に疑問を感じるけど……人それぞれだしね。
「……やはり、もう少し時間を」
「いえ。これ以上、話しても別れが辛くなりますし……大丈夫です。それに、会える時間は今後まだ作れますから」
僕に気を遣うフリードリヒ様の話を遮るように、僕ははっきりと言った。
娼館の外には既にこの時点で人だかりができているのも見える。さすがに敷地内に押し掛けてはこないだろうが、これ以上ここに留まると移動が難しくなる可能性があった。今生の別れというわけではないし、本当に会いたい時に会いたいと言えば、無理のない範囲では会わせてはくれるのだから、これ以上の我儘は言えない。
「……皆、元気で。イシュトさんも……僕にしたような失礼気まわりない無茶ぶりはもうしないでくださいね?」
そう最後にずっと思っていたことをイシュトさんに伝えると、イシュトさんは気まずそうに表情を引き攣らせていた。実際イシュトさんのあの命令は中々にアレなものだったので、万が一を考えて釘をさしておくのは当然の話だ。
ミネアたちにそんな類のことを命令されては困る。多分、大丈夫だろうけど……。僕以外と、イシュトさんの言動にムカついていたんだな。感謝もあるから今までは言わなかっただけで。
うん、やっぱり僕、精神的に昔より強くなってるかもしれない。
「すまない」
小さな声で、イシュトさんが最後に呟くように謝ってくれたから許しちゃうけれど。
「……長い間、ありがとうございました」
アルテミス帝国から共にやって来た友人たち、そして最後にミネアと硬く抱きしめ合った僕は、名残惜しい気持ちを振り払いながら、フリードリヒ様に腰を抱かれて用意された馬車に一緒に乗り込んだ。
こうして僕は、数年間を過ごした娼館を後にした。
こうして、僕はフリードリヒ様の正式な婚約者になった。
今回の件の詳しい采配に関して、国王陛下からすべて任せるとは言われていたらしいフィン様も、さすがに婚約者と言う話に変わった事を伝える必要はあるとのことで、その日は一旦は帰っていった。僕を屋敷へ迎え入れる準備などもあるからということで、実際に迎えを寄越すのは二、三日はかかるかなと言っていたが……やはりというか少々揉めたらしい。だからこそ、十日もかかったのだ。
娼館の子たちやミネアとじっくりと最後に話せる時間が出来たから、結果的にはそこは幸運だったんだけどね。
それに、むしろ十日で許されたというのは快挙なのかも?
揉めたと言っても外野が煩いのが中心で、意外と王族に近い地位の人たちは受け入れていたらしいんだけどね。彼らがなんで受け入れてくれたのかは分からないけど……、僕を敵視するような人たちだけではないと知ってちょっと安心した。
(まぁ、でも簡単に受け入れられないのは当然だよね。国王陛下やフィン様はともかく、周りの人たちから見たら僕みたいなのを婚約者にするなんて意味が分からないだろうし)
婚約者じゃなくて、素直に嫁入りしていたらもっと色々と言われていたかもしれないので、そういう意味でも今回は婚約したのは大正解なのかも。というか、フリードリヒ様の娼館通いよりも、こっちのほうが問題あるんじゃ……? って思うのは僕だけかな。
受け入れてしまった以上はもう撤回は出来ないから、今更言っても仕方ないんだけれど。
「元気でやりなよ……っ」
「嫌になったら逃げて来ればいいから!」
男娼の子たちは、泣きすぎて化粧がちょっと落ちている。元が可愛いから、それでも全然綺麗なんだけど、ミネアたちはちょっと引いていて笑った。僕がいなくても、多分皆なら男娼の子たちとも仲良くやっていけるとは思うけど、大分タイプが違うからなぁ。はは。
「……トーマ、そろそろ良いか?」
話し込んでいると、少し離れた場所から、遠慮した様子のフリードリヒ様に声をかけられた。
普段よりもきっちりとした正装に身を包んだフリードリヒ様は、普段の少しだけ強面というか俺様な雰囲気が緩和されていてカッコイイ。王太子自ら迎えってどうなんだろうなとは思ったけれど、そうすることでフリードリヒ様が本気なんだと周知させることができるからという理由で、半ば押し切られた結果だ。
「すみません。長く話し込んでしまって……」
「いや、気にするな。本当ならもっと話す時間をやりたいくらいだ」
僕が謝ると、フリードリヒ様は柔らかく笑った。そのまま近寄ってきたフリードリヒ様にそっと頭を撫でられる。準備の期間中に一度だけフリードリヒ様が娼館にお忍びで挨拶に来てくれたんだけど、フリードリヒ様は僕との婚約自体は本当に嬉しかったみたいだ。
秘密で会いに来てくれていたので長い時間は話せなかったんだけど、僕がフィン様に伝えたことをフリードリヒ様も理解はしてくれた。僕が仕事でというくだりはやっぱりちょっとショックだったとは言われてしまったけど……。フィン様、何を思ったか僕の話をそのまま伝えちゃったんだよね。
ちなみに、強引に話を勧めたからということで、当然のごとくフリードリヒ様がフィン様にブチ切れたようで、噂によると現在のフィン様の顔に青あざができているとか……。暴力は良くないとフリードリヒ様には勿論言ったんだけど、フリードリヒ様も見えないところに反撃されたようでおあいこらしい。
ますます、フリードリヒ様のフィン様に対するおとなしい性格という認識に疑問を感じるけど……人それぞれだしね。
「……やはり、もう少し時間を」
「いえ。これ以上、話しても別れが辛くなりますし……大丈夫です。それに、会える時間は今後まだ作れますから」
僕に気を遣うフリードリヒ様の話を遮るように、僕ははっきりと言った。
娼館の外には既にこの時点で人だかりができているのも見える。さすがに敷地内に押し掛けてはこないだろうが、これ以上ここに留まると移動が難しくなる可能性があった。今生の別れというわけではないし、本当に会いたい時に会いたいと言えば、無理のない範囲では会わせてはくれるのだから、これ以上の我儘は言えない。
「……皆、元気で。イシュトさんも……僕にしたような失礼気まわりない無茶ぶりはもうしないでくださいね?」
そう最後にずっと思っていたことをイシュトさんに伝えると、イシュトさんは気まずそうに表情を引き攣らせていた。実際イシュトさんのあの命令は中々にアレなものだったので、万が一を考えて釘をさしておくのは当然の話だ。
ミネアたちにそんな類のことを命令されては困る。多分、大丈夫だろうけど……。僕以外と、イシュトさんの言動にムカついていたんだな。感謝もあるから今までは言わなかっただけで。
うん、やっぱり僕、精神的に昔より強くなってるかもしれない。
「すまない」
小さな声で、イシュトさんが最後に呟くように謝ってくれたから許しちゃうけれど。
「……長い間、ありがとうございました」
アルテミス帝国から共にやって来た友人たち、そして最後にミネアと硬く抱きしめ合った僕は、名残惜しい気持ちを振り払いながら、フリードリヒ様に腰を抱かれて用意された馬車に一緒に乗り込んだ。
こうして僕は、数年間を過ごした娼館を後にした。
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