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第十一章
どーおなんだー?
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「おっとステフ選手、手を伸ばすが……とれない!」
ステフは自分で実況しながらしばしその用紙を追ったが、やはり届かずダーゲットは意外なほど遠く、ピッチの中まで逃げた。
「みんな! 踏んで転ばないように!」
ナリンさんが心配して叫ぶ。それらの風景を見て、俺は何か奇妙に繋がるものを感じた。
「ドーム、ゾワゾワ感、風、巨人、とれない……まさかな……」
あまりにも滑稽無糖な想像だ。だが俺の周囲には地球では滑稽無糖としか言えないエルフやドワーフや魔法がゴロゴロしている。笑われるのを覚悟で、調べてみる必要があるかもしれない。俺は思わず声を上げた。
「ステフ、ジノリコーチとニャイアーコーチとアカサオを呼んでくれ!」
「おおい、呼んできたぞう」
ステフが俺の依頼した二名を連れてきた時、俺はナリンさんにいくつかの映像を見せて説明していた。
「たぶん……ドームランだ」
「何っ、ホームランダー!? あのスーパーマンに似てるけど本性が下種なヒーローがどうした?」
ステフさん、俺の世界のゲームやコミックに寄せる関心の半分でもサッカーに向けてくれないかな……。
「ボーイズじゃなくてジャイアンツだよ! ってこのツッコミも意味不明だな。来てくれてありがとうございます。順を追って話します」
俺は映像とステフへの対応を一度、脇へ置いて残りのジノリコーチ、ニャイアーコーチ、アカサオの方を向いた。
「えっと、俺の世界には相手選手の投げたボールを木のワンド? スタッフ? で打って遠くに飛ばす『野球』ってスポーツがあるんです。サッカードウとはだいぶ毛色の違う競技ですけど、ここと同じような球技場で試合をしまして」
「相手が投げたものを打ち返す!? アタシ、それ得意そう! 昔、オオタニサンって二刀流の投げナイフの達人と勝負した時さ……」
「でその試合場には『空調装置』てのがあって風を送って中を涼しくしたり暖かくしたり気圧を保ったりしてるんですが、一部では『それを使って自分のチームに有利な風を送っているんじゃないか?』って噂……と言うか根拠のない陰謀論がありましてね」
ステフを無視して話を続けたが、話を聞き続けた他の3名もこの説明がどこへ辿り着くのか分からない、といった顔をしていた。
「つまり、ドワーフ代表も芝生への送風装置を使って自分たちに有利な風を送るつもりじゃないかと思ったんです。それを調べたい」
俺は空気を察してとっとと結論を述べた。
「そんな事ができるものなのか?」
「そうじゃ! ドワーフ代表がそんな事する筈無い! それにそんな操作、審判団も選手も気づかない筈がなかろう。ピッチ内では魔法も停止されるじゃろ!」
「そもそも自分で『陰謀論』て言ったすよね?」
ニャイアーコーチ、ジノリコーチ、アカリさんがそれぞれに疑問を述べる。
「『陰謀論』と言ったのは、地球の技術ではそれが難しそうだし、いくらなんでもそこまでは……と自分も思うからです。でもこの街の建造物や機器を見て、ドワーフの技術なら不可能ではないかもな? と」
俺はサンア・ラモで見た様々な風景を思い出しながら言った。ドワーフ達の人間離れした鍛冶石工技術、そして魔法。それらが生み出す創造物はある分野では地球を凌駕している。
「審判や選手が気づくかどうかについては、風を起こす場所によりますね。地上ではなく空中、でもドラゴンさんが鎮座するほどではない位置に吹かせれば良いですから。あとひょっとしたら送風装置そのものには魔法が関係するかもしれませんが、ピッチの中へ届く風そのものは魔法ではない」
例えば俺が貰って船で使っているオール。あれには風の精霊シルフが封じ込まれており彼女が直接、空気を送り出している。だからもしあのオールを試合中のピッチの中へ持ち込んでも、機能しないだろう。
だがおそらくだがドワーフの送風装置はグランド付近ではなくスタジアムの内部にある。もう少し正確に言えば建築物に組み込まれている筈だ。スタジアムの部屋や廊下では魔法を使う事ができるのは経験済みだし、建築に組み込まれた魔法まで停止しはしていないだろう。
「もちろん、ドワーフ代表がそのような手を使う筈がないというジノリコーチの気持ちも分かります。と言うかジノリコーチがいれば止めていたでしょう。しかし……」
今やジノリコーチはエルフ代表のスタッフだ。ドワーフも、彼女が在籍していた頃はやっていなかっただろう。いやもしかしたら彼女を失った事が、この手段へ手を染める切っ掛けになったのかもしれない。
「あとこれを見て下さい。アカサオが潜入して撮ってくれた、つい先日の練習風景です」
俺は魔法の手鏡を皆に向けて映像が見えるように操作した。その動画の中ではドワーフ代表が人間のアマチュアチームを相手に、丹念にセンタリングへの対応を練習していた。
「これは……!」
ニャイアーコーチが驚きの声を漏らした。ゴブリンチームが昇格した事で最下位は脱したが、ドワーフは1部リーグにおいて平均身長で最も劣るチームの一つだ。そのチームが練習とは言え、高身長の選手を集めた相手に非常に上手く競り勝っていた。
少し……出来過ぎなくらいに。
ステフは自分で実況しながらしばしその用紙を追ったが、やはり届かずダーゲットは意外なほど遠く、ピッチの中まで逃げた。
「みんな! 踏んで転ばないように!」
ナリンさんが心配して叫ぶ。それらの風景を見て、俺は何か奇妙に繋がるものを感じた。
「ドーム、ゾワゾワ感、風、巨人、とれない……まさかな……」
あまりにも滑稽無糖な想像だ。だが俺の周囲には地球では滑稽無糖としか言えないエルフやドワーフや魔法がゴロゴロしている。笑われるのを覚悟で、調べてみる必要があるかもしれない。俺は思わず声を上げた。
「ステフ、ジノリコーチとニャイアーコーチとアカサオを呼んでくれ!」
「おおい、呼んできたぞう」
ステフが俺の依頼した二名を連れてきた時、俺はナリンさんにいくつかの映像を見せて説明していた。
「たぶん……ドームランだ」
「何っ、ホームランダー!? あのスーパーマンに似てるけど本性が下種なヒーローがどうした?」
ステフさん、俺の世界のゲームやコミックに寄せる関心の半分でもサッカーに向けてくれないかな……。
「ボーイズじゃなくてジャイアンツだよ! ってこのツッコミも意味不明だな。来てくれてありがとうございます。順を追って話します」
俺は映像とステフへの対応を一度、脇へ置いて残りのジノリコーチ、ニャイアーコーチ、アカサオの方を向いた。
「えっと、俺の世界には相手選手の投げたボールを木のワンド? スタッフ? で打って遠くに飛ばす『野球』ってスポーツがあるんです。サッカードウとはだいぶ毛色の違う競技ですけど、ここと同じような球技場で試合をしまして」
「相手が投げたものを打ち返す!? アタシ、それ得意そう! 昔、オオタニサンって二刀流の投げナイフの達人と勝負した時さ……」
「でその試合場には『空調装置』てのがあって風を送って中を涼しくしたり暖かくしたり気圧を保ったりしてるんですが、一部では『それを使って自分のチームに有利な風を送っているんじゃないか?』って噂……と言うか根拠のない陰謀論がありましてね」
ステフを無視して話を続けたが、話を聞き続けた他の3名もこの説明がどこへ辿り着くのか分からない、といった顔をしていた。
「つまり、ドワーフ代表も芝生への送風装置を使って自分たちに有利な風を送るつもりじゃないかと思ったんです。それを調べたい」
俺は空気を察してとっとと結論を述べた。
「そんな事ができるものなのか?」
「そうじゃ! ドワーフ代表がそんな事する筈無い! それにそんな操作、審判団も選手も気づかない筈がなかろう。ピッチ内では魔法も停止されるじゃろ!」
「そもそも自分で『陰謀論』て言ったすよね?」
ニャイアーコーチ、ジノリコーチ、アカリさんがそれぞれに疑問を述べる。
「『陰謀論』と言ったのは、地球の技術ではそれが難しそうだし、いくらなんでもそこまでは……と自分も思うからです。でもこの街の建造物や機器を見て、ドワーフの技術なら不可能ではないかもな? と」
俺はサンア・ラモで見た様々な風景を思い出しながら言った。ドワーフ達の人間離れした鍛冶石工技術、そして魔法。それらが生み出す創造物はある分野では地球を凌駕している。
「審判や選手が気づくかどうかについては、風を起こす場所によりますね。地上ではなく空中、でもドラゴンさんが鎮座するほどではない位置に吹かせれば良いですから。あとひょっとしたら送風装置そのものには魔法が関係するかもしれませんが、ピッチの中へ届く風そのものは魔法ではない」
例えば俺が貰って船で使っているオール。あれには風の精霊シルフが封じ込まれており彼女が直接、空気を送り出している。だからもしあのオールを試合中のピッチの中へ持ち込んでも、機能しないだろう。
だがおそらくだがドワーフの送風装置はグランド付近ではなくスタジアムの内部にある。もう少し正確に言えば建築物に組み込まれている筈だ。スタジアムの部屋や廊下では魔法を使う事ができるのは経験済みだし、建築に組み込まれた魔法まで停止しはしていないだろう。
「もちろん、ドワーフ代表がそのような手を使う筈がないというジノリコーチの気持ちも分かります。と言うかジノリコーチがいれば止めていたでしょう。しかし……」
今やジノリコーチはエルフ代表のスタッフだ。ドワーフも、彼女が在籍していた頃はやっていなかっただろう。いやもしかしたら彼女を失った事が、この手段へ手を染める切っ掛けになったのかもしれない。
「あとこれを見て下さい。アカサオが潜入して撮ってくれた、つい先日の練習風景です」
俺は魔法の手鏡を皆に向けて映像が見えるように操作した。その動画の中ではドワーフ代表が人間のアマチュアチームを相手に、丹念にセンタリングへの対応を練習していた。
「これは……!」
ニャイアーコーチが驚きの声を漏らした。ゴブリンチームが昇格した事で最下位は脱したが、ドワーフは1部リーグにおいて平均身長で最も劣るチームの一つだ。そのチームが練習とは言え、高身長の選手を集めた相手に非常に上手く競り勝っていた。
少し……出来過ぎなくらいに。
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