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最初は一言、二言だけだったスレイとの会話も、何時しか世間話をするようくらいなっていた。
スレイとの会話は楽しく、特にリューイの知らない土地の話は興味を引くものばかりだった。次第に会話を重ねるうちに、二人の仲は親密になっていった。
彼の露店には数々の果物のドライフルーツが陳列され、スレイとの仲が親密になるにつれ、定期的に買い出しに行くようになっていた。中でもインジルはルヴァインもお気に召したようで、リューイは買い出しに行くと必ずインジルを買い求めに彼の店に立ち寄るようになった。
スレイの露店に行くようになってから二週間が経ったある日のこと。
何時ものように女性客で賑わう店に出向き、インジルを買い求めた。
「スレイ、インジル頼むわ」
「はいはい」
何時も通りの注文に、スレイは微笑みながら陳列されたインジルを手に取っていった。人数分のインジルが詰められた袋を手渡され、リューイはそれを受け取ろうと手を伸ばす。その際、スレイに手を握られた。
「リューイ、大事な話があるんだ……」
「スレイ?」
ぎゅっと手を握られ、真っすぐ見つめられる。今まで見たことないスレイの真剣な瞳に、リューイは首を傾げた。
「ごめんなさい。少し店を空けますね」
そう言いつつ、スレイは他の客に声を掛けながら店を一時閉め、リューイの手を引き路地裏に向かって歩きだした。
「ちょ、スレイ!?」
スレイに手を引かれるまま、リューイは路地裏に連れて行かれた。
「おい、スレイ! 何処まで行くんだよっ」
手を引かれながら、リューイは声を上げる。漸く歩みを止めたスレイの背中を見ながら、リューイは周りを見渡す。
結構奥まで来てしまったな……。
この街は路地裏が迷路のように入り組んでいる。奥に行けば行くほど道が細分化され、見ず知らずの人間が入り込んでしまえば確実に迷うくらいだ。
そんな所まできて、スレイは何をしたいというんだ?
リューイは考えるが、答えは浮かんでこなかった。
「……」
「スレイ?」
無言で背を向けたままのスレイに、リューイは声を掛ける。ゆっくりと振り返った彼は、漸く手を離してくれた。
「ごめん。急に連れ出して」
「いや……」
急に謝られて、虚を突かれる。
本当に彼は何がしたいのだろうか?
そう思っていると、スレイは深呼吸し、リューイの瞳を見つめてきた。
「……好きなんだ、君のことが。僕と付き合って欲しい」
その言葉に、目を見開く。
まさか、彼からそんなことを言われるとは思わなかった。何時から、そんなことを思っていたのだろうか……。だが……。
「……悪い、それは出来ない」
リューイは申し訳なさに俯きながら、彼の告白を断った。
「……理由を聞いても?」
微かに震える声に、「大事な奴がいる」と答える。すると、彼は「そこまで大切な人なのかい?」と訊ねてきた。
「悪い……でも、アイツ以外は嫌なんだ」
そう、顔を上げはっきりと告げる。瞬間、スレイに腕を強く掴まれ引き寄せられた。先祖返りとはいえ、獣人の力には敵わない。抱き寄せられそうになったリューイは、引き寄せられる力を利用し彼の腹に拳を繰り出した。
「グッ」
咄嗟に離された腕を胸元に当て、リューイは蹲った彼が落とした袋を手に取る。痛みに蹲るスレイを見下ろしながら、リューイは言葉を発した。
「俺は、アイツ以外は要らない。アイツがいいんだ」
そう発すると、スレイは顔を上げリューイを見つめた。悲しい表情だった。
それでも、俺の意思は変わらない。ルヴァイン以外は嫌なんだ。
「……そっか」
目を閉じ、スレイは息を吐く。深呼吸をし、ゆっくりと立ち上がった。その際、リューイは一歩後ろに下がる。
「ごめん。自分勝手で軽率な行動だった」
そう謝る彼は、小さく微笑んだ。
「この気持には蓋をする。もう、開けないよ。ただ、友人としてはいさせて欲しい」
そう話す彼は、頭を下げてきた。リューイは悩み、考える。
「……二人きりになるとか、そういったのも無しだからな」
「誓うよ」
顔を上げたスレイは、もう何時もと変らない営業スマイルを浮べていた。
そんな彼に、リューイは小さく微笑み、背を向けた。
何時も以上に買い物に時間をかけてしまった。きっと皆、心配している。
そう思いながら、路地裏を後にした。
スレイとの会話は楽しく、特にリューイの知らない土地の話は興味を引くものばかりだった。次第に会話を重ねるうちに、二人の仲は親密になっていった。
彼の露店には数々の果物のドライフルーツが陳列され、スレイとの仲が親密になるにつれ、定期的に買い出しに行くようになっていた。中でもインジルはルヴァインもお気に召したようで、リューイは買い出しに行くと必ずインジルを買い求めに彼の店に立ち寄るようになった。
スレイの露店に行くようになってから二週間が経ったある日のこと。
何時ものように女性客で賑わう店に出向き、インジルを買い求めた。
「スレイ、インジル頼むわ」
「はいはい」
何時も通りの注文に、スレイは微笑みながら陳列されたインジルを手に取っていった。人数分のインジルが詰められた袋を手渡され、リューイはそれを受け取ろうと手を伸ばす。その際、スレイに手を握られた。
「リューイ、大事な話があるんだ……」
「スレイ?」
ぎゅっと手を握られ、真っすぐ見つめられる。今まで見たことないスレイの真剣な瞳に、リューイは首を傾げた。
「ごめんなさい。少し店を空けますね」
そう言いつつ、スレイは他の客に声を掛けながら店を一時閉め、リューイの手を引き路地裏に向かって歩きだした。
「ちょ、スレイ!?」
スレイに手を引かれるまま、リューイは路地裏に連れて行かれた。
「おい、スレイ! 何処まで行くんだよっ」
手を引かれながら、リューイは声を上げる。漸く歩みを止めたスレイの背中を見ながら、リューイは周りを見渡す。
結構奥まで来てしまったな……。
この街は路地裏が迷路のように入り組んでいる。奥に行けば行くほど道が細分化され、見ず知らずの人間が入り込んでしまえば確実に迷うくらいだ。
そんな所まできて、スレイは何をしたいというんだ?
リューイは考えるが、答えは浮かんでこなかった。
「……」
「スレイ?」
無言で背を向けたままのスレイに、リューイは声を掛ける。ゆっくりと振り返った彼は、漸く手を離してくれた。
「ごめん。急に連れ出して」
「いや……」
急に謝られて、虚を突かれる。
本当に彼は何がしたいのだろうか?
そう思っていると、スレイは深呼吸し、リューイの瞳を見つめてきた。
「……好きなんだ、君のことが。僕と付き合って欲しい」
その言葉に、目を見開く。
まさか、彼からそんなことを言われるとは思わなかった。何時から、そんなことを思っていたのだろうか……。だが……。
「……悪い、それは出来ない」
リューイは申し訳なさに俯きながら、彼の告白を断った。
「……理由を聞いても?」
微かに震える声に、「大事な奴がいる」と答える。すると、彼は「そこまで大切な人なのかい?」と訊ねてきた。
「悪い……でも、アイツ以外は嫌なんだ」
そう、顔を上げはっきりと告げる。瞬間、スレイに腕を強く掴まれ引き寄せられた。先祖返りとはいえ、獣人の力には敵わない。抱き寄せられそうになったリューイは、引き寄せられる力を利用し彼の腹に拳を繰り出した。
「グッ」
咄嗟に離された腕を胸元に当て、リューイは蹲った彼が落とした袋を手に取る。痛みに蹲るスレイを見下ろしながら、リューイは言葉を発した。
「俺は、アイツ以外は要らない。アイツがいいんだ」
そう発すると、スレイは顔を上げリューイを見つめた。悲しい表情だった。
それでも、俺の意思は変わらない。ルヴァイン以外は嫌なんだ。
「……そっか」
目を閉じ、スレイは息を吐く。深呼吸をし、ゆっくりと立ち上がった。その際、リューイは一歩後ろに下がる。
「ごめん。自分勝手で軽率な行動だった」
そう謝る彼は、小さく微笑んだ。
「この気持には蓋をする。もう、開けないよ。ただ、友人としてはいさせて欲しい」
そう話す彼は、頭を下げてきた。リューイは悩み、考える。
「……二人きりになるとか、そういったのも無しだからな」
「誓うよ」
顔を上げたスレイは、もう何時もと変らない営業スマイルを浮べていた。
そんな彼に、リューイは小さく微笑み、背を向けた。
何時も以上に買い物に時間をかけてしまった。きっと皆、心配している。
そう思いながら、路地裏を後にした。
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