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02-05 おねだり
しおりを挟む「これよりは貴方の命にのみ従い、この槍を振るいましょう」
囁くような声で告げられた二度目の誓いに、セーリスの頭には今朝の状況が蘇る。
仕官の理由を、第二王女に惚れたとかなんとか言っていたあれだ。
「……はっ、そうよ、あんた昼間のあれ、私に一目惚れってどういうこと? あんな分かりやすい嘘なんてすぐデルメル様にバレるわっていうか既に怪しまれてる!」
「怪しまれてるのは否定しませんがね……」
珍しくヘニルは苦笑を浮かべる。何かの癖なのか右手で自分の真っ白の髪を弄ると、またいつもの笑顔を浮かべて見せる。
「あれは嘘をつくなら本当のことも混ぜるっていう実践ですよ」
何のことはない、とでも言うかのように曰うヘニルに、セーリスは硬直する。
「ん? それってつまり、どういうこと……?」
「まぁまぁ、いいじゃないですか。そんなことより今日はちょっとおねだりしに来まして」
「おねだり?」
じりじりと近くなる距離から逃れるように後ずさるも、ヘニルは追い縋ってくる。広いベッドに足が全て乗ったあたりで、彼は彼女の手に自分の手を重ねる。
「約束通り、俺は姫様に忠誠を誓います。……ただ、デルメルの言うこと聞いてご機嫌とるのはちょっと難しいですねぇ、うっかり殺し合いになっちまうかもしれません」
「そ、そんなのダメよ」
そんなことになれば本気でどちらかが死ぬまで戦うことになるかもしれない。カアスが国に居ればデルメルに味方するだろうから、そうすればヘニルは間違いなく死ぬだろう。
それに昼間の件を考えるに、神族に対してデルメルは相当血の気が多い。血生臭い争い事とは無縁のイメージがあるが、あんな可愛らしい姿でも女傑カアスをぶちのめした実力者なのだ。
「だから、姫様が俺にそう命令するのなら、デルメルのパワハラを我慢してあげてもいいですよ」
「そりゃあもちろんするわよ。絶対にデルメル様の機嫌を損ねるようなこと、しちゃダメだからね!」
そこではたとセーリスは気付く。先程ヘニルはおねだり、と言ったのだ。ただ命令しろ、というつもりではないのは間違いない。
「待って、おねだりってことは命令聞く代わりに……」
「おやおや、ニブチンの姫様にしてはお察しがいい」
「バカにしてるの……!?」
憎まれ口を叩いた瞬間、ヘニルはセーリスの腰に腕を回す。重なっていた手の指が絡まりあって、ぐっと顔が近くなる。
「まさか」
その次の言葉を紡ぐ前に唇同士が触れ合う。もう初めてではないのだからとでも言うかのように深くそれを合わせ、柔く食むように噛みつく。
どさりと身体がベッドに落ちる。その上に覆い被さって、ヘニルは怪しく笑う。
「俺と、気持ちいいことしましょう、姫様……」
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