昆虫恐怖症(フォビア)~開けてはいけない玉手箱

藤雪花(ふじゆきはな)

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開けてはいけない玉手箱

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 晴海はわたしを抱きしめた腕を緩め、受け取った竹ざるの中の山盛りの青じその中からミニトマトを取りだし、小気味よく真っ二つにしていく。
 きゅうりとミョウガは薄切りで塩コショウをして軽くしぼる。
 青じそは何枚かまとめて軸に包丁をVに入れ切り離してからくるりと輪にし端から刻む。それらを器に盛り、塩、コショウ、オリーブオイルをかけると即席サラダが完成した。
 わたしよりずっと手際がいい。
 今朝の朝食は目玉焼きにはちみつトースト、ベランダ菜園朝採りサラダ。晴海が淹れてくれるコーヒーはわたしが淹れるよりも格段に香りがよくておいしい。

「だけよりも、わたしはしかないっていう発言の方が最近は気になるけど」
「しかないって?」

 眼鏡縁を片眉が越えた。

「街角インタビューとかでよく聞かない?感動しかない、憤りしかない、涙しかない。そんな感じだけど」
 晴海のサラダを口に運ぶ手が止まった。眼鏡の奥の眼が思考する。
「しかないって、ラベルのようだね。『感動もの』、『政権に憤る』、『お涙頂戴もの』のように。よけいなことを考えないですむように一言で教えてあげようという感じかな? だけも、しかないも、同じ限定語だね。それだけ、しかないと言われたら、それだけでいいんですねって妙にほっとしてしまいそうだな。虚実入り乱れる情報氾濫社会で、情弱といわれないように濁流にのまれながらも、いろんなことを瞬時に判断しなくてはならない現代人は、脳が疲労困憊しているんだろうな。そんな状態だから、だけも、しかないも、僕はもうこれ以上何も考えたくない、君も考えるのをやめようよという願望が凝縮した、魔法の言葉なんじゃないか?」

 そういう晴海は、本や資料に囲まれながら終日パソコンに向かうのが仕事である。
 そうだからこそ、花ちゃんとの休日の時間が特別なんだよと笑う。
 ふと、テレビの音が大きくなった。



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