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織物職人カレン
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朝食を終えると私を呼ぶ声が聞こえる。
「姫!こっち!」
声の主を探せば、ヒイラギが森の近くで手招きしている。その声に導かれるように向かえば、満面の笑みのヒイラギが口を開く。
「見て。このリバーシだったら金貨一枚で買えないでしょ?」
はい、と手渡されたリバーシは蓋が付いていて、それを開ける為に近くの丸太の上に置く。そっと蓋を開ければ盤面は外枠部分に独自の模様が彫られ、コマを入れる部分に見事に収まっているコマは四角形だが全部の角が丸く整えられている。コマを一枚手にして見れば、以前はただのバツ印を彫ったものだったがこれには絵のようなものが彫られている。
「この王国を象徴するものを彫ったんだ。表が種を表していて、裏が葉っぱだよ」
「すごいすごい!何これすごい!」
親指と人差し指で摘んだコマを手首をひねりながら表裏を確認する。ヒイラギは自慢気に微笑んでいる。確かに盤面もコマも文句の付けようがない。だけれど、もうひと工夫がほしいと思った私は蓋に注目する。
「……ねぇヒイラギ。お父様の『モクレン』もお母様の『レンゲ』も『スイレン』も、共通する『レン』というのは私が住んでいた国では『ハス』という花のことなの。その『ハス』を題材としたものを蓋に彫らない?」
近くに置いてあった黒板を手にし、空いているスペースにデフォルメ化した横から見たハスの花を描く。
「不思議な花だね」
隣で見ていたヒイラギはそう感想を漏らす。
「きっとこの世界のどこかにもあるわよ。それでね、このハス……レンだけだと、私たち家族しか表さないでしょう?この花の形をそのままに、こう筋を入れれば……」
そう言いながら花弁の部分に葉脈を描き足す。
「『レン』の花の形はそのままに、でも葉に似せれば……私たち家族と森の民を示すと思わない?」
隣にいるヒイラギに視線を投げかければ、ヒイラギも良いと思ってくれたのかやる気に満ち溢れた目で私を見る。
「蓋に彫れば良いのですね。お任せあれ」
仰々しく頭を垂れるヒイラギに笑いが込み上げると、ヒイラギもまた笑い出す。
「と、その前に。織機も作ったから確認して」
こっち、と呼ばれ着いて行くと、新たに作られた机に織機は置かれていた。まだ糸は張られていないが、軽く触れてみた感じだとどこも問題はない。
「みんなを呼んだほうがいいかしら?」
そう聞けばヒイラギが女性陣を呼びに行ってくれた。集まってきた女性陣はみんなワクワクとした表情で、お母様が代表して「早く教えて」と言っている。いくつかの糸の束を用意し、私は口を開く。
「経糸を張るのが一番大変なのよね……私が糸を張っている間、誰かにこれをお願いしてもいいかしら?」
シャトルこと杼に緯糸となる糸を巻くと「私がやるよ」とナズナさんが私の手から杼を受け取る。そのまま私は織機の奥側の部分に糸を固定する。
「みんなの布の織り方と基本的に一緒よ」
そう呟きながら綜絖に糸を通す。横に長い綜絖の溝の部分に一本ずつ糸を通す。これが面倒なのだが、今日は幅の短い布を織るのである程度糸を通すだけにする。奥から綜絖を通した糸を手前にある溝に真っ直ぐに引っ掛ける。この部分は布が出来たら巻いていけるようになっている。
「よし、出来た。あとはみんなと同じく織るだけよ」
経糸は綜絖のおかげで一本おきに上下に分かれ隙間が出来ている。杼をその隙間に通す。そうしたら綜絖をひねるように動かす。そのように作ってもらった仕組みのおかげで、綜絖に刻まれた溝の上下に分かれていた糸が逆になるのだ。そしてまた杼を通す。たまに櫛で糸と糸の間に隙間がないようにキュッと締める。布が出来てきたら奥側の経糸を巻いている部分を緩め、手前の経糸を引っ掛けている部分を巻いていけば糸がある限り織れるのだ。
「……と、まぁこんな感じよ。座って作業が出来るし、手しか使わないから楽でしょう?糸を染めれば模様も入れられるし、どんどんいろんな物が作れるわ」
みんなが使っている腰機はある程度布が織れたらお尻をずって前に移動していく。その移動の手間がないしお尻も汚れないのだ。これには女性陣が大いに喜んでいた。私が頼んだタイプの綜絖は溝に糸を通すだけの簡単なものだ。いろいろなタイプがあるが、穴に糸を通すタイプは面倒なのでこのタイプを頼んだが、どうやらこれで正解だったようだ。
そして横に大きいサイズで作ってもらったので、全ての溝に経糸を張れば腰機と同じくらいの幅の布が織れるのだ。
私にとっては慣れたものなので、すぐに一枚の布が出来上がる。
「この布をぞうりの鼻緒にしましょう」
最初からそのつもりで織っていたが、セリさんを中心としたわらじ作りチームの人たちに「もったいない!」と騒がれてしまった。さらに布を織るとなんとか説得し、腰機を使っていた人を一人この織機を使ってもらうようにして新しいわらじ作りが始まった。この鼻緒が布で出来ているわらじもリトールの町で売るつもりだ。
もちろん手間がかかっている分、値段は吊り上げるけれどね。
「姫!こっち!」
声の主を探せば、ヒイラギが森の近くで手招きしている。その声に導かれるように向かえば、満面の笑みのヒイラギが口を開く。
「見て。このリバーシだったら金貨一枚で買えないでしょ?」
はい、と手渡されたリバーシは蓋が付いていて、それを開ける為に近くの丸太の上に置く。そっと蓋を開ければ盤面は外枠部分に独自の模様が彫られ、コマを入れる部分に見事に収まっているコマは四角形だが全部の角が丸く整えられている。コマを一枚手にして見れば、以前はただのバツ印を彫ったものだったがこれには絵のようなものが彫られている。
「この王国を象徴するものを彫ったんだ。表が種を表していて、裏が葉っぱだよ」
「すごいすごい!何これすごい!」
親指と人差し指で摘んだコマを手首をひねりながら表裏を確認する。ヒイラギは自慢気に微笑んでいる。確かに盤面もコマも文句の付けようがない。だけれど、もうひと工夫がほしいと思った私は蓋に注目する。
「……ねぇヒイラギ。お父様の『モクレン』もお母様の『レンゲ』も『スイレン』も、共通する『レン』というのは私が住んでいた国では『ハス』という花のことなの。その『ハス』を題材としたものを蓋に彫らない?」
近くに置いてあった黒板を手にし、空いているスペースにデフォルメ化した横から見たハスの花を描く。
「不思議な花だね」
隣で見ていたヒイラギはそう感想を漏らす。
「きっとこの世界のどこかにもあるわよ。それでね、このハス……レンだけだと、私たち家族しか表さないでしょう?この花の形をそのままに、こう筋を入れれば……」
そう言いながら花弁の部分に葉脈を描き足す。
「『レン』の花の形はそのままに、でも葉に似せれば……私たち家族と森の民を示すと思わない?」
隣にいるヒイラギに視線を投げかければ、ヒイラギも良いと思ってくれたのかやる気に満ち溢れた目で私を見る。
「蓋に彫れば良いのですね。お任せあれ」
仰々しく頭を垂れるヒイラギに笑いが込み上げると、ヒイラギもまた笑い出す。
「と、その前に。織機も作ったから確認して」
こっち、と呼ばれ着いて行くと、新たに作られた机に織機は置かれていた。まだ糸は張られていないが、軽く触れてみた感じだとどこも問題はない。
「みんなを呼んだほうがいいかしら?」
そう聞けばヒイラギが女性陣を呼びに行ってくれた。集まってきた女性陣はみんなワクワクとした表情で、お母様が代表して「早く教えて」と言っている。いくつかの糸の束を用意し、私は口を開く。
「経糸を張るのが一番大変なのよね……私が糸を張っている間、誰かにこれをお願いしてもいいかしら?」
シャトルこと杼に緯糸となる糸を巻くと「私がやるよ」とナズナさんが私の手から杼を受け取る。そのまま私は織機の奥側の部分に糸を固定する。
「みんなの布の織り方と基本的に一緒よ」
そう呟きながら綜絖に糸を通す。横に長い綜絖の溝の部分に一本ずつ糸を通す。これが面倒なのだが、今日は幅の短い布を織るのである程度糸を通すだけにする。奥から綜絖を通した糸を手前にある溝に真っ直ぐに引っ掛ける。この部分は布が出来たら巻いていけるようになっている。
「よし、出来た。あとはみんなと同じく織るだけよ」
経糸は綜絖のおかげで一本おきに上下に分かれ隙間が出来ている。杼をその隙間に通す。そうしたら綜絖をひねるように動かす。そのように作ってもらった仕組みのおかげで、綜絖に刻まれた溝の上下に分かれていた糸が逆になるのだ。そしてまた杼を通す。たまに櫛で糸と糸の間に隙間がないようにキュッと締める。布が出来てきたら奥側の経糸を巻いている部分を緩め、手前の経糸を引っ掛けている部分を巻いていけば糸がある限り織れるのだ。
「……と、まぁこんな感じよ。座って作業が出来るし、手しか使わないから楽でしょう?糸を染めれば模様も入れられるし、どんどんいろんな物が作れるわ」
みんなが使っている腰機はある程度布が織れたらお尻をずって前に移動していく。その移動の手間がないしお尻も汚れないのだ。これには女性陣が大いに喜んでいた。私が頼んだタイプの綜絖は溝に糸を通すだけの簡単なものだ。いろいろなタイプがあるが、穴に糸を通すタイプは面倒なのでこのタイプを頼んだが、どうやらこれで正解だったようだ。
そして横に大きいサイズで作ってもらったので、全ての溝に経糸を張れば腰機と同じくらいの幅の布が織れるのだ。
私にとっては慣れたものなので、すぐに一枚の布が出来上がる。
「この布をぞうりの鼻緒にしましょう」
最初からそのつもりで織っていたが、セリさんを中心としたわらじ作りチームの人たちに「もったいない!」と騒がれてしまった。さらに布を織るとなんとか説得し、腰機を使っていた人を一人この織機を使ってもらうようにして新しいわらじ作りが始まった。この鼻緒が布で出来ているわらじもリトールの町で売るつもりだ。
もちろん手間がかかっている分、値段は吊り上げるけれどね。
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