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1巻
1-3
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「あ、あの、先ほどの黒い板はなんですか!?」
「えっと、あれはメシュフィム……様から授かった俺の能力みたいなものです」
「なんと!! それがメシュフィム様からの恩恵ですか!! 使徒様は神から授かった祝福の他に、恩恵として能力を授かるとは聞いていましたが……なるほど……」
なんか納得して満足げに頷くギメル。
「そ、その能力で何ができるんですか!?」
「えーっと、今はそんなにできることは多くないですけど、そのうち色々できるようになると思います。ははは……」
神様クエストや神様ストアの説明をするのも面倒だし、レネイの質問に曖昧に答えておく。
「あ、そういえば、俺の祝福の証は右の肩甲骨辺りにあるそうです。メシュフィム様に先ほど神託で教えてもらいました」
面倒だから神託ってことにした。神様と連絡できるって言ったら、そりゃもう驚くだろうからな。
「神託……!?」
二人は再び目を真ん丸にする。
「えーっと、それで自分では確認できないので、見てほしいんですけど……女性の前で服を脱ぐのはちょっと……」
「ええ!? 私も見たいです!!」
「こらレネイ!! リョーマ様を困らせるな!! いいと言うまで部屋を出ていろ!!」
「ええーー!!」
レネイは不満げにギメルを一瞬睨みつけたが、トボトボと部屋を出て行った。
なんだか申し訳ないことをした気分になってしまう……俺悪くないよな?
気を取り直して、上着を脱いで背中を見せる。
「ほぅ……これが……神の祝福の証……」
ギメルは感動して声を漏らしていた。
服を着てレネイを呼び戻すと、ギメルを睨みながら入ってくる。
しかしギメルはそれを無視しながら、にこやかに口を開いた。
「リョーマ様、疑って申し訳ありませんでした。我々はリョーマ様を大歓迎いたします! すぐにギルド総本部に連絡して、使徒様専用のギルド登録証を御用意いたします」
「総本部? それに使徒専用登録証?」
「はい。冒険者ギルドは、八百八十年前に、当時のメルギス王国、現メルギス大帝国で設立したのですが、そこに冒険者ギルドの総元締め、総本部があるんです。冒険者ギルドを発足させたのは、創造の神の使徒であるリョータロー・スメラギ様なのですが、ギルドマスターとなったかのお方は、御自身専用の使徒専用登録証を作りました。他の使徒様も冒険者ギルドに登録する際に、この使徒専用のギルド登録証を使うようになったのです」
その冒険者ギルドを作った人って、名前からして絶対日本人だろ……。
「使徒ってことは、今も生きているんですか……?」
「ええ、もちろんです」
ちなみに、そのリョータロー・スメラギは現在冒険者ギルドのグランドマスターであり、先ほど使った登録のための情報読み取り水晶は、その彼が作っているのだという。
やはりデミゴッドともなるととんでもない寿命になるようだ。
というか、何かあったら目立つだろうから普通の登録証で良いんだけどな。
そう伝えたのだが、ギメルは聞いてくれなかった。
どうやらグランドマスターが、今後デミゴッド――使徒が現れた場合はこの使徒専用登録証を渡すように厳命したらしい。
「それでは総本部に連絡し、登録証の用意を進めますので、一旦失礼します」
何だか面倒になりそうだなぁと思いつつ待つことしばし、ギメルが戻ってきた。ものすごく感動した様子で。
「リョーマ様! 無事登録が終わりました!! こちらがリョーマ様専用の冒険者ギルド登録証になります!!」
細かい細工が施された銀色のお盆の上に、虹色に輝くスマホ並みの大きさのプレートが載っている。
「この登録証は、総本部から直接転送されてきましたリョーマ様専用のものです! どうぞお手に取ってください」
綺麗なカードを手にすると、少し俺の魔力が吸われる感覚があった。
そして、登録証が輝いて俺の名前――リョウマ・サイオンジの文字が浮かび上がってきた。
不思議に思っていると、ギメルが説明してくれる。
このカードに使われている素材はスメラギが創造した神鋼金というもので、デミゴッドの特殊な魔力にのみ反応するものらしい。その他に様々な機能が備わっているが、その一つに、このカードを持つ使徒同士が連絡を取り合えるものがあるそうだ。
その説明を聞いたところで、俺の登録証がほのかに光り始めた。
『やぁ、君が新たな転移者かい? 僕はリョウタロウ・スメラギ。皇遼太郎だ。よろしくね』
そして高校生くらいの男の子の胸から上がホログラムのように空中に浮かび上がり、カードから声が聞こえてきた。俺は思わず目を見開く。
黒髪黒目で、何百年も生きているとは思えない若々しさだ。
本当にデミゴッドは老いないし寿命が長いんだなぁ……。
『おーい、聞こえてる? おーい!! おかしいなぁ……ちゃんと投影魔法を付与したはずなんだけどな……そこの二人、僕の声聞こえてる? 姿はちゃんと映ってる?』
声をかけられたギメルとレネイはビクッと体を震わせ、勢いよく頭を下げる。
「きききき聞こえてますグランドマスタースメラギ様!!」
『そう? 良かった。おーい、西園寺さん!』
「ハッ!! すみません、ちょっと現実逃避してました。は、はじめまして。俺はリョウマ・サイオンジ。えっと西園寺玲真です」
『はじめまして、新しい使徒君。君はどの神によってこの世界に連れてこられたの?』
「遊戯と享楽を司るメシュフィム様です」
そう言うと皇さんは驚いた顔をする。
『うわぁ……厄介な神様に目をつけられちゃったね……』
「そ、そうなんですか?」
『うん。ちょっと昔に、試練だとか言ってダンジョンを世界中に創っちゃったんだよね。もう世界中大混乱。僕が冒険者ギルドを作ったのは、ダンジョンを攻略させるためなんだよ。ちゃんとお宝があるから恩恵はあるんだけどね。大変だったよ……』
皇さんが遠くを見ているのに同情していると、スマホからメールの受信音がピコンと鳴った。
このタイミングでメールって……メシュフィム見てるのか?
スマホを取り出してメールを開く。
ダンジョンは僕が張り切って創った、宝探しゲーム兼強くなるための試練の場だから、玲真君も行ってみてね~。
まだ一般人に見つかってない、君達デミゴッド専用の超高難易度のお宝ダンジョンもあるよ! 探してみてね!
メシュフィムがとんでもないものをぶっ込んできたものだから、俺も思わず遠くを見つめてしまう。
俺と皇さんが現実逃避をしている横では、ギメルやレネイが言葉を失っていた。
どうやらダンジョンが神メシュフィムの創ったものだとは知らなかったようだ。
と、皇さんは我に返ったように口を開いた。
『おっと、僕はこれから仕事があるから、君の恩恵については今度皆で集まった時に聞くことにするよ。君のことは、他のデミゴッドには僕から伝えとくね。皆悪い人じゃないから歓迎してくれるよ……そうそう、その使徒専用登録証は王族並みの権力があるから、困った時は使うと良いよ。ただし、悪さをすることには絶対に使わないでね――そこの二人、今日この場で見聞きしたことあまり言いふらさないように。それじゃ玲真君、メルギス大帝国に来ることがあったら僕が案内するよ! またね!』
そう捲し立てると、皇さんの姿は消えた。
「……これで登録は終わったってことで良いですか?」
「は、はい!! 今後はレネイをリョーマ様の専属にしますので、依頼の際は彼女を呼ぶか、直接私の執務室に来てください。対応いたします」
「よろしくお願いします、リョーマ様!!」
「こちらこそよろしくお願いします」
頭を下げる二人に礼を言い、自分の登録証をアイテムバッグに入れた俺は、応接室を出て階段を下りる。
結構人数は減っているが、まだまだそれなりに賑わっていた。
そして、半分くらいの人達はさっきの騒ぎを見ていたのだろう、俺を見てコソコソ話をしていた。
「おい! やっと下りてきたな!! 大丈夫だったか?」
ロマが心配した様子で駆け寄ってくる。
「大丈夫。ちゃんと登録ができたから、冒険者の仲間入りです。心配かけてすみません」
「そうか! 結構長かったけど何話してたんだ? 皆噂してるんだよ。なんかヤバイやつが来たって」
あー、あんなに水晶が光ったから、そりゃ目立つよな。
「そうなんですね……まぁ色々です。ロマは何してたんですか?」
「俺は残っている依頼を見てたり、一旦宿に戻ったりしてた。そろそろ飯の時間だから、一緒に飯食いに行こうぜ! フェルメも一緒だけど」
気分転換に飯を食いに行くのも良いかもなぁと考えて、その提案に乗ることにした。
ロマと共に冒険者ギルドを出て、二人が泊まっているという宿へ向かう。
小さな通り沿いにある安宿で、話を聞くに肝っ玉女将が切り盛りしているようだ。
フェルメと合流してから、彼らがおすすめする飯屋に三人で向かった。
お昼時とあって結構お客さんが入っていて、俺達が入って満席になった。
「リョーマ、ここのオークステーキめっちゃ美味いんだよ!」
「スープも美味しいんですよ」
オークって、あの豚と人が混ざったみたいなやつだよな?
ちょっと戸惑うが、二人が勧めてくれるのならとステーキとスープを頼んだ。
ロマはオークステーキとパンを、フェルメはスープとパンを注文した。
「リョーマさん、冒険者になったのですか? てっきり魔塔盟に所属するのだと思ってました」
「魔塔盟?」
「マギル王国にある、魔法使いが集まる搭のことです。賢者を目指して勉強したり研究したり、修練をする所なんです。凄腕の魔法使いだから、そこを目指して旅をしてるんだと思ってました」
「へぇ、そうなんですね。面白そうなので機会があれば行ってみようと思います」
話していると、料理が運ばれてくる。
オーク肉は、一口目は躊躇していたが、思い切って食べてみると、昨日食べたステーキと同じような味だった。
地球で美味いものをたくさん食べてきたからイマイチ物足りなさはあるが、これはこれで異世界の醍醐味と美味しく頂けた。
食事を終えると、ロマが尋ねてくる。
「リョーマはこの後どうするんだ?」
「ギルドに戻って、簡単ですぐ終わりそうな依頼がないか探してみようと思ってます」
「なら薬草採取だな! 近くの林に結構生えてるし、上手く見つけられればすぐに終わるぜ! なんなら俺も手伝ってやるよ!」
「え、いいんですか? ロマさん達予定とかは……」
「昨日護衛の依頼から帰ってきたばかりだから、今日は休みにしてるんだよ。でも暇だからなんか暇潰しに簡単な依頼を受けようと思ってたところだったんだ」
「私も特に予定はないのでお付き合いしますね」
ロマはニカッと笑い、フェルメも微笑む。
三人でお会計をし、そのままギルドに向かうことにした。
ギルドに戻ってきた俺達は、依頼が貼り出されている壁を見向きもせず、受付カウンターへ向かった。
「こんにちはヒメルさん、薬草採取の依頼ある?」
「おう、ロマとフェルメじゃないか。ちょうどあるぞ。討伐の依頼じゃなくていいのか?」
「今日は新入りの手伝いみたいなもんだよ! 昨日護衛の仕事から帰ってきたんだけど、暇だからな」
「ほー。そういうことか。というと、そいつが新入りか?」
ヒメルに視線を向けられたので、しっかりと挨拶する。
「はい、先ほど登録しましたリョーマです」
「ん?」
ヒメルは名前を聞いて、俺の顔を凝視する。
「もしかして……使徒様……?」
「あはは……はい……」
どうやら俺がギルドを出たあと、職員達にはすぐに俺のことが通達されていたようだ。
ヒメルは驚きの表情を浮かべつつ、バッと勢いよく席を立った。
「す、すぐに担当の者に替わります!!」
そう言って俊敏な動きで奥へ行った。ロマとフェルメは何が起きたのかと驚愕している。
すぐにレネイが奥から出てきて対応してくれた。
「薬草採取の依頼ですね、それでは登録証をお願いします! そちらのお二人も!」
ロマとフェルメは訳がわからないと言いたそうにしながらも、自分達のカードを懐から出す。
どちらも鋼鉄製のカードで、二人の魔力に反応して名前等の情報が浮かび上がっている。
俺もアイテムバッグから自分のカードを取り出す。
「「ッ!?」」
いかにも普通じゃないソレに、二人はとうとう怯えたような表情になった。
あー……普通は見慣れないだろうし、職員の反応とかも凄かったもんなぁ。
でも、二人にはこれからも世話になりそうな気がするし、ここで変に隠したくないんだよな。
俺は心を決めるとカードに魔力を込め――カードがほのかに光り、俺の情報が浮かび上がる。
「「ッッッッ!?」」
その情報を見た二人は、声にならない悲鳴を上げて腰を抜かしてしまった。
そんな二人に、レネイは同情したように苦笑し、周囲の冒険者達は何事かと注目してきた。
俺がサッと登録証をアイテムバッグに入れると、レネイが口を開いた。
「確認しました。それではご健闘を……」
なんのご健闘だ? と思いつつ、二人に声をかける。
「じ、事情は後でちゃんと話すから行きましょうか……それとも今日はやめときます?」
未だ二人は腰を抜かして、畏怖するような目で俺を見ている。
うーん、ここまでびっくりされるとは思ってなかったけど、使徒様ってのはそんなに凄いのか。
これで二人が俺から遠ざかっていくなら仕方ないか……。
そりゃ、普通の水魔法使いかと思えば実はデミゴッドでしたなんて、普通考えもしないし、実際にそんな状況になったら混乱するし、怖い。
どうせ後で教えるからと開き直って堂々と対応してみたけど、これはまずかったかと反省した。
ちゃんと話して理解してもらってからの方がよかったな。
「「……」」
「やっぱりやめましょうか。そりゃ驚きますよね……また今度、二人がよかったら行きましょう。レネイさん、依頼はキャンセルでおねが――」
「い、いや、行く!!」
ロマが立ち上がって覚悟を決めた顔をする。
「手伝うって決めたからにはちゃんとやるぜ! リョーマ……様の手伝いをしたとなれば村の奴らに自慢できるし」
「……そうですね! リョーマ様のために頑張ります!」
俺がデミゴッドであると知っても一緒にやると言ってくれて、それが凄く嬉しかった。
「えっと、じゃあよろしくお願いします。あの、俺のことは呼び捨てでいいですよ」
二人の不自然な態度で、注目を集めてしまう可能性もあるし、何より折角仲良くなってきたのに他人行儀になられても寂しい。
そして二人が返答に迷っている間に、周囲の視線から逃げるようにして、俺はギルドを出るのだった。
都市の門を通り抜けるまで何だかお互いぎこちなく、気まずい雰囲気で無言だった。
門を抜けてしばらくして、俺から切り出す。
「あの、二人に聞いてほしいんですが」
「お、おう!」
「は、はい!!」
俺は改めて登録証を取り出し二人に見せ、俺がデミゴッドであること、能力がまだ発展途上であること、あとは異世界から来たことも話した。
どういう能力を持ってるかは具体的には教えていないけど、スマホも見せたら、ロマは神器だと言ってかなり興奮していた。
ただ、俺のスマホは二人は触ることができなかった。
触ってみたいというロマに持たせてあげようかと手渡したら、スルンとロマの手を通り抜けて地面に落ちたのだ。拾い上げようとしてもスマホに触れることができないようだった。
ロマはというと、触れなかったことに落ち込むかと思ったが、さすがは神器だとさらに興奮していた。一方で俺は、これで盗難を心配する必要はなくなったと、内心ホッとした。
ともかく、正直に話したことで、二人とは打ち解けたと思う。
最初は畏まっていたが、俺がやめてほしいと強く言うと、ロマはあっさりと、フェルメは渋々同意してくれた。
というわけで、一時間程で林の近くまで来た。
「お、これが薬草だぜ!」
ロマは足元に生えている草を引っこ抜いて見せてくれる。ハートの形の葉っぱが、茎からいくつも生えている。
「これを薬師が回復薬にするんです。冒険者には怪我がつきものだから、回復薬の需要が高いこともあって、常に依頼として薬草を募集してるんですよ」
「なるほど……じゃあ探してみます!」
足元を注意深く見て探す。
「足元ばかり気にしてたら、ゴブリンとかに攻撃されるから気を付けろよ!」
ロマが注意してくれるのに頷き、気を引き締めて周囲の気配を気にしながら探していく。
いろんな草花が生えてるから、探すの大変だな……マップとかで探せないのかな。
ふと思い立ってスマホを取り出してマップをポチポチしてみるがそれっぽい機能はなかった。
仕方ないので地道に探すことにして、二時間くらいしてから二人と合流した。
「リョーマはどうだった?」
「俺は十一本見つけました。ロマとフェルメは?」
「俺は三十二本見つけたぜ!! ついでにゴブリンも三匹倒した」
俺より多いしゴブリンまで倒していて、さすが先輩だ。
「私はゴブリンは倒してないけど、四十七本見つけました!」
なんだか得意気で、フフンとドヤ顔をするフェルメ。
「さて、今日はもう戻ろうぜ! 今から戻れば日が暮れる前には都市に着くからさ」
「そうですね、戻りましょうか」
「……なぁリョーマ、俺達にそんな丁寧な喋り方しなくていいぞ。一緒に依頼受けた仲間だからな! それに、俺達には普通に接しろって言って、自分は違うなんてちょっとずるいぜ」
「そうですよリョーマさん! 気軽に話してください!」
「……そうだね。そうするよ」
俺は笑顔で答えた。
この世界で友達と呼べるような人ができた気がして、嬉しかったのだ。
ギルドに戻ってきた俺達は、レネイに受付してもらって薬草の納品をした。
五本一束で一応依頼達成で、報酬は8ビナス。それ以上を持ってきた場合は一束毎に2ビナス。
俺は10ビナス、一銀貨一枚の報酬だ。ロマとフェルメはパーティを組んでいるから二人まとめてとなり、クリア報酬の8ビナスと追加の十四束で28ビナス。合計で36ビナスだ。一銀貨三枚に五銅貨が一枚と、一銅貨一枚になる。
お金の管理をしているのは意外にもロマで、腰に括りつけている布の財布に入れていた。
余った薬草はお金にならないけど、自分達が持っていてもしょうがないからそれもレネイに渡す。
「二人共、今日はありがとう。何かあったらいつでも言ってほしい。俺はしばらくファレアスに滞在して冒険者活動をするから、ギルドによくいると思う」
「おう!! また一緒に依頼受けようぜ!!」
「はい!! またよろしくお願いします!!」
二人は笑顔で手を振って、ギルドを出て行くのだった。
さて、俺は今日の宿を探さないといけないけど……あ、ギルドでお手頃な宿がないか聞いてみるのも良いか。しばらくは依頼を受けてお金稼ぎたいし、ギルドの近くの方が行き来が楽で良い。
まだ受付にいて俺を見ているレネイに聞く。
「あの、ギルドの近くで手頃な宿ってありませんか?」
「それならオススメがあります! ギルドを出て右に少し行った所に三日月の看板があります。そこは深緑の鹿亭という宿屋です! リョーマ様の冒険者ギルド登録証をお出しいただければ、一等室に安く泊まれますよ!」
「アハハ……普通の部屋に泊まります……。教えてくれてありがとうございます」
「いえ、お役に立てて光栄です!」
深く頭を下げるレネイに苦笑いして、俺はギルドを出て、教えてもらった宿に行く。
その宿は大熊亭よりも立派な建物で、食堂も広かった。カウンターには綺麗な女性がいる。
「すみません、泊まりたいのですが……」
「個室は35ビナス、相部屋は20ビナスです」
「えっと、個室で一泊お願いします」
一銀貨を四枚出して、お釣りは五銅貨が一枚だ。
「では、二階の1の部屋をお使いください」
指定された部屋に向かうと、室内はちゃんと掃除されていて、テーブルに椅子、ベッドが一つあった。テーブルには燭台が置いてあり、蝋燭が立っている。
「結構いい雰囲気だし、しっかり休めそうだな。と、その前に……」
椅子に腰掛け、スマホを取り出すと神様クエストを開く。
まずは冒険者ギルドに登録するというチュートリアルの報酬を受け取り、次のチュートリアルを見る。
ただ、それも既にクリアされていて、報酬を受け取れた。
ちなみに内容はというと――
チュートリアル12 冒険者ギルドで依頼を受けて達成しよう!
クリア報酬1:神様ポイント10
クリア報酬2:スキル魔力回復
というものだった。
次のチュートリアルを確認してみると、どうやら最後みたいだった。
チュートリアル最終 教会に行って神々に祈りを捧げよう!
クリア報酬1:神様ポイント1000
クリア報酬2:スキル神聖魔法
クリア報酬3:アプリ転移門インストール
クリア報酬4:神性+1
クリア報酬5:ゲームマスター
クリア報酬6:スマホアップデート
「最終だけに報酬が凄いな……よくわからないのもあるし」
神性って何だろうかと検索アプリで調べてみると、神の使徒が多くの人々に信仰されたり、事を成し世界に認められたりした時に増えていくものらしい。
高ければ高いほど神へと近づき、使徒特有の能力の効果が高まり強くなっていく。いずれは本物の神へとなれるが、神へと至ったものはまだいない、とのことだった。
自分が神になれるということに驚きを隠せない。
このことを他の使徒たちは知っているのだろうか。他の使徒たちはどれぐらい神性が高いのか気になるところだ。
いろいろと凄そうな内容に呆れるやら困惑していると、外で鐘の音が鳴り響く。
酒場に行く人達の賑やかな声が、窓の外から聞こえてきた。
「俺も何か食べようかな」
一応革のベルトと財布以外は全てインベントリにしまい、腰にベルトを巻いて財布を括り付ける。一階の食堂は宿泊客で賑わっている。
「えっと、あれはメシュフィム……様から授かった俺の能力みたいなものです」
「なんと!! それがメシュフィム様からの恩恵ですか!! 使徒様は神から授かった祝福の他に、恩恵として能力を授かるとは聞いていましたが……なるほど……」
なんか納得して満足げに頷くギメル。
「そ、その能力で何ができるんですか!?」
「えーっと、今はそんなにできることは多くないですけど、そのうち色々できるようになると思います。ははは……」
神様クエストや神様ストアの説明をするのも面倒だし、レネイの質問に曖昧に答えておく。
「あ、そういえば、俺の祝福の証は右の肩甲骨辺りにあるそうです。メシュフィム様に先ほど神託で教えてもらいました」
面倒だから神託ってことにした。神様と連絡できるって言ったら、そりゃもう驚くだろうからな。
「神託……!?」
二人は再び目を真ん丸にする。
「えーっと、それで自分では確認できないので、見てほしいんですけど……女性の前で服を脱ぐのはちょっと……」
「ええ!? 私も見たいです!!」
「こらレネイ!! リョーマ様を困らせるな!! いいと言うまで部屋を出ていろ!!」
「ええーー!!」
レネイは不満げにギメルを一瞬睨みつけたが、トボトボと部屋を出て行った。
なんだか申し訳ないことをした気分になってしまう……俺悪くないよな?
気を取り直して、上着を脱いで背中を見せる。
「ほぅ……これが……神の祝福の証……」
ギメルは感動して声を漏らしていた。
服を着てレネイを呼び戻すと、ギメルを睨みながら入ってくる。
しかしギメルはそれを無視しながら、にこやかに口を開いた。
「リョーマ様、疑って申し訳ありませんでした。我々はリョーマ様を大歓迎いたします! すぐにギルド総本部に連絡して、使徒様専用のギルド登録証を御用意いたします」
「総本部? それに使徒専用登録証?」
「はい。冒険者ギルドは、八百八十年前に、当時のメルギス王国、現メルギス大帝国で設立したのですが、そこに冒険者ギルドの総元締め、総本部があるんです。冒険者ギルドを発足させたのは、創造の神の使徒であるリョータロー・スメラギ様なのですが、ギルドマスターとなったかのお方は、御自身専用の使徒専用登録証を作りました。他の使徒様も冒険者ギルドに登録する際に、この使徒専用のギルド登録証を使うようになったのです」
その冒険者ギルドを作った人って、名前からして絶対日本人だろ……。
「使徒ってことは、今も生きているんですか……?」
「ええ、もちろんです」
ちなみに、そのリョータロー・スメラギは現在冒険者ギルドのグランドマスターであり、先ほど使った登録のための情報読み取り水晶は、その彼が作っているのだという。
やはりデミゴッドともなるととんでもない寿命になるようだ。
というか、何かあったら目立つだろうから普通の登録証で良いんだけどな。
そう伝えたのだが、ギメルは聞いてくれなかった。
どうやらグランドマスターが、今後デミゴッド――使徒が現れた場合はこの使徒専用登録証を渡すように厳命したらしい。
「それでは総本部に連絡し、登録証の用意を進めますので、一旦失礼します」
何だか面倒になりそうだなぁと思いつつ待つことしばし、ギメルが戻ってきた。ものすごく感動した様子で。
「リョーマ様! 無事登録が終わりました!! こちらがリョーマ様専用の冒険者ギルド登録証になります!!」
細かい細工が施された銀色のお盆の上に、虹色に輝くスマホ並みの大きさのプレートが載っている。
「この登録証は、総本部から直接転送されてきましたリョーマ様専用のものです! どうぞお手に取ってください」
綺麗なカードを手にすると、少し俺の魔力が吸われる感覚があった。
そして、登録証が輝いて俺の名前――リョウマ・サイオンジの文字が浮かび上がってきた。
不思議に思っていると、ギメルが説明してくれる。
このカードに使われている素材はスメラギが創造した神鋼金というもので、デミゴッドの特殊な魔力にのみ反応するものらしい。その他に様々な機能が備わっているが、その一つに、このカードを持つ使徒同士が連絡を取り合えるものがあるそうだ。
その説明を聞いたところで、俺の登録証がほのかに光り始めた。
『やぁ、君が新たな転移者かい? 僕はリョウタロウ・スメラギ。皇遼太郎だ。よろしくね』
そして高校生くらいの男の子の胸から上がホログラムのように空中に浮かび上がり、カードから声が聞こえてきた。俺は思わず目を見開く。
黒髪黒目で、何百年も生きているとは思えない若々しさだ。
本当にデミゴッドは老いないし寿命が長いんだなぁ……。
『おーい、聞こえてる? おーい!! おかしいなぁ……ちゃんと投影魔法を付与したはずなんだけどな……そこの二人、僕の声聞こえてる? 姿はちゃんと映ってる?』
声をかけられたギメルとレネイはビクッと体を震わせ、勢いよく頭を下げる。
「きききき聞こえてますグランドマスタースメラギ様!!」
『そう? 良かった。おーい、西園寺さん!』
「ハッ!! すみません、ちょっと現実逃避してました。は、はじめまして。俺はリョウマ・サイオンジ。えっと西園寺玲真です」
『はじめまして、新しい使徒君。君はどの神によってこの世界に連れてこられたの?』
「遊戯と享楽を司るメシュフィム様です」
そう言うと皇さんは驚いた顔をする。
『うわぁ……厄介な神様に目をつけられちゃったね……』
「そ、そうなんですか?」
『うん。ちょっと昔に、試練だとか言ってダンジョンを世界中に創っちゃったんだよね。もう世界中大混乱。僕が冒険者ギルドを作ったのは、ダンジョンを攻略させるためなんだよ。ちゃんとお宝があるから恩恵はあるんだけどね。大変だったよ……』
皇さんが遠くを見ているのに同情していると、スマホからメールの受信音がピコンと鳴った。
このタイミングでメールって……メシュフィム見てるのか?
スマホを取り出してメールを開く。
ダンジョンは僕が張り切って創った、宝探しゲーム兼強くなるための試練の場だから、玲真君も行ってみてね~。
まだ一般人に見つかってない、君達デミゴッド専用の超高難易度のお宝ダンジョンもあるよ! 探してみてね!
メシュフィムがとんでもないものをぶっ込んできたものだから、俺も思わず遠くを見つめてしまう。
俺と皇さんが現実逃避をしている横では、ギメルやレネイが言葉を失っていた。
どうやらダンジョンが神メシュフィムの創ったものだとは知らなかったようだ。
と、皇さんは我に返ったように口を開いた。
『おっと、僕はこれから仕事があるから、君の恩恵については今度皆で集まった時に聞くことにするよ。君のことは、他のデミゴッドには僕から伝えとくね。皆悪い人じゃないから歓迎してくれるよ……そうそう、その使徒専用登録証は王族並みの権力があるから、困った時は使うと良いよ。ただし、悪さをすることには絶対に使わないでね――そこの二人、今日この場で見聞きしたことあまり言いふらさないように。それじゃ玲真君、メルギス大帝国に来ることがあったら僕が案内するよ! またね!』
そう捲し立てると、皇さんの姿は消えた。
「……これで登録は終わったってことで良いですか?」
「は、はい!! 今後はレネイをリョーマ様の専属にしますので、依頼の際は彼女を呼ぶか、直接私の執務室に来てください。対応いたします」
「よろしくお願いします、リョーマ様!!」
「こちらこそよろしくお願いします」
頭を下げる二人に礼を言い、自分の登録証をアイテムバッグに入れた俺は、応接室を出て階段を下りる。
結構人数は減っているが、まだまだそれなりに賑わっていた。
そして、半分くらいの人達はさっきの騒ぎを見ていたのだろう、俺を見てコソコソ話をしていた。
「おい! やっと下りてきたな!! 大丈夫だったか?」
ロマが心配した様子で駆け寄ってくる。
「大丈夫。ちゃんと登録ができたから、冒険者の仲間入りです。心配かけてすみません」
「そうか! 結構長かったけど何話してたんだ? 皆噂してるんだよ。なんかヤバイやつが来たって」
あー、あんなに水晶が光ったから、そりゃ目立つよな。
「そうなんですね……まぁ色々です。ロマは何してたんですか?」
「俺は残っている依頼を見てたり、一旦宿に戻ったりしてた。そろそろ飯の時間だから、一緒に飯食いに行こうぜ! フェルメも一緒だけど」
気分転換に飯を食いに行くのも良いかもなぁと考えて、その提案に乗ることにした。
ロマと共に冒険者ギルドを出て、二人が泊まっているという宿へ向かう。
小さな通り沿いにある安宿で、話を聞くに肝っ玉女将が切り盛りしているようだ。
フェルメと合流してから、彼らがおすすめする飯屋に三人で向かった。
お昼時とあって結構お客さんが入っていて、俺達が入って満席になった。
「リョーマ、ここのオークステーキめっちゃ美味いんだよ!」
「スープも美味しいんですよ」
オークって、あの豚と人が混ざったみたいなやつだよな?
ちょっと戸惑うが、二人が勧めてくれるのならとステーキとスープを頼んだ。
ロマはオークステーキとパンを、フェルメはスープとパンを注文した。
「リョーマさん、冒険者になったのですか? てっきり魔塔盟に所属するのだと思ってました」
「魔塔盟?」
「マギル王国にある、魔法使いが集まる搭のことです。賢者を目指して勉強したり研究したり、修練をする所なんです。凄腕の魔法使いだから、そこを目指して旅をしてるんだと思ってました」
「へぇ、そうなんですね。面白そうなので機会があれば行ってみようと思います」
話していると、料理が運ばれてくる。
オーク肉は、一口目は躊躇していたが、思い切って食べてみると、昨日食べたステーキと同じような味だった。
地球で美味いものをたくさん食べてきたからイマイチ物足りなさはあるが、これはこれで異世界の醍醐味と美味しく頂けた。
食事を終えると、ロマが尋ねてくる。
「リョーマはこの後どうするんだ?」
「ギルドに戻って、簡単ですぐ終わりそうな依頼がないか探してみようと思ってます」
「なら薬草採取だな! 近くの林に結構生えてるし、上手く見つけられればすぐに終わるぜ! なんなら俺も手伝ってやるよ!」
「え、いいんですか? ロマさん達予定とかは……」
「昨日護衛の依頼から帰ってきたばかりだから、今日は休みにしてるんだよ。でも暇だからなんか暇潰しに簡単な依頼を受けようと思ってたところだったんだ」
「私も特に予定はないのでお付き合いしますね」
ロマはニカッと笑い、フェルメも微笑む。
三人でお会計をし、そのままギルドに向かうことにした。
ギルドに戻ってきた俺達は、依頼が貼り出されている壁を見向きもせず、受付カウンターへ向かった。
「こんにちはヒメルさん、薬草採取の依頼ある?」
「おう、ロマとフェルメじゃないか。ちょうどあるぞ。討伐の依頼じゃなくていいのか?」
「今日は新入りの手伝いみたいなもんだよ! 昨日護衛の仕事から帰ってきたんだけど、暇だからな」
「ほー。そういうことか。というと、そいつが新入りか?」
ヒメルに視線を向けられたので、しっかりと挨拶する。
「はい、先ほど登録しましたリョーマです」
「ん?」
ヒメルは名前を聞いて、俺の顔を凝視する。
「もしかして……使徒様……?」
「あはは……はい……」
どうやら俺がギルドを出たあと、職員達にはすぐに俺のことが通達されていたようだ。
ヒメルは驚きの表情を浮かべつつ、バッと勢いよく席を立った。
「す、すぐに担当の者に替わります!!」
そう言って俊敏な動きで奥へ行った。ロマとフェルメは何が起きたのかと驚愕している。
すぐにレネイが奥から出てきて対応してくれた。
「薬草採取の依頼ですね、それでは登録証をお願いします! そちらのお二人も!」
ロマとフェルメは訳がわからないと言いたそうにしながらも、自分達のカードを懐から出す。
どちらも鋼鉄製のカードで、二人の魔力に反応して名前等の情報が浮かび上がっている。
俺もアイテムバッグから自分のカードを取り出す。
「「ッ!?」」
いかにも普通じゃないソレに、二人はとうとう怯えたような表情になった。
あー……普通は見慣れないだろうし、職員の反応とかも凄かったもんなぁ。
でも、二人にはこれからも世話になりそうな気がするし、ここで変に隠したくないんだよな。
俺は心を決めるとカードに魔力を込め――カードがほのかに光り、俺の情報が浮かび上がる。
「「ッッッッ!?」」
その情報を見た二人は、声にならない悲鳴を上げて腰を抜かしてしまった。
そんな二人に、レネイは同情したように苦笑し、周囲の冒険者達は何事かと注目してきた。
俺がサッと登録証をアイテムバッグに入れると、レネイが口を開いた。
「確認しました。それではご健闘を……」
なんのご健闘だ? と思いつつ、二人に声をかける。
「じ、事情は後でちゃんと話すから行きましょうか……それとも今日はやめときます?」
未だ二人は腰を抜かして、畏怖するような目で俺を見ている。
うーん、ここまでびっくりされるとは思ってなかったけど、使徒様ってのはそんなに凄いのか。
これで二人が俺から遠ざかっていくなら仕方ないか……。
そりゃ、普通の水魔法使いかと思えば実はデミゴッドでしたなんて、普通考えもしないし、実際にそんな状況になったら混乱するし、怖い。
どうせ後で教えるからと開き直って堂々と対応してみたけど、これはまずかったかと反省した。
ちゃんと話して理解してもらってからの方がよかったな。
「「……」」
「やっぱりやめましょうか。そりゃ驚きますよね……また今度、二人がよかったら行きましょう。レネイさん、依頼はキャンセルでおねが――」
「い、いや、行く!!」
ロマが立ち上がって覚悟を決めた顔をする。
「手伝うって決めたからにはちゃんとやるぜ! リョーマ……様の手伝いをしたとなれば村の奴らに自慢できるし」
「……そうですね! リョーマ様のために頑張ります!」
俺がデミゴッドであると知っても一緒にやると言ってくれて、それが凄く嬉しかった。
「えっと、じゃあよろしくお願いします。あの、俺のことは呼び捨てでいいですよ」
二人の不自然な態度で、注目を集めてしまう可能性もあるし、何より折角仲良くなってきたのに他人行儀になられても寂しい。
そして二人が返答に迷っている間に、周囲の視線から逃げるようにして、俺はギルドを出るのだった。
都市の門を通り抜けるまで何だかお互いぎこちなく、気まずい雰囲気で無言だった。
門を抜けてしばらくして、俺から切り出す。
「あの、二人に聞いてほしいんですが」
「お、おう!」
「は、はい!!」
俺は改めて登録証を取り出し二人に見せ、俺がデミゴッドであること、能力がまだ発展途上であること、あとは異世界から来たことも話した。
どういう能力を持ってるかは具体的には教えていないけど、スマホも見せたら、ロマは神器だと言ってかなり興奮していた。
ただ、俺のスマホは二人は触ることができなかった。
触ってみたいというロマに持たせてあげようかと手渡したら、スルンとロマの手を通り抜けて地面に落ちたのだ。拾い上げようとしてもスマホに触れることができないようだった。
ロマはというと、触れなかったことに落ち込むかと思ったが、さすがは神器だとさらに興奮していた。一方で俺は、これで盗難を心配する必要はなくなったと、内心ホッとした。
ともかく、正直に話したことで、二人とは打ち解けたと思う。
最初は畏まっていたが、俺がやめてほしいと強く言うと、ロマはあっさりと、フェルメは渋々同意してくれた。
というわけで、一時間程で林の近くまで来た。
「お、これが薬草だぜ!」
ロマは足元に生えている草を引っこ抜いて見せてくれる。ハートの形の葉っぱが、茎からいくつも生えている。
「これを薬師が回復薬にするんです。冒険者には怪我がつきものだから、回復薬の需要が高いこともあって、常に依頼として薬草を募集してるんですよ」
「なるほど……じゃあ探してみます!」
足元を注意深く見て探す。
「足元ばかり気にしてたら、ゴブリンとかに攻撃されるから気を付けろよ!」
ロマが注意してくれるのに頷き、気を引き締めて周囲の気配を気にしながら探していく。
いろんな草花が生えてるから、探すの大変だな……マップとかで探せないのかな。
ふと思い立ってスマホを取り出してマップをポチポチしてみるがそれっぽい機能はなかった。
仕方ないので地道に探すことにして、二時間くらいしてから二人と合流した。
「リョーマはどうだった?」
「俺は十一本見つけました。ロマとフェルメは?」
「俺は三十二本見つけたぜ!! ついでにゴブリンも三匹倒した」
俺より多いしゴブリンまで倒していて、さすが先輩だ。
「私はゴブリンは倒してないけど、四十七本見つけました!」
なんだか得意気で、フフンとドヤ顔をするフェルメ。
「さて、今日はもう戻ろうぜ! 今から戻れば日が暮れる前には都市に着くからさ」
「そうですね、戻りましょうか」
「……なぁリョーマ、俺達にそんな丁寧な喋り方しなくていいぞ。一緒に依頼受けた仲間だからな! それに、俺達には普通に接しろって言って、自分は違うなんてちょっとずるいぜ」
「そうですよリョーマさん! 気軽に話してください!」
「……そうだね。そうするよ」
俺は笑顔で答えた。
この世界で友達と呼べるような人ができた気がして、嬉しかったのだ。
ギルドに戻ってきた俺達は、レネイに受付してもらって薬草の納品をした。
五本一束で一応依頼達成で、報酬は8ビナス。それ以上を持ってきた場合は一束毎に2ビナス。
俺は10ビナス、一銀貨一枚の報酬だ。ロマとフェルメはパーティを組んでいるから二人まとめてとなり、クリア報酬の8ビナスと追加の十四束で28ビナス。合計で36ビナスだ。一銀貨三枚に五銅貨が一枚と、一銅貨一枚になる。
お金の管理をしているのは意外にもロマで、腰に括りつけている布の財布に入れていた。
余った薬草はお金にならないけど、自分達が持っていてもしょうがないからそれもレネイに渡す。
「二人共、今日はありがとう。何かあったらいつでも言ってほしい。俺はしばらくファレアスに滞在して冒険者活動をするから、ギルドによくいると思う」
「おう!! また一緒に依頼受けようぜ!!」
「はい!! またよろしくお願いします!!」
二人は笑顔で手を振って、ギルドを出て行くのだった。
さて、俺は今日の宿を探さないといけないけど……あ、ギルドでお手頃な宿がないか聞いてみるのも良いか。しばらくは依頼を受けてお金稼ぎたいし、ギルドの近くの方が行き来が楽で良い。
まだ受付にいて俺を見ているレネイに聞く。
「あの、ギルドの近くで手頃な宿ってありませんか?」
「それならオススメがあります! ギルドを出て右に少し行った所に三日月の看板があります。そこは深緑の鹿亭という宿屋です! リョーマ様の冒険者ギルド登録証をお出しいただければ、一等室に安く泊まれますよ!」
「アハハ……普通の部屋に泊まります……。教えてくれてありがとうございます」
「いえ、お役に立てて光栄です!」
深く頭を下げるレネイに苦笑いして、俺はギルドを出て、教えてもらった宿に行く。
その宿は大熊亭よりも立派な建物で、食堂も広かった。カウンターには綺麗な女性がいる。
「すみません、泊まりたいのですが……」
「個室は35ビナス、相部屋は20ビナスです」
「えっと、個室で一泊お願いします」
一銀貨を四枚出して、お釣りは五銅貨が一枚だ。
「では、二階の1の部屋をお使いください」
指定された部屋に向かうと、室内はちゃんと掃除されていて、テーブルに椅子、ベッドが一つあった。テーブルには燭台が置いてあり、蝋燭が立っている。
「結構いい雰囲気だし、しっかり休めそうだな。と、その前に……」
椅子に腰掛け、スマホを取り出すと神様クエストを開く。
まずは冒険者ギルドに登録するというチュートリアルの報酬を受け取り、次のチュートリアルを見る。
ただ、それも既にクリアされていて、報酬を受け取れた。
ちなみに内容はというと――
チュートリアル12 冒険者ギルドで依頼を受けて達成しよう!
クリア報酬1:神様ポイント10
クリア報酬2:スキル魔力回復
というものだった。
次のチュートリアルを確認してみると、どうやら最後みたいだった。
チュートリアル最終 教会に行って神々に祈りを捧げよう!
クリア報酬1:神様ポイント1000
クリア報酬2:スキル神聖魔法
クリア報酬3:アプリ転移門インストール
クリア報酬4:神性+1
クリア報酬5:ゲームマスター
クリア報酬6:スマホアップデート
「最終だけに報酬が凄いな……よくわからないのもあるし」
神性って何だろうかと検索アプリで調べてみると、神の使徒が多くの人々に信仰されたり、事を成し世界に認められたりした時に増えていくものらしい。
高ければ高いほど神へと近づき、使徒特有の能力の効果が高まり強くなっていく。いずれは本物の神へとなれるが、神へと至ったものはまだいない、とのことだった。
自分が神になれるということに驚きを隠せない。
このことを他の使徒たちは知っているのだろうか。他の使徒たちはどれぐらい神性が高いのか気になるところだ。
いろいろと凄そうな内容に呆れるやら困惑していると、外で鐘の音が鳴り響く。
酒場に行く人達の賑やかな声が、窓の外から聞こえてきた。
「俺も何か食べようかな」
一応革のベルトと財布以外は全てインベントリにしまい、腰にベルトを巻いて財布を括り付ける。一階の食堂は宿泊客で賑わっている。
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