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第七章

部屋とワイシャツと私たち

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「シャマーさん?」
 俺は恐る恐る取っ手を引っ張る。中からは所々破れた薄いドレスに鎖を巻き付けた、いや、巻き付けられたシャマーさんの姿があった。
「なにしてはるんすか?」
「それはこっちの台詞よ! こんな時間に若い女の子をベッドに誘い込んで! あ、レイちゃんだったの!?」
 『こんな時間に』って部分はそっくりそのまま返したかったが、それよりもレイさんの行動の方が早かった。
「シャマーねえさん!? これはこれである面ではステキやけど大変ちゃうん? 今、助けるで!」
 彼女はそう言いながら駆け寄り、シャマーさんが鎖と引き出しから這い出るのに手を貸す。
「シャマーねえさん大丈夫なん? この、ところどころ身体に食い込んでええ感じにエッチな雰囲気を出してる鎖はどうしたん?」
「これは瞬間移動の魔法が封じ込められたアイテムで、本来は俺が緊急の用事で王城へ移動する時に使うものなんだ」
 レイさんの多少、説明的過ぎながらも正直な言葉には俺が応える。
「へえ、そうなん?」
「そうなんだけど、なんでシャマーさんがこれを使ってここに来たんですか?」
 俺は言葉の途中からシャマーさんへ向けて言った。
「だって城のもこれも作って調整したのは私だもの。魔法でちょちょいと辿れば楽勝よ」
 シャマーさんは服が破けて半分以上露出した胸を叩いて威張った。
「そう言えば城の防衛魔法とかも担当していましたよね。いや、そっちじゃなくてですね!」
 なんで、が『何故why』ではなく『どのようにしてhow』として伝わったのは翻訳アミュレットの動作かそれともシャマーさんのオツムの加減か。
「どういうつもりで瞬間移動してきたんですか? って意味です」
「そりゃあショーちゃんの寝室に入り込みたかったからよ」
「あ、分かる~!」
 分かるなや! と突っ込む気力もない俺の横で、レイさんが嬉しそうにシャマーさんと握手を交わす。
「はぁ……。じゃあ入り込めて良かったですね。では目標も達成したところで」
「えーっ!?」
 すかさず抗議の声を挙げようとする二名を手で制する。
「待って。俺が『とっとと寮に帰って寝て下さい』て言うと『もう暗いから森を歩いて帰るのは怖い。ここで寝かせろ』て応えるんでしょ? 分かってますよ、俺は客間で寝るのでお二方はここで寝て下さい」
 俺が言葉を続けると両者はいちいちウンウンと頷いていたが、最後まで言い切った所でレイさんがやや怪訝な顔になった。
「異論は全く無いところなんやけど、ショーキチ兄さんやけに聞き分け良くない?」
 ぎく! 既にアイラさんマイラさん姉妹で経験しているから、とはとてもじゃないが言えない。
「そういう日もあるだろ。じゃあ、お休み」
「待って!」
 追及を避けようと背を向け歩き出した俺にレイさんから声が飛んだ。
「なっ何?」
「何か寝間着かして」
「はあ?」
 俺が振り返るとレイさんはシャマーさんの破れた服の裾を引っ張っていた。
「シャマーねえさん、こんな格好では寝られへんやろ? ウチかってムラムラしてどうなるか分からへんし」
 見るとシャマーさんは恥じらうかのようにレイさんの向こうへ身体を隠した。今更かい!
「分かったよ。何か探す」
 俺は方向を変え、寝室の中にあるクローゼットの方へ向かった。
「二名分やで!」
「分かってるって!」
 レイさんに背を向けたまま応える。
『やったでシャマーねえさん! 彼シャツでお泊まりやで!』
『彼シャ……何?』
 背後で両者が騒いでいるのを感じるが、無視して適当な、楽な衣服を何着か取り出す。
「はい、どうぞ。起きたらクラブハウスの用具室に出して。そこで洗濯してくれるから。シャマーさん用の服も貰えると思う」
「ありがとう!」
 俺が明日の指示をしながら手渡すと、レイさんは早速こちらに背を向け着替えを始めた。俺も慌てて背を向け残りをシャマーさんに預ける。
「レイさん、着替えは俺が出てってからで! シャマーさんも」
「うん、ありがとうショーちゃん」
 受け取ったシャマーさんはレイさんが自分たちの方を見てないのを確認すると、そっと俺の耳に唇を寄せて言った。
『さっきの様子だと味見、してないのね』
『するわけないだろ!』
 アイラさんマイラさんの事だろう。してたまるか! シャマーさんを睨みつけようとするが、彼女が意外なほど少女っぽい表情で笑っていたので俺は気勢を削がれてしまった。
『なんなんすか?』
『ううん。色々とありがとう、おやすみ』
 シャマーさんはそう言うと素早く俺の頬にキスをし、レイさんと同じように着替えを始める。その姿、というかその方向を見ながら何か言う訳にはいかない。
「明日は起きたら声をかけずに出ますから!」
 何故だろうか、レイさんとシャマーさんが絡むと毎回こんな感じになるな? 不思議に思いながらも、俺はそれだけ言って部屋を出た。
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