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側妃

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いきなり側妃になったと言っても、後宮の自分の宮から出ることもないので、リリーやレインと話をしたり刺繍をしたりとクレア王国の東塔にいた時と侍女が違うだけで変わらない毎日が過ぎていく。
あれから皇帝陛下は、忙しいのか他の方のところなのかアナスタシアを召す事もない。さすがにリリーたちも10日が過ぎると陛下の気が変わってしまったのかと心配し始めて落ち着かなくなってきた。

そんなある夜、なんとなく寝つけないアナスタシアは、庭で微かな物音がしたのに気付いた。わざわざ別室に寝ているリリーやレインを起こすのもかわいそうだと思い、ガウンを羽織って庭に出る。

月明かりの中、庭の中程に人影を見つけた。茶色の髪に黒い瞳、背は高くて細身の男性は、帝国へ一緒に旅をして来たエドだった。

「エド様?どうされましたか。」

小声で声をかけるとびっくりしたのかアナスタシアを見つめる。

「こんな時間にお一人で庭に出てこられたのですか。」
「ここは私の宮です。なぜエド様が?」
「少し苛つく事があって、うろうろしていたら、ここに来てしまいました。」
「ここは陛下の後宮です。見つかれば、エド様がお咎めを受けることになるやもしれません。早く移動された方が。」

その時、廊下の方から巡回の女性兵の足音が聞こえてきた。
エドが宮から出るには、兵と鉢合わせしてしまう。そう思った
アナスタシアは、エドを自分の部屋に招き入れ、巡回兵をやり過ごした。

「あなたは、男を自分の部屋に入れて、何かあったらどうするつもりですか。」
「エド様は、私に危害を加える方ではないでしょう。」
「危害の問題ではなく!」

アナスタシアの唇に温かい柔らかな感触がする。気がついた時には、エドに唇を奪われて床に押し倒されていた。

「あなたは、自分の美しさをもっと自覚した方がいい。謝らないし、次は我慢しません。」

そう言ってエドは、床に寝たままのアナスタシアを残して部屋から出て行った。

アナスタシアは床に寝たまま、しばらく放心状態だったが、ふと我に帰り起き上がる。のろのろとベッドまで行き、座って先ほどまでの出来事を思い返す。

エドに会って、巡回兵に見つからないように部屋に引き入れたのは、アナスタシア自身だったが、押し倒され唇を奪われてしまった。自分の迂闊さが招いたことだが、不思議と嫌ではなかったことに気付き、愕然とする。
自分は、正確には夜伽をしていないとは言え、敗戦国の従属の印として後宮に入り、陛下に側妃として花を賜ったのだ。そんな自分が陛下の臣であろうエドにキスをされ嬉しいなんて、クレアの民たちに合わせる顔がない。
この気持ちは早く捨てて、陛下の側妃として相応しい女性にならなければと思うのだった。
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