500 / 700
第二十八章
消防車は呼ぼう
しおりを挟む
試合は久しぶりにアローズの攻めの局面を迎えていた。起点はボナザさんのゴールキックだ。彼女がボールをセットするとDF陣はいつもの様にラインを上げた。GKのキックをハーピィが跳ね返しFWに繋いでも、ラインの向こうに残った選手がオフサイドになる状態にする為だ。
しかしあのミノタウロス戦から数ヶ月経ちアローズがこのシステムで戦う事も5試合を越えた。その意図を十分に理解したハーピィチームのFWたちはオフサイドポジションに取り残されないよう、エルフ達のDFラインを追走した。
「お、追いかけっこですね!」
ところが。アリスさんが興奮し、最近ではも単純にオフサイドが取りにくくなっているな……と俺が嘆く最中に、ルーナさんが反転して自陣ゴール方向へ戻りボナザさんはハーフエルフめがけて短いパスを送った。
『ぴよ?』
スワッグがたまにやるみたいな感じで鳥乙女達が首を傾げる先で、ルーナさんは完全にフリーの状態でパスを受ける。
「ナイス! まあ贅沢言えば受ける前から半身になって前を向ける状態でトラップして欲しかったなあ」
俺はだまし討ちの一つが上手く行って笑顔になるのを隠すように、敢えて厳しい事を言った。今のルーナさんはボールの軌道に対して真正面から、お臍を向けて受けに行った。フットサルであったり中央の選手であったりすればそれも一つの手だが、彼女のポジションであれば俺の言った様な受け方を覚えて欲しい所だ。
てかルーナさんみたいに身体能力が高い選手はそういう所が雑になりがちなんだよなあ。
「そうするとどうなるんですか、ショーキチ先生?」
アリスさんは実際に体を半身にして俺に向けて構えながら問う。
「相手のプレスを受けずに次のプレーへ移れるんですよ。あと背中で相手を防ぎながらだと選択肢も狭まりますけど、前を向けばパスもドリブルも全方向へ選べますし。って誰も来てませんけどね」
悠長にそう解説できる程に、間があった。なんとハーピィチームの誰もルーナさんの元へ行っていないのである!
「ほんとだ! なんか独りで可哀想ですね」
そういうのに敏感そうな学校の先生がぽつりと呟く。確かにアローズで唯一、人間の父親を持つエルフはぼっちであった。何故ならハーピィチームの誰もルーナさんの元へ行っていないのである!
「まあ可哀想なのはどっちだ? って話でもありますが」
燃えさかる家をバックに消防車はまだか!? と叫ぶアフロの漫画を思い出して俺は言った。アレは傍観者効果によって火事を見ても誰も消防車を呼んでいない悲劇を描いたモノだが、それはサッカーにおいてもしばしば起こる。誰かがシュートブロックへ走っていれば、あの得点は防げたのに……みたいに。
ましてここは異世界でいま行われているのはサッカードウ。アローズ以外で相手DFへ厚いプレスをかけるチームはぼぼいないし、ルーナさんの様な存在――ライナー性のボールを最後尾から最前線へ蹴り飛ばせる――をフリーにする危険性を認知している選手も監督も少ない。
なので、ルーナさんは余裕をもってパスコースを探し俺の期待通りの事をした。つまり、エルフの繊細さと人間のパワーを持った左足を振り抜き、弾丸シュートの様なパスを前線へ送ったのだ。
「うわ、避けて!」
心優しい教師が届くはずのない助言を送る。だが彼女が心配するまでもなく、ルーナさんのレーザービームの様なパスに触れられるハーピィはいなかった。
鳥乙女たちは空中戦が得意だ。誰かが宙へ蹴り上げたボールを自身も宙へ飛び上がりながらトラップし、落下する前にまたパスする事さえできる。だからもし、ルーナさんのキックの弾道が山形の――モンテディオではない。やまなり、中央が高い緩やかな曲線の形だ――ものであれば、彼女らの誰かがパスカットに成功しただろう。ちょうど練習で俺が手を使ってキャッチしたみたいに。
しかし彼女が蹴ったボールは僅かな高度と凄い速度でフィールドを横切った。それでもなんとか触れようとしたハーピィDFの足の羽毛を吹き飛ばすほどの勢いで。
それほどのパスは、やはり受け手を選ぶものだ。ティアさんはいける。何故か仲の良い逆サイドのSBは、ルーナさんのパスの癖を知っている。しかし彼女はまだDFラインにいる。レイさんもいける。あのファンタジスタは魔法の様に回転をかけて、暴れ馬の様なパスを手懐けてしまう。だが彼女は交代で下がっている。
では誰がそのボールを受けたのか? それは自分が脚光を浴びる瞬間を虎視眈々と狙っているあのエルフ娘であった。
『待ってたよーっ!』
エオンさんは余裕でルーナさんの殺人パスを太股の外側でトラップし、足下へ落とした。
『そうじゃない! むしろ……お待たせみんなーっ!』
いや余裕でトラップしたどころではない。メインスタンドに自分のレプリカユニフォームを着たファンか自分向けの旗でも見つけたのか、そちらを向いて手を振る。
『どこを見てる……? あっ!』
その様子を見たハーピィのSBがそちらを向き、直後に横をすり抜けられバランスを崩す。
「ああ、ホーム限定の『あっちむいてホイ』か」
俺も騙された今の動きは特訓中の視線を利用したフェイントだったのだ。ゴールや対面するDFとは90度以上違う方向へ目をやって相手の集中が切れた瞬間にドリブルで抜き去る。なまじ首の稼働域が広いハーピィだけに見てしまったのだろう。
『本当のアイドル……見せてあげるっ!』
エオンさんはそこから加速し、単純なスピードでカバーにきたCBをぶち抜いた。彼女は選手としてはリーシャさんとレイさんの間くらいにいる。背番号11並のスピードと、14に匹敵するテクニックを持っているのだ。
「あとはGK……!」
俺は祈るように両手を併せて呟く。抜群の才能を持つがボールを貰う為の動きをあまりしないアタッカーは、逆にその分ゴールに近い位置にいた。SBとCBを外すだけでもうゴール前GKと一対一だ。
「いけーっ!」
アリスさんは俺と対照的に飛び上がって叫ぶ。他にも何百名何千名の観衆の声を背に、エオンさんは右足を振った。
しかしあのミノタウロス戦から数ヶ月経ちアローズがこのシステムで戦う事も5試合を越えた。その意図を十分に理解したハーピィチームのFWたちはオフサイドポジションに取り残されないよう、エルフ達のDFラインを追走した。
「お、追いかけっこですね!」
ところが。アリスさんが興奮し、最近ではも単純にオフサイドが取りにくくなっているな……と俺が嘆く最中に、ルーナさんが反転して自陣ゴール方向へ戻りボナザさんはハーフエルフめがけて短いパスを送った。
『ぴよ?』
スワッグがたまにやるみたいな感じで鳥乙女達が首を傾げる先で、ルーナさんは完全にフリーの状態でパスを受ける。
「ナイス! まあ贅沢言えば受ける前から半身になって前を向ける状態でトラップして欲しかったなあ」
俺はだまし討ちの一つが上手く行って笑顔になるのを隠すように、敢えて厳しい事を言った。今のルーナさんはボールの軌道に対して真正面から、お臍を向けて受けに行った。フットサルであったり中央の選手であったりすればそれも一つの手だが、彼女のポジションであれば俺の言った様な受け方を覚えて欲しい所だ。
てかルーナさんみたいに身体能力が高い選手はそういう所が雑になりがちなんだよなあ。
「そうするとどうなるんですか、ショーキチ先生?」
アリスさんは実際に体を半身にして俺に向けて構えながら問う。
「相手のプレスを受けずに次のプレーへ移れるんですよ。あと背中で相手を防ぎながらだと選択肢も狭まりますけど、前を向けばパスもドリブルも全方向へ選べますし。って誰も来てませんけどね」
悠長にそう解説できる程に、間があった。なんとハーピィチームの誰もルーナさんの元へ行っていないのである!
「ほんとだ! なんか独りで可哀想ですね」
そういうのに敏感そうな学校の先生がぽつりと呟く。確かにアローズで唯一、人間の父親を持つエルフはぼっちであった。何故ならハーピィチームの誰もルーナさんの元へ行っていないのである!
「まあ可哀想なのはどっちだ? って話でもありますが」
燃えさかる家をバックに消防車はまだか!? と叫ぶアフロの漫画を思い出して俺は言った。アレは傍観者効果によって火事を見ても誰も消防車を呼んでいない悲劇を描いたモノだが、それはサッカーにおいてもしばしば起こる。誰かがシュートブロックへ走っていれば、あの得点は防げたのに……みたいに。
ましてここは異世界でいま行われているのはサッカードウ。アローズ以外で相手DFへ厚いプレスをかけるチームはぼぼいないし、ルーナさんの様な存在――ライナー性のボールを最後尾から最前線へ蹴り飛ばせる――をフリーにする危険性を認知している選手も監督も少ない。
なので、ルーナさんは余裕をもってパスコースを探し俺の期待通りの事をした。つまり、エルフの繊細さと人間のパワーを持った左足を振り抜き、弾丸シュートの様なパスを前線へ送ったのだ。
「うわ、避けて!」
心優しい教師が届くはずのない助言を送る。だが彼女が心配するまでもなく、ルーナさんのレーザービームの様なパスに触れられるハーピィはいなかった。
鳥乙女たちは空中戦が得意だ。誰かが宙へ蹴り上げたボールを自身も宙へ飛び上がりながらトラップし、落下する前にまたパスする事さえできる。だからもし、ルーナさんのキックの弾道が山形の――モンテディオではない。やまなり、中央が高い緩やかな曲線の形だ――ものであれば、彼女らの誰かがパスカットに成功しただろう。ちょうど練習で俺が手を使ってキャッチしたみたいに。
しかし彼女が蹴ったボールは僅かな高度と凄い速度でフィールドを横切った。それでもなんとか触れようとしたハーピィDFの足の羽毛を吹き飛ばすほどの勢いで。
それほどのパスは、やはり受け手を選ぶものだ。ティアさんはいける。何故か仲の良い逆サイドのSBは、ルーナさんのパスの癖を知っている。しかし彼女はまだDFラインにいる。レイさんもいける。あのファンタジスタは魔法の様に回転をかけて、暴れ馬の様なパスを手懐けてしまう。だが彼女は交代で下がっている。
では誰がそのボールを受けたのか? それは自分が脚光を浴びる瞬間を虎視眈々と狙っているあのエルフ娘であった。
『待ってたよーっ!』
エオンさんは余裕でルーナさんの殺人パスを太股の外側でトラップし、足下へ落とした。
『そうじゃない! むしろ……お待たせみんなーっ!』
いや余裕でトラップしたどころではない。メインスタンドに自分のレプリカユニフォームを着たファンか自分向けの旗でも見つけたのか、そちらを向いて手を振る。
『どこを見てる……? あっ!』
その様子を見たハーピィのSBがそちらを向き、直後に横をすり抜けられバランスを崩す。
「ああ、ホーム限定の『あっちむいてホイ』か」
俺も騙された今の動きは特訓中の視線を利用したフェイントだったのだ。ゴールや対面するDFとは90度以上違う方向へ目をやって相手の集中が切れた瞬間にドリブルで抜き去る。なまじ首の稼働域が広いハーピィだけに見てしまったのだろう。
『本当のアイドル……見せてあげるっ!』
エオンさんはそこから加速し、単純なスピードでカバーにきたCBをぶち抜いた。彼女は選手としてはリーシャさんとレイさんの間くらいにいる。背番号11並のスピードと、14に匹敵するテクニックを持っているのだ。
「あとはGK……!」
俺は祈るように両手を併せて呟く。抜群の才能を持つがボールを貰う為の動きをあまりしないアタッカーは、逆にその分ゴールに近い位置にいた。SBとCBを外すだけでもうゴール前GKと一対一だ。
「いけーっ!」
アリスさんは俺と対照的に飛び上がって叫ぶ。他にも何百名何千名の観衆の声を背に、エオンさんは右足を振った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる