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第七章
巣に絡み取られた蝶
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ナリンさんから貰ったリストを魔法のランタンで照らしながら読みふける間に、俺は自分の家へ着いた。普段であれば仕事を持ち帰らないようナリンさんに厳しく監視されているが、今回は食堂の騒乱に上手く隠れた形だ。
「引退に転職に結婚にで5名が辞退か……。カイヤさん以外にも産休のエルフがいたのは意外だなあ」
俺は寝室まで上がり、ランタンを置いて家の方の明かりを付ける。壁に描かれた紋章に手を触れると、閉じこめられたウィスプが目を覚ますという仕組みだ。
「へー産休二名もおるん? おめでたい話やね」
「まあね。お祝いすべき事だよね……て、えっ!?」
ベッドまで歩き腰掛けよう、とした所で背後から声がした。そこには驚く俺を不思議そうに小首を傾げて眺めるレイさんがいた。
「えっ!? いつの間に? まったく気づかなかった……」
「まあウチ、ナイトエルフでその上、サッカー選手やし。気配消すのは上手い方ちゃうかな」
レイさんは俺の横をすり抜けベッドの上に身を投げ出しながら言った。
「てか何で俺の家まで!?」
「だって、将来の二人の愛の巣を見ておきたいやん? 何人くらい住めるんかな、って」
そう言って部屋中を眺め回していたレイさんだが、ふと俺と視線を絡めて声のトーンを変えた。
「それとも今すぐ愛の巣にしてしまう? 産休ひとり増やす?」
「しません! ちょっと、足でつつかない!」
俺はレイさんの意味ありげな目つきに気づかないフリをしながら、俺の腰辺りに延びた彼女の足を触り過ぎないように払った。
「ふーん、ホンマに卒業までてー出さへんつもりなんや? それはそれで男らしいけど」
卒業までどころか一生、手を出さずにいるのが理想だよ! 俺は上体を起こしケラケラ笑うレイさんに、しかしその一言は言えずにいた。
「じゃあそこまではいいわ。代わりにいつものをここで、ショーキチ兄さんの部屋で、して?」
「は?」
レイさんはキスを求める時の合言葉を口にし、すっと両腕を前に伸ばして続ける。
「ウチ、昨日も今日も慣れへんエルフの国でめっちゃ頑張ったと思うねんなー。それに明日はポリンと学校見学やし。エネルギー補給、要ると思わへん?」
それはまあ、約束ではそうだった。レイさんが疲れている時で、他に誰もいない時。彼女には色々背負わせているし、そういう場合なら励ます意味での、その、友人としての「頑張れー!」て意味のキスならば致し方なし、と決めていた。
そう、条件は揃っている。しかし別の条件も揃ってしまっている。仕事が終わった後の夜。俺の寝室のベッドの上。レイさんが、ああいう表情で誘っている。
ここでそういう事をして二人は、いや、俺は止められるのだろうか? そしてそれはやってしまって良い事なのだろうか?
「なあ。早く」
そして俺は彼女の事をどう思っているのだろうか?
「レイさん……」
考えがまとまらないまま、俺はベッドの上に膝を着き彼女の上に覆い被さる。
「なあ、今日は激しく……して」
「いてーーー!!」
突然、背後の机から轟音と叫び声がした。
「え? なんなん!?」
レイさんの見つめる方向には激しい光を放ちながらパンパンに膨れ上がった机の引き出しがあり、中で何かがモゾモゾと動いている気配がする。
「まさか……ドラえもん!?」
「なにそれ? ショーキチ兄さんの世界の化け物?」
まあその疑問はもっともだな。だが俺が返事の口を開くより先に、引き出しから声がした。
「もう、ショーちゃん! なんて所に魔法の鎖を置いているのよ!」
その声、その知識、何よりもその呼び方に心当たりがあった。
「引退に転職に結婚にで5名が辞退か……。カイヤさん以外にも産休のエルフがいたのは意外だなあ」
俺は寝室まで上がり、ランタンを置いて家の方の明かりを付ける。壁に描かれた紋章に手を触れると、閉じこめられたウィスプが目を覚ますという仕組みだ。
「へー産休二名もおるん? おめでたい話やね」
「まあね。お祝いすべき事だよね……て、えっ!?」
ベッドまで歩き腰掛けよう、とした所で背後から声がした。そこには驚く俺を不思議そうに小首を傾げて眺めるレイさんがいた。
「えっ!? いつの間に? まったく気づかなかった……」
「まあウチ、ナイトエルフでその上、サッカー選手やし。気配消すのは上手い方ちゃうかな」
レイさんは俺の横をすり抜けベッドの上に身を投げ出しながら言った。
「てか何で俺の家まで!?」
「だって、将来の二人の愛の巣を見ておきたいやん? 何人くらい住めるんかな、って」
そう言って部屋中を眺め回していたレイさんだが、ふと俺と視線を絡めて声のトーンを変えた。
「それとも今すぐ愛の巣にしてしまう? 産休ひとり増やす?」
「しません! ちょっと、足でつつかない!」
俺はレイさんの意味ありげな目つきに気づかないフリをしながら、俺の腰辺りに延びた彼女の足を触り過ぎないように払った。
「ふーん、ホンマに卒業までてー出さへんつもりなんや? それはそれで男らしいけど」
卒業までどころか一生、手を出さずにいるのが理想だよ! 俺は上体を起こしケラケラ笑うレイさんに、しかしその一言は言えずにいた。
「じゃあそこまではいいわ。代わりにいつものをここで、ショーキチ兄さんの部屋で、して?」
「は?」
レイさんはキスを求める時の合言葉を口にし、すっと両腕を前に伸ばして続ける。
「ウチ、昨日も今日も慣れへんエルフの国でめっちゃ頑張ったと思うねんなー。それに明日はポリンと学校見学やし。エネルギー補給、要ると思わへん?」
それはまあ、約束ではそうだった。レイさんが疲れている時で、他に誰もいない時。彼女には色々背負わせているし、そういう場合なら励ます意味での、その、友人としての「頑張れー!」て意味のキスならば致し方なし、と決めていた。
そう、条件は揃っている。しかし別の条件も揃ってしまっている。仕事が終わった後の夜。俺の寝室のベッドの上。レイさんが、ああいう表情で誘っている。
ここでそういう事をして二人は、いや、俺は止められるのだろうか? そしてそれはやってしまって良い事なのだろうか?
「なあ。早く」
そして俺は彼女の事をどう思っているのだろうか?
「レイさん……」
考えがまとまらないまま、俺はベッドの上に膝を着き彼女の上に覆い被さる。
「なあ、今日は激しく……して」
「いてーーー!!」
突然、背後の机から轟音と叫び声がした。
「え? なんなん!?」
レイさんの見つめる方向には激しい光を放ちながらパンパンに膨れ上がった机の引き出しがあり、中で何かがモゾモゾと動いている気配がする。
「まさか……ドラえもん!?」
「なにそれ? ショーキチ兄さんの世界の化け物?」
まあその疑問はもっともだな。だが俺が返事の口を開くより先に、引き出しから声がした。
「もう、ショーちゃん! なんて所に魔法の鎖を置いているのよ!」
その声、その知識、何よりもその呼び方に心当たりがあった。
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