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06-04 不慮の事故
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「だから姫様、一緒にやりませんか?」
「……へ」
「向いてる向いてないとか、大分思い込み入ってると思います。なので、もう一回挑戦してみましょう、私も居ますし! 本音を言うと、年の近い女の子が工房に居れば嬉しいなー、姫様とお近づきになりたいなーって感じです!」
「おちかづ、き」
そんなことを言われたのは初めてでセーリスは頬を赤らめる。思えば同性で同年代の友達などいなかった。サーシィはヘニルより年上なので友達、というのも少し違うのだ。
「それに、確か王族から一人魔術師を輩出するんですよね」
「え? そうでしたっけ?」
「あれ、違いましたっけ?」
二人して疑問符を飛ばしていると、いつの間にか側にいたカーランドがセーリスに声をかけてくる。
「私からも、是非。姫様にもう一度魔術をお教えさせていただきたい」
「カーランド様……」
「幼少の頃は、本当に申し訳ないことをしたと思っております。レクサンナ様と共に学ぶことを、貴方が受けてきた風評をあまりにも軽視し過ぎておりました。姫様に要らぬプレッシャーをかけてしまったこと、後悔しております」
並外れた才人である姉と共に学べば、セーリスの勉学もより良いものになると思っていたと、そうカーランドは語る。だが既に姉と比較される恐怖が身に染みついてしまったセーリスにとって、その環境は地獄のようなものだったのだ。
「姫様の好奇心、そして素直さは思考力以上に研究に必要な尊いものです。天賦の才と言っても良いでしょう。きっと、良き魔術師になります」
カーランドの言葉に同調するようにイズナも頷く。
そこまで強く言われればセーリスに断る度胸も無く、そして自分を変えられる契機に惹かれてしまう。
「その……考えさせてください。でも、やってみたい、と思います」
「待ってますからね、姫様!」
歓迎してくれている様子の二人に安堵し、セーリスは視線を長らく意識の外に放っておいていたヘニルへと向ける。
不思議と視線が合って、彼はセーリスに向かってにこりと笑う。それに話を全部聞かれていたのだと気付けば恥ずかしくなって、彼女は顔を真っ赤にした。
「へっくしゅん! ……あっ!?」
誰かがくしゃみをした音に気付いた時にはその光線はイズナのすぐ後ろまで迫っていて、セーリスは咄嗟に彼女を突き飛ばし、前へと飛び出す。
衝撃が身体中に走って、一瞬視界がホワイトアウトする。姫様、とイズナやカーランドの声が聞こえてきて、崩れそうになる身体が誰かに支えられる。
「おい、姫様に何しやがった……!」
聞き覚えのある怒声にセーリスは意識が飛びそうになるのを必死で堪える。再度閉じた目を開ければ、視界はきちんと戻っていた。
「……ヘニル、落ち着きなさい、ちょっとびっくりしただけ……」
なんとか声を吐き出して、セーリスはしっかりと自分の足で立つのを意識する。ぐらぐら揺れる視界が落ち着けば、イズナの弟ラズマの胸ぐらを掴んでいたヘニルは完全に硬直し、驚いたような顔でセーリスを見ていた。
魔術の影響か、考えたくも無い。そう思った矢先、ふわりと頭のてっぺんに何かが触れ、ぞわぞわと背筋を這い上がる謎の感触にセーリスは声を上げてしまう。
「にゃっ」
「ひ、姫様……耳が」
頭のそれに触れたのはイズナだった。その言葉にセーリスはまず顔に手で触れる。多分、普通だ、いつもの自分の顔がある。髪に触れて、そのまま頭のてっぺんあたりに手を伸ばせば、ふわりと柔らかな毛の薄い布のようなものがある。いや、これは……耳だ。
着ている服に違和感を覚え、咄嗟に臀部に手を当てる。そして服の下にある細長い尾のような感触に、彼女はさっと顔を青くする。
「なにこれー!!」
「……へ」
「向いてる向いてないとか、大分思い込み入ってると思います。なので、もう一回挑戦してみましょう、私も居ますし! 本音を言うと、年の近い女の子が工房に居れば嬉しいなー、姫様とお近づきになりたいなーって感じです!」
「おちかづ、き」
そんなことを言われたのは初めてでセーリスは頬を赤らめる。思えば同性で同年代の友達などいなかった。サーシィはヘニルより年上なので友達、というのも少し違うのだ。
「それに、確か王族から一人魔術師を輩出するんですよね」
「え? そうでしたっけ?」
「あれ、違いましたっけ?」
二人して疑問符を飛ばしていると、いつの間にか側にいたカーランドがセーリスに声をかけてくる。
「私からも、是非。姫様にもう一度魔術をお教えさせていただきたい」
「カーランド様……」
「幼少の頃は、本当に申し訳ないことをしたと思っております。レクサンナ様と共に学ぶことを、貴方が受けてきた風評をあまりにも軽視し過ぎておりました。姫様に要らぬプレッシャーをかけてしまったこと、後悔しております」
並外れた才人である姉と共に学べば、セーリスの勉学もより良いものになると思っていたと、そうカーランドは語る。だが既に姉と比較される恐怖が身に染みついてしまったセーリスにとって、その環境は地獄のようなものだったのだ。
「姫様の好奇心、そして素直さは思考力以上に研究に必要な尊いものです。天賦の才と言っても良いでしょう。きっと、良き魔術師になります」
カーランドの言葉に同調するようにイズナも頷く。
そこまで強く言われればセーリスに断る度胸も無く、そして自分を変えられる契機に惹かれてしまう。
「その……考えさせてください。でも、やってみたい、と思います」
「待ってますからね、姫様!」
歓迎してくれている様子の二人に安堵し、セーリスは視線を長らく意識の外に放っておいていたヘニルへと向ける。
不思議と視線が合って、彼はセーリスに向かってにこりと笑う。それに話を全部聞かれていたのだと気付けば恥ずかしくなって、彼女は顔を真っ赤にした。
「へっくしゅん! ……あっ!?」
誰かがくしゃみをした音に気付いた時にはその光線はイズナのすぐ後ろまで迫っていて、セーリスは咄嗟に彼女を突き飛ばし、前へと飛び出す。
衝撃が身体中に走って、一瞬視界がホワイトアウトする。姫様、とイズナやカーランドの声が聞こえてきて、崩れそうになる身体が誰かに支えられる。
「おい、姫様に何しやがった……!」
聞き覚えのある怒声にセーリスは意識が飛びそうになるのを必死で堪える。再度閉じた目を開ければ、視界はきちんと戻っていた。
「……ヘニル、落ち着きなさい、ちょっとびっくりしただけ……」
なんとか声を吐き出して、セーリスはしっかりと自分の足で立つのを意識する。ぐらぐら揺れる視界が落ち着けば、イズナの弟ラズマの胸ぐらを掴んでいたヘニルは完全に硬直し、驚いたような顔でセーリスを見ていた。
魔術の影響か、考えたくも無い。そう思った矢先、ふわりと頭のてっぺんに何かが触れ、ぞわぞわと背筋を這い上がる謎の感触にセーリスは声を上げてしまう。
「にゃっ」
「ひ、姫様……耳が」
頭のそれに触れたのはイズナだった。その言葉にセーリスはまず顔に手で触れる。多分、普通だ、いつもの自分の顔がある。髪に触れて、そのまま頭のてっぺんあたりに手を伸ばせば、ふわりと柔らかな毛の薄い布のようなものがある。いや、これは……耳だ。
着ている服に違和感を覚え、咄嗟に臀部に手を当てる。そして服の下にある細長い尾のような感触に、彼女はさっと顔を青くする。
「なにこれー!!」
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