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リトールの町へ3

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 あれから数日が経ち、かなりの数のルームシューズが出来上がった。それをお母様が作ったカゴに詰める。あわよくばこのカゴも売るつもりだ。
 そして木箱も作ってもらい野菜や果実などの収穫物をいくらか詰める。テックノン王国のニコライさんに品質を確かめてもらい、将来的に定期購入してもらうためだ。リトールの町まではどうしても夜営をして行かなければいけないので、いつもより少し早めに収穫したのだがそれでも美味しそうな収穫物を見て自然と笑顔になってしまう。
 さらにはヒイラギ特製のリバーシも荷車に載せる。蓋には『蓮』とも『葉』とも見れる私たちを示すマークも彫ってもらい、プレゼントのラッピングのように紐で十字に縛る。これは金貨五枚で売る予定だが、先にあちらが大金貨と言ったら言い値で売るつもりだ。

「じゃあそろそろ行きましょうか」

 今回のメンバーは私、じいや、そしてイチビたち仲良し四人組である。私たち六人はお母様たちが作った布で作られた新しい服に身を包み、麦わら帽子をかぶっている。
 綿繰り機の別の使い方を思い出した私は湿らせた麦の茎を綿繰り機で潰し、それを真田編みにする。麦稈真田と呼ばれるものだ。その紐状に編まれた麦稈真田をグルグルと巻きながら縫い上げ帽子の形にする。
 水路建設の者たちに帽子の代わりにカゴを作ったお母様には「もっと早く思い出してくれたら良かったのに」と言われもしたが、元々森の民が作る帽子は聞く限りチューリップハットのようなものらしく、この麦わら帽子はあご紐も付けたので民たちに大好評だった。私たちが出かけている間に子どもたちに麦稈真田を作ってもらうこととなり、編み方の種類はたくさんあるが『四菱』と呼ばれる編み方を付きっきりで教えこんだ。

 さすがに今回はテックノン王国との取引があるのでお父様も行くとは言ったが、何かあった場合に民を守る為にと説得しお父様はいつものように水路建設をすることとなった。
 今回は『アレ』が納品される予定なので、タデには石臼を作ってもらうように頼み、さらにヒイラギの木工の技術との合作も頼んだ。ヒイラギには足踏み式の織機の設計図も渡してある。
 二人にこんなにたくさん頼んだのには訳がある。おババさんの占いによると今回も帰りが遅くなるらしいのだ。ただ『成功』『仲間』との言葉が降りてきたらしく、今回も危険はなさそうだ。

「ではみんな!作業が大変でしょうけど頑張ってね!行ってくるわ!」

 朝食後に全国民に見送られ、私たちはまず北を目指す。どんどんと広がる森には木を伐採した道が作られているので道なりに進む。クローバーや雑草たちが地表に生えた為、砂に足を取られることもなく足に負担もかからず足取り軽く進むことが出来た。驚くべきことに北の山の麓まで草は生い茂っていた。さらには綿状の種を飛ばす植物なのか、クローバーの中に紛れている植物が山の岩肌の窪みにも生え始めていた。殺風景だったただの岩の山は少しずつ生命力を感じさせる山となってきた。

「あ!」

 ハマスゲが叫ぶのでそちらを見ると空を見上げている。その視線の先を辿ると、なんと鳥が優雅に大空を飛んでいた。今までこの土地で鳥は見たことがない。きっと山を越えて来たのだろう。

「……あれは食べられるのかしら?」

「姫様……」

 思ったことを口にすれば、その昔に見慣れたであろう生物を見て感動していたじいやたちは苦笑いやなんとも言えない表情をしている。どうやら食べられないようだ。

「あら?雨が降りそうじゃない?」

 全員が立ち止まり大空を泳ぐように羽ばたく鳥を見ていたが、その向こう側には雨雲のようなものが見える。深夜に雨が降った形跡は今まであったが、今降られるのは売り物に影響が出そうなので困る。

「急ぎましょう」

 私たちが向かう先はまだ青空が広がっている。私は荷車に載せられ、大人たちは足早に歩を進めた。

────

 翌日、無事に国境へと辿り着いた。むしろ雨よりも砂嵐の被害が大変ではあったが、商品も傷付くこともなく怪我人も出なかったのは不幸中の幸いだろう。

「おーい!ジェイソン!」

 じいやが国境で大声を出せば、すぐに門は開かれた。扉が開くとそこには待っていましたと言わんばかりのジェイソンさんがにこやかに立っていたが、じいやを見て一瞬驚いた顔をする。

「あぁ先生!驚きましたよ!毛が生えて奇抜な髪型にしたのかと思いました!」

 じいやのかぶっている麦わら帽子を見て、冗談なのか本気なのか分からない発言をするジェイソンさんに対し、じいやはニコニコと微笑みながら近付いた。
 感動の再会になるのかと私たちは見守っていたが、じいやは身体をひねり高速でジェイソンさんの鳩尾を狙いボディーブローを叩き込んだ。ジェイソンさんは白目を剥きその場に崩れ落ち、ピクリとも動かなくなってしまった。

「さぁ姫様参りましょうぞ」

 何事もなかったかのように笑顔で話すじいやが恐ろしく、私たちや国境警備の人たちはガタガタと震えが止まらなくなってしまった。
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