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第一章 出会い編
第五話 フリードリヒ様の過去①
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(何かあったんだろうな……作らなくなった理由が)
そう言われて、いりませんと断れるほど僕も無神経ではない。僕は手の中の櫛をそっと撫でると、にっこりと笑った。
「……大切に使いますね」
そう言うと、フリードリヒ様は「ん」とそっけなく頷いた。少し頬が赤かったのは、多分気のせいじゃないだろう。
フリードリヒ様が娼館へ足を運ぶ間隔は、どんどん短くなって行った。
今では一日おきに娼館へやって来ているのだから、本当に驚きだ。一応立場上、王太子なのにこんなに娼館に来てよいのかな? とは思うのだけれど、どうも現状の政務はすべて現国王陛下がすべて行っているらしく、フリードリヒ様のやるべきことは軍務関係の一部だけとのことだった。
話しぶりから、兵士を束ねる長の立場にフリードリヒ様はいるようだ。戦がない時には、あまりやることがないのだとフリードリヒ様は言うが、本当の所はどうなのかは僕には分からない。
――その日のフリードリヒ様は、少しだけおかしかった。
二言三言話した後に何故か沈黙してしまったフリードリヒ様を前に、僕はどうして良いか分からずオロオロしていた。今までも口数が多い訳では無かったが、ここまで長く無言になったことは最初の頃、口で奉仕する前の時くらいだ。
奉仕させられていた頃でさえもう少し喋っていたので、正直本当に困ってしまう。
(僕が話し上手ならともかく、はっきり言って口下手なので、上手い話題も見つからないし……どうしよう)
そんなことを考えてると、フリードリヒ様がいきなり僕の太腿にごろんと横になった。
「っ……フリードリヒ様」
驚いた僕が、戸惑いながら名前を呼ぶと、フリードリヒ様がからかうような笑みを浮かべていた。悪戯っ子のようなその笑みは、最近フリードリヒ様が僕にするようになった表情で、多分甘えたい時に見せる顔なんだと思う。先ほどまでの無言の時間など、最初からなかったようだ。
「……なんだ。嫌か?」
そう微笑みながら言われてしまうと、僕はもう「どうかしたんですか?」とは聞けない。
勿論、こういう風に甘えられるのが嫌な訳じゃない。思いを寄せている相手からこんな風に甘えられて、嫌なはずもないし、僕は元からこういう風に甘えられることは好きな方だ。
とはいっても、相手からこんな風に優しく甘えられたことはあんまり経験はないけれど……。
「嫌……ではないです。ただ、僕の男ですし……その、硬くないですか?」
さしあたりのない事をとりあえず聞いてみる。
実際、僕の場合、多少鍛えるようになったこともあってガリガリというほどではないけれど、脂肪は間違いなく多いとは言い難いので寝心地について気にはなっていた。女性と比べたら明らかに硬いし、同じ男だったとしても他の男娼の子ならもうちょっと柔らかいと思う。
彼らも太ってはいないけれど、僕よりは見た感じ柔らかそうなんだよね……。僕の場合、中途半端に筋肉がついちゃってるからかもしれないけれど。
「あぁ、まぁ……そうだな。確かに柔らかいとは言い難いが……この男特有の硬さは嫌いじゃない。お前は綺麗な足をしているし」
「あ、ありがとうございます……?」
僕がそう言うと、フリードリヒ様は声をあげて笑った。
(褒められた……よね? 今)
気を使っている様には見えないので、本当に褒めてくれたんだろう。少し、いや、かなり嬉しい。
勘違いや願望ではなく、最近フリードリヒ様はどうやら僕に少しずつ気を許してくれるようになってきているようで、色々な話をしてくれるようになっていた。
(でも、まさか、細工作りが趣味というか特技だったとは知らなかったけど)
あの日に貰った櫛は、勿論大切に使っている。
最初は遠慮していたけれど、そういえば手作りのプレゼントなんて初めて貰ったなと思え返して、今では宝物だ。両親にすら貰ったことはない。元の世界では、手作りのプレゼントと言えば編み物とかになるんだろうけど、僕の父だった人は当然ながら、母だった人も、料理や裁縫があまり得意な人ではなかったから。
(ああ、でも料理も手作りだから……、昔誕生日食べたものは手作りのプレゼントに入るのかも……なんだ意外と、僕も貰っているんだな)
両親の仲が良かったころの、あの僅かな幸せの時間を思い出しながら、僕は遠慮がちにそっとフリードリヒ様の髪を撫でた。フリードリヒ様は、一切嫌がる素振りを見せず、むしろ気持ちよさそうに目を閉じている。
(もしかして……フリードリヒ様は僕にすべてを話してしまいたいのかな……?)
僕はこの世界の人間ではないので、色々なしがらみを持たない。何かが出来るわけじゃないかもしれないけれど、僕に話して楽になるなら、僕はいつても聞くつもりだ。
「……トーマは、俺に何も聞いて来ないんだな」
そう言われて、いりませんと断れるほど僕も無神経ではない。僕は手の中の櫛をそっと撫でると、にっこりと笑った。
「……大切に使いますね」
そう言うと、フリードリヒ様は「ん」とそっけなく頷いた。少し頬が赤かったのは、多分気のせいじゃないだろう。
フリードリヒ様が娼館へ足を運ぶ間隔は、どんどん短くなって行った。
今では一日おきに娼館へやって来ているのだから、本当に驚きだ。一応立場上、王太子なのにこんなに娼館に来てよいのかな? とは思うのだけれど、どうも現状の政務はすべて現国王陛下がすべて行っているらしく、フリードリヒ様のやるべきことは軍務関係の一部だけとのことだった。
話しぶりから、兵士を束ねる長の立場にフリードリヒ様はいるようだ。戦がない時には、あまりやることがないのだとフリードリヒ様は言うが、本当の所はどうなのかは僕には分からない。
――その日のフリードリヒ様は、少しだけおかしかった。
二言三言話した後に何故か沈黙してしまったフリードリヒ様を前に、僕はどうして良いか分からずオロオロしていた。今までも口数が多い訳では無かったが、ここまで長く無言になったことは最初の頃、口で奉仕する前の時くらいだ。
奉仕させられていた頃でさえもう少し喋っていたので、正直本当に困ってしまう。
(僕が話し上手ならともかく、はっきり言って口下手なので、上手い話題も見つからないし……どうしよう)
そんなことを考えてると、フリードリヒ様がいきなり僕の太腿にごろんと横になった。
「っ……フリードリヒ様」
驚いた僕が、戸惑いながら名前を呼ぶと、フリードリヒ様がからかうような笑みを浮かべていた。悪戯っ子のようなその笑みは、最近フリードリヒ様が僕にするようになった表情で、多分甘えたい時に見せる顔なんだと思う。先ほどまでの無言の時間など、最初からなかったようだ。
「……なんだ。嫌か?」
そう微笑みながら言われてしまうと、僕はもう「どうかしたんですか?」とは聞けない。
勿論、こういう風に甘えられるのが嫌な訳じゃない。思いを寄せている相手からこんな風に甘えられて、嫌なはずもないし、僕は元からこういう風に甘えられることは好きな方だ。
とはいっても、相手からこんな風に優しく甘えられたことはあんまり経験はないけれど……。
「嫌……ではないです。ただ、僕の男ですし……その、硬くないですか?」
さしあたりのない事をとりあえず聞いてみる。
実際、僕の場合、多少鍛えるようになったこともあってガリガリというほどではないけれど、脂肪は間違いなく多いとは言い難いので寝心地について気にはなっていた。女性と比べたら明らかに硬いし、同じ男だったとしても他の男娼の子ならもうちょっと柔らかいと思う。
彼らも太ってはいないけれど、僕よりは見た感じ柔らかそうなんだよね……。僕の場合、中途半端に筋肉がついちゃってるからかもしれないけれど。
「あぁ、まぁ……そうだな。確かに柔らかいとは言い難いが……この男特有の硬さは嫌いじゃない。お前は綺麗な足をしているし」
「あ、ありがとうございます……?」
僕がそう言うと、フリードリヒ様は声をあげて笑った。
(褒められた……よね? 今)
気を使っている様には見えないので、本当に褒めてくれたんだろう。少し、いや、かなり嬉しい。
勘違いや願望ではなく、最近フリードリヒ様はどうやら僕に少しずつ気を許してくれるようになってきているようで、色々な話をしてくれるようになっていた。
(でも、まさか、細工作りが趣味というか特技だったとは知らなかったけど)
あの日に貰った櫛は、勿論大切に使っている。
最初は遠慮していたけれど、そういえば手作りのプレゼントなんて初めて貰ったなと思え返して、今では宝物だ。両親にすら貰ったことはない。元の世界では、手作りのプレゼントと言えば編み物とかになるんだろうけど、僕の父だった人は当然ながら、母だった人も、料理や裁縫があまり得意な人ではなかったから。
(ああ、でも料理も手作りだから……、昔誕生日食べたものは手作りのプレゼントに入るのかも……なんだ意外と、僕も貰っているんだな)
両親の仲が良かったころの、あの僅かな幸せの時間を思い出しながら、僕は遠慮がちにそっとフリードリヒ様の髪を撫でた。フリードリヒ様は、一切嫌がる素振りを見せず、むしろ気持ちよさそうに目を閉じている。
(もしかして……フリードリヒ様は僕にすべてを話してしまいたいのかな……?)
僕はこの世界の人間ではないので、色々なしがらみを持たない。何かが出来るわけじゃないかもしれないけれど、僕に話して楽になるなら、僕はいつても聞くつもりだ。
「……トーマは、俺に何も聞いて来ないんだな」
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