種族【半神】な俺は異世界でも普通に暮らしたい

穂高稲穂

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1巻

1-2

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 あれから何度かモンスターに襲われ、その都度魔法で対処していたら、夜が明けるころには魔法の扱いにもだいぶ慣れてきた。
 太陽に照らされて街道を歩いていると、前方から馬車がやってくるのが見えた。
 いわゆる幌馬車ほろばしゃというやつで、多分商人なのだろう。
 街道脇に避ければ、御者のおじさんが帽子に手をかけ一礼してそのまま去っていった。
 すげー!! 異世界人だ!! ちゃんと人間がいるんだなぁ……。
 この世界に来て初の異世界人とのコンタクトはなんとも味気ないものだったが、なんとなく感慨深い。
 早く都市に行きたくて軽い足取りで進む途中、馬車以外にも旅人風の人や、武具を身に付けたグループともすれ違った。
 旅人風の人は会釈して通り過ぎ、グループの方はチラッと俺を見て行ってしまった。
 まぁ、こんなもんだよな。外套がなかったら服装的に怪しまれてたかも知れないけど。
 俺はそのまま街道を進み、時折茂みからゴブリンとかが出てくるが、水魔法の攻撃で仕留める。
 倒したゴブリンを無視して行こうとしたところ、後ろから馬車が来て俺のすぐ側で止まった。

「ちょっとそこの人、いいかな?」
「は、はい? 何でしょうか?」
「私は商人をしているルナスだ。君もこの先の都市、ファレアスに向かうのだろう? 良かったら乗っていかないか? 歩いていくと日が暮れてしまう」
「そうなんですか?」

 俺は一瞬考える。
 いきなり初対面の人に馬車に乗れと言われても信用できないが……いざとなれば魔法があるか。

「えっと、ではよろしくお願いします。リョウマと言います」

 そう言って軽く頭を下げる。ここから日が暮れるまで歩き続けるのも嫌だしな。

「それじゃあ後ろから乗ってくれ」

 幌馬車の後ろに向かい、飛び乗る。荷台には荷物の他に若い男女が乗っていた。

「リョーマ、乗ったか?」

 俺の名前の発音に慣れていないのか、どことなく間延びした呼び方をされた。まぁいいか。

「はい!」
「では出発するぞ!」

 俺が乗っていた男女に頭を下げると、若い男が挨拶あいさつする。

「よぉ! 俺はロマだ。よろしくな!」
「私はフェルメです」

 ロマと名乗った赤髪碧眼あかがみへきがんの若い男は、幼さが残るがモデルみたいにかっこいい顔立ちだ。革のよろいを着ていて、さやに入っている剣をたずさえている。
 フェルメと名乗った金髪緑目の若い女は、童顔で可愛らしい。外套をまとっているから装備とかはよくわからなかった。

「俺達、この馬車の護衛をしてるんだよ。お前は?」
「リョウマと言います。自分はフラフラと旅をしています」
「へぇ、どこから来たんだ?」
「東の方の遠くからです。ロマさんはこの辺りの出身ですか?」
「ロマでいいよ! 俺は近くの村から出てきたんだ。フェルメとは幼馴染で、一緒に村を出てファレアスで冒険者をやってる」

 しばらくそんな雑談をしながら、のんびりと馬車に揺られること数時間。
 太陽が真上に昇った辺りで、ロマ達は肩掛けの革のカバンから、小さめの黒いパンを取り出した。
 御者席に座っているルナスもカバンを漁って肉の欠片かけらを取り出すと、モゴモゴと咀嚼そしゃくしている。

「リョーマは飯、食わないのか?」

 ロマは不思議そうな顔をして俺に聞く。

「あ、えっと……あんまりお腹空いてないので大丈夫です」

 事実ではあるが、自分だけ何も食べないというのも何か気まずいから、水魔法で水を作りそれを口に流して飲む。

「器用なことするな」

 面白そうに言うロマ。対象的にフェルメは驚いた顔をしている。

「あの……リョーマさんは魔導師なのですか……?」
「え……? 普通の旅人だけど……」
「え? でも魔法の詠唱してなかったですよね……?」
「詠唱?」

 魔法指南書には詠唱のことなんて書いてなかったはずだけど……どういうことだろう?

「あの、魔法は普通詠唱をするんですか?」
「はい。無詠唱は、魔法を極め魔導に至った者のみが使う奥義だと教えてもらいました」
「こりゃ驚いた。リョーマは水魔導師様だったのか!」

 俺達の話を聞いていたのか、ルナスが口を挟む。
 あー、さすがにこれだけじゃデミゴッドだってことはバレないから騒ぎにならないよな?
 俺はそのあたりについてははぐらかしながら、フェルメに色々と聞いてみた。
 高位の魔法使いは魔導師と呼ばれるそうで、フェルメは風魔法使いらしい。色々と事情を聞かれそうになったが、そこは「申し訳ないけど……」と説明を断ってしまった。



 第2話 都市ファレアス


 それから二時間ほど、時折襲ってくるモンスターを撃退しつつ進むと、大きな都市が見えてきた。
 これまた大きな門を通り抜けると、地球の世界遺産のような、見惚みとれるほどに美しい街並みが広がっていた。行き交う人や馬車で、とてもにぎわっている。

「私達はこのまま商会の方へ向かうが、リョーマはどうする? 一緒に来るか?」
「ついていきます!!」

 ルナスに問われて、勢いよく返事をしてしまった。どんな物が売られてるのか気になるからな。
 馬車に揺られながら進み、二十分くらいして停車する。

「着いたみたいだな!」

 ロマはそう言うとフェルメと二人で馬車から飛び降りる。
 俺も二人の後を追って馬車から降り、先に進んでいったルナスについていった。

「へぇ~」

 ルナスのお店は二階建てになっていて、一階は店舗、二階は居住スペースのようで、奥さんと娘さんが住んでいるそうだ。
 その奥さんと娘さんが、帰ってきたルナスを出迎えて抱擁していた。
 皆で馬車の荷物を一階の店舗スペースに運び込むようで、俺もお手伝いをした。

「ありがとうリョーマ!! これはほんのお礼だ」

 ルナスが銀の硬貨を五枚差し出してくるので、俺はそれをありがたく受け取る。
 そうだ、ここからどうするかも決めないとな。

「あの、この辺りでお手頃な宿はありませんか?」
「あぁ、それなら私の知り合いの所を紹介しよう! ちょっと待っててくれ」

 ルナスはペンと紙を取り出すと何かをサラサラと書き、それを折りたたんで俺に差し出した。

「この通りをまっすぐ行くと、突き当りに三日月の看板がある。そこが紹介する宿屋の大熊亭おおぐまていだ。そこの主人にこれを見せればいい」
「ありがとうございます!! ではこれで」

 ロマ達はまだ手伝いがあるようなので、俺は何度も頭を下げて別れ、宿屋に向かう。
 すぐに到着した宿屋は、入ってすぐが食堂になっていて、その奥のカウンターに男の人がいた。
 前に立つと、応対してくれる。

「すみません、泊まりたいのですが……」
「おう、いらっしゃい。一泊相部屋なら10ビナス。大部屋は8ビナスで、個室は20ビナスだ」

 んん!? ビナス? なんだそれ! さっき銀貨を受け取った時に調べればよかったな、後で検索しとこ……。
 とりあえず、さっきルナスに貰った銀貨を一枚取り出す。

「えっと、あ、相部屋で……一泊……」
「あいよ。案内する」

 どうやら銀貨一枚が10ビナスで良かったようだ。
 受付の男性がカウンターから出ようとしたところで、俺は慌ててルナスから預かった紙を出す。

「あっと、あの、これを。ルナスさんから預かってまして……」

 受付の男は手紙を受け取って読む。

「ほぉ、ルナスの客人か。リョーマと言うのか。それなら個室5ビナスでいい。個室にするか?」
「は、はい、個室でお願いします」
「わかった、ついてこい」

 銅貨五枚のお釣りを貰い、食堂の脇にある階段から二階へ上がると、すぐ手前の部屋に案内された。

「ここを使え。鐘が六回鳴ったら下りてこい。飯を用意する」
「はい、わかりました。ありがとうございます」

 テーブルに椅子、ベッドがあるだけの簡素な部屋だ。
 窓を開けると日の光が差し込んでくる。
 内開きの扉にはかんぬきがついていて、かぎ代わりにできるようだった。

「ふぅ、とりあえず一息だな」

 俺はベッドの縁に座り込むと、そのままパタリと寝っ転がるのだった。


 ゴーンと鐘の音が聞こえる。
 目を開けば外は夕日に染まっていて、いつの間にか寝てしまっていたようだ。

「あー……チュートリアルの確認は後でいいか」

 身だしなみを整えてから部屋を出る。
 階段を下りると、食堂は賑わっていた。

「おう来たな。こっちに座れ。今食事を持ってこさせる」

 さっきの受付の男性はそう言って、近くの従業員らしき男に声をかける。
 すぐに俺の前に食事が運ばれてきた。

「ごゆっくりどーぞー」

 メニューは何かのステーキに野菜のスープだ。コップにはワインが入っていた。ナイフはなく、木のフォークだけが置いてある。
 こんな木のフォークだけかよ、とは思いつつ、折角の異世界初の食事なので気持ちを切り替える。
 フォークで肉をぶっ刺して持ち上げ、豪快ごうかいに食らいついてみちぎる。
 お! シンプルな味だけど結構イケるな。
 ただやっぱりソースが恋しい。ステーキと言ったらガーリックソースとか粗挽あらびきの胡椒こしょうとか、醤油しょうゆ玉ねぎとかが定番だよな。だめだ、考えたらヨダレが出てきた。
 あとゴハンがあったら最高だったのになぁ……。
 まぁ、求めだしたらきりがないので、あきらめて異世界の食事を堪能することにした。

「――お、兄ちゃん良いもん食ってんじゃん」
「おい、大事な客に絡むな」

 黙々と食べていると、赤ら顔のおっさんが絡んできた。が、カウンターに立っていた受付の男が遮ってくれた。

「俺だって客だろー?」
「お前はただの客だ。リョーマは大事な客だ」

 大事というところを強調する。ルナスさんにどう伝えられたのだろうか。
 そう思っていると、男が笑みを浮かべた。

「リョーマ、ルナスの手紙にあったが、水魔法が使えるそうだな。後でかめに水を入れてくれないか?」
「ええ、食べ終わったらすぐにやります」
「助かる」

 なるほど、それもあって俺に丁寧に接してくれていたのかな。
 隣で絡んできたおっさんは俺が水魔法を使えることに興味が移ったようで、まじまじと見てくる。

「坊主は水魔法使いか。俺ぁカロンってんだ。旅をしながら薬師をやってる。よろしくな!」

 ニカッと笑うカロン。

「リョウマです。よろしくお願いします。薬師ってどんな薬を作るんですか?」
「どんなって、色々だよ。傷に効くものだったり病気に効くものだったりだ。例えばだな……」

 カバンから小瓶を取り出す。

「これは俺の作った、傷を癒やす薬だ。飲めば多少の怪我はすぐに治っちまうぜ!」

 いわゆる回復薬ってやつだな。俺が持っているやつと同じもののようだ。

「それはやるよ。お近づきの印ってことで!」

 カロンは笑顔でそう言った。
 随分と気前がいいな。

「ありがとうございます。ではありがたく。この薬って、通常いくらで売ってるんですか?」
「品質にもよるが、最低でも50ビナスはかかるなぁ」
「え!? そんなにするんですか!! いいんですか貰っちゃって!?」

 この宿の相部屋で五日分か、結構高くないか?

「いいよいいよ。さっきも言ったろ、お近づきの印だって。俺達薬師にとっては、水魔法使いはありがたい存在だからな。薬を作るのには綺麗な水が必要なんだが、水魔法使いがいれば、わざわざ危険な山に湧水わきみずみに行かなくていいんだよ。まあ水魔法使いもタダでとはいかないが、命よりは安いもんだ! ガハハハハ!!」

 カロンは豪快に笑ってエールをあおる。

「さて、俺はしばらくこの宿に泊まっているから、薬が必要なら俺に言ってくれ。じゃあな」

 そう言って席を立ち、階段を上がっていくカロン。
 それを見送ってからご飯を食べ終えた俺は、カウンターの男に声をかける。

「あの、水はどこで出したら良いですか?」
「おう、こっちだ」

 案内されて食堂と調理場を抜けると、裏口の近くに大きなかめが三つあった。

「この一つを一杯にしてほしい。余裕があったらこっちも頼む。俺は戻るから、終わったら声をかけてくれ」
「わかりました」

 俺は男を見送ると、さっそくかめに手をかざして水魔法で水を作り、流しこむ。
 ドバドバと結構な勢いで水がまっていき、五分くらいして大きい水瓶みずがめが一杯になった。
 余裕があったので二つ目も溜めてみたが、終わる頃には魔力が結構減った感じがした。
 よし、これくらいでいいだろう。
 俺は食堂に戻り、カウンターに声をかける。

「終わりましたよ」
「おう、助かった。水は貴重だからな、また泊まりに来た時は安くするから頼む。それと、これは水代だ」

 お金が入ったらしき小袋を差し出してくる。

「え!? そんな、いいですよ!!」
「水魔法使いにタダで仕事させるわけにはいかねぇ。受け取ってくれ」
「いえ、俺は安く泊めていただけるだけで十分です!!」
「なんだ、欲がないな。他のやつだったら喜んで受け取るってのに。いいから取っとけ」

 そう言うとずいっと押し付けるように無理やり手渡してくるので、思わず受け取ってしまった。
 受付の男はすぐに自分の仕事に戻ってしまい、返しそびれる。
 俺はありがたく貰うことにして、軽く頭を下げて部屋に戻ったのだった。


 俺は部屋に戻ると、さっそくチュートリアルの報酬を受け取ることにした。
 まずはインベントリに追加されているカバンを取り出す。

「これがアイテムバッグか」

 革でできた俗に言うサッチェルバッグというやつで、長いひもがついているから袈裟懸けさがけができる。

「どれぐらいの物が入るんだろ」

 スマホでマジックバッグについて検索してみると、アイテムバッグ(小)で五十リットルから五百リットル分とあった。五十リットルで大型のボストンバッグくらい、五百リットルだと大型の収納ボックスくらいだ。

「う~ん。いまいちよくわかんないな。まあ見た目よりたくさん入るってことでいいか。最大サイズの五百リットルだとうれしいけど」

 アイテムバッグは一般に広まってるアイテムみたいだし、基本的には人目がある場所ではこっちを使った方がいいんだろうな。
 ついでに通貨のことも検索する。
 ビナス銀貨は南州王国連合が発行する共通のお金であることがわかった。他にもビナス銅貨、ビナス金貨がある。
 一、五銅貨。一、二、五、二十、五十銀貨。一、五、十金貨。そしてその上に、ハーデというものがあるみたいだ。このハーデは、他のコインとは違って金の延べ棒らしい。
 十銅貨=一銀貨、百銀貨=一金貨、百金貨=1ハーデ、という換算になる。
 というかそもそも、南州王国連合ってなんだ?
 というわけで調べてみたところ、南州王国連合とは、ハルディアン大陸の半分を国土とするメルギス大帝国に対抗するために、二十ヶ国が組んだ国際連合のことなんだとか。
 メルギス大帝国、凄いな……いつか行ってみよう。
 俺はアイテムバッグをテーブルに置いて、次のチュートリアルを見る。


 チュートリアル11 冒険者ギルドに登録しよう!
   クリア報酬1:神様ポイント10
   クリア報酬2:アプリモンスター図鑑をインストール


「定番の冒険者ギルドだな。種族のこととか、多分バレたら騒ぎになるから隠せればいいけど……明日実際に行ってみるしかないか」

 ふと窓を見れば、外の魔導具の明かりが差し込み、ほのかに部屋が明るくなる。
 俺は窓辺に椅子をおいて座り、異世界の街の夜の喧騒けんそうや夜空を楽しんだ。


 翌朝、身支度を済ませた俺は宿を出た。
 早朝だというのに、多くの人が出歩いている。

「冒険者ギルドはこの道か」

 マップのナビに従って進むと、三階建ての大きな建物に辿り着いた。
 盾と剣が交差したデザインの看板が飾られてある。
 ここが冒険者ギルドか。
 扉を開けて中に入ると、多くの人達でごった返していた。
 その多くが一角の壁の前に集まっていて、壁にり付けられている紙を見て、手に取っていた。
 おおおおお!! リアル冒険者ギルドすげえ!!
 お上りさんのようにキョロキョロと辺りを見回す。

「お! リョーマじゃん!!」

 声が聞こえた方を向くと、ロマが笑顔で手を振っていた。

「昨日ぶりです、ロマ!」
「だな! リョーマは冒険者だったのか?」
「違いますよ。今日は冒険者になろうと思ってきました」
「冒険者になるのか! なら俺が案内してやるよ! 受付はこっちだ」

 ロマは俺の手首をつかんでグイグイと行こうとする。
 俺は少し困りながらも、彼の厚意に甘えてついていった。
 ロマに連れられて、女性が座っているカウンターの方へ行く。

「レネイさん、冒険者登録お願いします!!」
「あら、ロマ君はもう冒険者でしょ?」
「俺じゃないッスよ!! コイツです!」

 ロマに背中を押されて前に立つ。

「あ、えっと、冒険者になりに来ました、リョウマと言います……」
「ようこそ、冒険者ギルドフィランデ王国ファレアス支部へ! 本日冒険者登録の担当をしますレネイと申します。では、さっそくですが登録を行いますのでこちらの水晶に手を置いてください」

 受付のお姉さん、レネイは、黒い台座にはまっている水晶を置く。
 随分と用意が良いというかとんとん拍子に進むけど、やっぱり登録希望者が多いんだろうか。

「あの……これって何をする道具なんですか……?」
「これは登録者の魔力を使って種族やレベル、能力値の情報を読み取り、記録する物です」

 それを聞いた俺は、一瞬逡巡しゅんじゅんした。
 まぁ、これ使ったらデミゴッドだってバレるよなぁ……。
 でも、どうせいつかはバレることだし、チュートリアルをこなさないと他の神様クエストはできないから、やるしかないか……。もうどうにでもなれ!!
 水晶に手を触れると、ピカッと強く光を放つ。
 近くにいた人は光に驚いたのか、俺に大量の視線が向けられた。
 集まった視線に気まずくなりつつ、必死に無視して耐える。
 レネイは最初、目がくらんでいたようだが、水晶に表示された情報を見たのだろう、目を見開く。

「あ、あ、あ、貴方様は――」
「ひ、秘密にしてください!」

 慌てて声を被せ、言わせないようにする。
 レネイはブンブンと何度もうなずき、ぎこちない表情で立ち上がった。

「べ、別室へご案内します……」

 そう言って立ち上がり、ものすごく緊張した様子で歩いていった。
 そんなレネイに、ロマをはじめ周囲の人達は何が起きたのかと興味津々きょうみしんしんな様子だ。
 俺はロマに軽く断りを入れると、レネイについていくのだった。


 二階に上がってすぐの応接室に案内された俺は、このまま待つように告げられた。
 レネイが部屋を出て行くと、しばらくして別の女性がお茶を持ってきて俺の前に置く。
 女性の表情には、なんでこんな若者がここに通されたのだろうという興味と疑問が浮かんでいる。しかし特に詮索せんさくしてくることもなく、「ごゆっくりどうぞ」と一礼してから部屋を出て行った。
 出されたお茶を飲んでスマホを見ながら待っていると、レネイとスキンヘッドのおっさんが部屋に入ってきた。
 おっさんは額に傷痕があり、かなり貫禄かんろくがある。
 俺が慌ててスマホをしまうと、向かいの席に座ったおっさんが緊張した様子で口を開いた。

「ギルドマスターのギメルだ……です。今回の冒険者登録の際に、今までにない現象が起こり、情報読み取りの結果も驚愕きょうがくするものだった報告を受けた……受けました。リョーマ殿がデミゴッドであると聞いたのだが、事実か確認させてほしい……させてください」

 失礼のないように丁寧に話しているのはわかるが、慣れていないのかちょっと変だ。
 そして、俺の持っているアイテムバッグと同じくらいのサイズのカバンから、受付で使ったのよりは一回り大きく、装飾のついた水晶を取り出した。

「これに手を置いてくれ……ください」
「あの、しゃべり方は普段通りで良いですよ。えっと、リョウマと申します。できれば結果を見て大きな声を出さないでいただけると嬉しいです……」
「う、うむ……」

 俺が改めて水晶に手を置くと、受付の時よりもさらに強い光を発して、結果が出る。
 二人はそれを見て開いた口がふさがらない様子だった。

「あ、あの……」

 俺が声をかけると、二人はバッと立ち上がってひざまずく。

「か、確認しました……ただちにリョーマ様専用の登録証をご用意します!」

 完全にかしこまってしまった。

「あの、畏まらなくていいので普段通りでお願いします!!」
「い、いえ! デミゴッド様に対して普段通りなどおそれ多いことです!」
「えぇ~~……」

 困ったなぁ、やっぱり面倒事になったと頭を抱える。

「あの、リョーマ様はどの神の祝福と恩恵を受けたのか、うかがってもよろしいでしょうか……?」

 ギメルが恐る恐る聞いてくる。

「どの神と言っても……」

 俺をこの世界に転移させた張本人、メシュフィムしか心当たりがない。
 俺がそれを伝えると、二人はまたも驚く。

「あ、あの! 神の祝福の証があるというのは本当でしょうか!?」

 レネイは若干興奮しながら俺に聞く。

「神の祝福の証?」
「は、はい!! デミゴッド様は神の使徒様とも呼ばれるのですが、神から祝福を授かった時、体のどこかにその神の祝福の証が刻まれると聞きました!!」

 そんなのあるのか?
 俺は自分の体のあちこちを見てみるが、特に見当たらない。
 本当にそんな証あるのか? と疑問に思っていると、ピコンとメールの受信音が鳴る。
 もはやバレているから気にしないでいいかと、二人の前でスマホを取り出した。
 二人は俺のスマホをガン見していたが、無視してメールを読んだ。


 僕の祝福の証は、玲真君の右の肩甲骨辺りにあるよ~


 かなりフランクな感じになってて俺は面食らってしまった。
 こっちが素なのか?
 若干困惑しながらもスマホをしまって、いまだに俺をガン見している二人を見た。
 レネイは目を輝かせて興味津々の様子で、隣のギメルが興奮して聞いてくる。


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