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02-04 口付けの代償

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 真剣なその表情に呆気にとられ、セーリスはぽかんと口を開けたまま立ち竦む。

 一体何の冗談だというのか。ヘニルとはそこまで話したことがあるわけではないし、忠義を尽くすような相手であると思わせるようなことはした覚えがない。
 何より適当さが服を着て歩いているようなこの男の誓いに、一体どれほどの意味があるのか。


「(いや、でも一応約束守ってくれてるし……なんだかんだ誠実な人なのかも)」
「ここは顔を赤らめてドキドキして然るべきでしょう? 姫様……、なんですかその顔は」
「仕方ないでしょ。自分の言動を思い返してみなさい」


 まぁいいですけど、と言って渋々とヘニルは立ち上がる。そしてセーリスにベッドに座るようにと促し、自分はその前の床に両膝を付いて座った。


「それでなんですけど、いやぁ、お待たせしてしまい申し訳ない」
「本当に! 私がどれだけ落ち込んだ……」


 そこまで言ってしまったもののセーリスはぐっと言葉を飲み込む。よもやヘニルに裏切られたと思い部屋に閉じこもって泣いていたなど、絶対に知られたくはなかった。あれだけ啖呵を切ったというのに、実際には心折れてしまうなんて、と。
 途中まで口にしかかった言葉で彼は察したのだろう。機嫌良さそうに意味深な笑みを浮かべる。が、からかってくるようなことはしてこない。


「でも姫様、追いかけてくれなかったのは寂しかったですよ」
「なにそれ」
「だって言ってたじゃないですか。逃げても絶対に捕まえるって」


 期待していたのにと漏らすヘニルに彼女はうっと呻く。それ以上身の程も弁えずに豪語した黒歴史を突かないでくれと心中で呟く。


「まぁ、姫様が追いかけてきたらそのまま攫うつもりだったんでいいですけど」
「えっ」
「遅くなった理由はこれです」


 ころりと話を変え、ヘニルはセーリスに手にしていた無骨な槍を差し出した。ところどころ欠けたり罅が入っているが精巧な装飾が施され、刀身は綺麗に磨かれている。それを両手で受け取るも、重さでまともに持てず、床に石突きを押し付けなんとかバランスを取る。


「なに、これ」
「神器です。といっても既に抜け殻ですが」
「えぇっ、神器……!?」


 神器というのは神族と同じく、神によって作られた武器だ。伝承では神がこの世を創る際に大地や海を削るために用いたと言われる。元々は意思を持つ命の形をしていたらしいが、最近ではそういった抜け殻でない神器は非常に少ない。指折り数えられるくらいか。

 だがいくら抜け殻となっても、その火力は普通の武器とは比べものにならない。神器の真骨頂は、普通の金属では傷をつけることすら難しい神族に対してだ。王国でも軍部に伝わる抜け殻の神器は複数あり、熟練した兵士にそれを振るわせることもある。


「取りに、行ってたってこと? なんで?」
「ヤり終わった後に気付いたんですが、姫様、あれってファーストキス、でしたよね」


 にっこりといい笑顔でヘニルは言う。一瞬何を言っているのか理解できなかったセーリスだが、すぐさま顔を真っ赤にしてわなわなと震える。


「いやー、そっちの初めても頂ちまったとなっちゃ、手ぶらじゃなあと思いまして」
「何よその変な律儀さ! ほんとにショックだったんだからね!」
「すいませんすいません。ま! これで俺は今日から姫様の騎士です」


 セーリスの手から軽々と槍を受け取るとそのまま静かに床に置く。そして立ち上がったヘニルはベッドに手をかけ、セーリスに迫った。


「これよりは貴方の命にのみ従い、この槍を振るいましょう」
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