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第八話

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「…同行させていただきます。」

「ありがとう!ヴィルム王子の準備が整ったら、出発しよう!」

王子の姿を見て咄嗟に噛み跡を手で隠し返事をする。すると王子はベッドに腰掛ける僕の空いている方の手を握りしめた。見目麗しい王子にこんなことをされたら、大抵の姫君は恋に落ちるだろう。そして側室になったオメガが何人いるのだろうか。そう考えると、この人はなんて罪な男なのだろう。

「では、殿下の準備が整うまで私が王子のお相手をいたしますので、手を離してください。」

「束縛する男は嫌われるぞ。
それよりもヴィルム王子、首を抑えているが痛むのか?」

王子が揶揄う様にアーシュに言った後、僕を心配気に見つめる。
うん。やはり、この人は罪な男だ。ハイスペックな上に人タラシなんて、天は二物も三物も与えたのか。
そんな事を思いつつ寝不足でぼんやりする頭で必死に言い訳を考える。そしたらなんと、奇跡的に閃いた。

「あの、寝違えてしまいました。明日には良くなっていると思いますので、お気遣いありがとうございます。」

「そうなのか。大事ではないなら良かった。私は一階の客間に居るので準備ができたらそちらに来てくれ。」

「分かりました。すぐに準備して伺います。」

「ありがとう。じゃあ、私達は行こうか。」

「ちょっと、王子お待ちください。」

王子は僕に微笑みかけ、僕の手を離す。そのままアーシュの肩に腕を回し強引にアーシュを連れ出す。
あの二人の距離がやたら近い気がするのは気のせいだろうか?
僕は抑えていた手で噛み跡をそっと撫でる。そこの腫れは引いたのかピリピリした痛みは感じなかった。

* * *

「お待たせしました。」

準備を整え客間に向かうと、優雅に紅茶を飲んでいる王子と、眉間に青筋をたてたアーシュが目に入る。アーシュが感情を表に出すなんて珍しい。

「それでは行こうか。私の馬車でいいかな?」

「もちろんです。」

「フィリアス卿、君は王城でお留守番だよ。」

馬車に向かおうとした時、向かいに座っている王子からそう告げられたアーシュの目が据わる。

「私は殿下の」

「番だろ?昨晩何度も聞いたから知っている。でも、あくまでなら、君に配慮する必要はない。」

アーシュの言葉を王子が遮る。その内容を聞き疑問が生まれる。
昨晩?僕を部屋に送った後、アーシュは王子と一緒にいたのか?

「お言葉ですが、側室の件を陛下が許可するまではら殿下の番候補は私です。なので他のアルファあなたと二人きりにする訳にはいきません。」

「流石になし崩し的に事を運ぶつもりはないが。嫉妬深い男はみっともないぞ。それにヴィルム王子は君と同じ意見とは限らない。
ヴィルム王子は、フィリアス卿が一緒の方がいいのかい?」

アーシュが言い負かされるなんて珍しい。
王子は淡々とアーシュに返すのとは対照的に僕には優しく聞いてくる。僕の回答は聞かれるまでもなく決まっている。昨晩はアーシュに邪魔されたのだ。折角の機会をみすみす逃す訳にはいかない。

「折角なら王子とゆっくりお話ししたいので、フィリアス卿は居ない方が私は良いかと思います。」

「ということだ、フィリアス卿。君にはエステート王と私の面会の調整という大事な仕事があるから、それを全うする様に。」

「…分かりました。」

僕の返事を聞き、アーシュの顔から表情が消え王子の指示に静かに頷く。

「じゃあ、ヴィルム王子行こうか。」

王子は姫君にする様に僕の腰に手を回しエスコートする。
昨晩、二人の間にどういったやりとりがあったのかは分からないが、王子が僕に興味を持ったというのは何となく察した。
僕は何としても王子の心を掴むのだと覚悟を決めた。







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