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第二十四章

昼食会場での惨劇

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 決定的な出来事は、昼食時に起きた。場所は朝食と同じ宴会場。居残り練習をしているルーナさんとジノリコーチ、別のVIP部屋で仕事をしているダリオさん以外が揃っている状況。治療士に見て貰って元気を取り戻したか勢い良く食事をしていたユイノさんが、唐突に……

 吐いた。いま食べたモノを豪快に。

「きゃあ!」
 ユイノさんの嘔吐物は同じテーブルで食事をしていたシノメさん、エルエル、そしてリーシャさんの皿の上に派手に飛び散った。
「ちょっとユイノ、大丈夫!?」
 他のエルフが驚いて立ち上がったり呆然と固まったりする中、リーシャさんだけは怯まず青い顔の親友に駈け寄り、まだ液体を漏らす口をナプキンで覆ってやる。
「すみません、誰かホテルの方と治療士を!」
 俺も素早く立ち上がり、周囲を見渡し叫ぶ。そしてその一連の動きの中で、また一つ見たくない光景を目にする。
「ヨン! ケアフル!?!」
 テーブルによりかかりながらユイノさんの姿を見ていたヨンさんが、よろめきながら同じ様に吐いたのだ。
 これは貰いゲロってやつか?
「う……ごめんなの!」
 そんな事を考えている間も、ツンカさんがヨンさんへ近寄る傍らでエオンさんがテーブルの下へ潜り込み何か叫んだ。それに続くのは液体が撒かれるような音。
 恐らく、エオンさんも机の下で嘔吐している! ただ彼女はその姿を他者に見せたくなかったのだろう。完璧でも究極でもないが絶対的なアイドル様だ。
「とにかく、体調が悪い者を医療室へ……」
「待ってくださいストップ! 全員、一歩も動かないで!」 
 俺は手を上げナリンさんを止め、スタジアムで指示を出す時以上の声で叫んだ。
「ショーキチ殿? しかし……」
「病人にも彼女らが触れたモノにもさわっちゃ駄目です!」
 これは貰いゲロどころではない。恐らく集団食中毒とかノロウィルスとか、それに類するものかもしれない。そうだとすると……。
「下手に近寄ると二次災害を起こします。一度、体調不良者と大丈夫な者を分けましょう。皆さん、自分の体調に正直に! 胃かお腹に不安がある方は北側へ、問題が無い方は南側へ」
 俺はそれぞれの方向を指さし、続ける。
「リーシャさん、君はどのみち触れてしまったので南側へ。動き難い方を助けてあげて下さい」
 その言葉を聞いて、リーシャさんが力なく笑った。
「まあ、どっちにしても私も北だけどね」
「え?」
「さっきから少し目眩がする」
 なんてこったあのリーシャさんですら不調を訴えるか。
「すまない、無理だったらよいから」
「無理とは言ってない」
 彼女はそう言うとまずユイノさんを部屋の北端へ連れて行き、次にテーブルの下からエオンさんを連れ出した。
「監督は大丈夫なのか?」
「ええ。ザックコーチも?」
 俺は不安げなミノタウロスと互いの状態を確認し、頷きあった。その間に移動が終わり、だいたいの状況が分かった。
 体調不良者はユイノ、リーシャ、エオン、ツンカ、エルエル、シノメ、ヨン。大丈夫だったのはマイラ、アイラ、ガニア、ボナザ、リスト、クエン、ティア、シャマー、アガサ、タッキ。そしてコーチ陣。
 ルーナさんとジノリコーチはまだ来ないが恐らく大丈夫だろう。
「食べ物に当たったという事なのかい?」
 ニャイアーコーチが耳を神経質に動かしながら聞いてきた。
「恐らく発端はそうでしょう。面子を見る限り、その後は接触があった者同士で感染だと思いますが」
 殆どが分かり易く同室同士だ。例外的にヨンさんと同室のタッキさんは無事の様だが、彼女はモンクでもあるし何か内孔などで病魔を退治しているのかもしれない。
「次はどうするっすか?」
 周囲をキョロキョロ見渡すサオリさんと対照的に、アカリさんは俺の方を真っ直ぐ見ながら問う。
「ホテルにお願いして新しく部屋をとって、病エルフを隔離しましょう。あと消毒……て概念の説明は難しいな。度数の高いアルコールで良いのかな? 大量に酒と清潔な布を用意して貰って下さい」
「りょ、了解! 私らが言ってくる!」
 俺の言葉を聞いたアカサオが飛ぶようにして部屋を出た。
「おっと、前方注意」
「ごめんっす!」
 滑らかに衝突を避けたゴルルグ族と入れ替えに、ルーナさんとジノリコーチが昼食会場へやってきた。
「どうしたのじゃ? みんな?」
「お昼終わっちゃった?」
 ジノリコーチとルーナさんは訳が分からない、といった顔で周囲を見渡す。
「どう説明したものか……。あ、お二方は体調大丈夫ですか?」
「うん、絶好調。まだ周期でもないし」
「ワシも好調じゃぞい! 例の『カレー』ってヤツなら3皿でも平らげられそうじゃ!」
 ハーフエルフは赤裸々に、ドワーフは快活に笑ってそう応えた。いやジノリコーチ、このタイミングでカレーの話しは辞めてくれ。
 ん? カレー?
「あ、やべ! もしかしてみんな……お腹の方もヤバイ感じ?」
 俺は少し思い当たって、ツンカさんに訊ねた。
「イエス……XYZ……」
 目に涙を溜めたツンカさんが頷く。XYZ……『もう後がない』か!?
「ナリンさんニャイアーコーチ! ここから最も近いトイレを確保して隔離して、元気なみんなは誘導路を作って下さい!」
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