世界の終わりでキスをして

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俺は流華と長い長い谷の中に落ちて行く感覚だった。

死ぬのか?

落ちていきながらそんな事を頭の片隅で考えた。

でも、それは一瞬の事で、その後はきらきら光る煌びやかな光だけを見て意識が遠のいていた。

どれくらい時間が経ったかは、わからない。

気がつくと俺はコンクリートの上で眠っていた。

「、、や、恭弥!」

遠くで俺を呼んでいる声がする、、、。
誰だ?
誰かが呼んでる。

微かに目を開くと、俺の目の前に流華がいた。

俺はだんだん意識がはっきりしていく。
「流華、、、?」
俺が声に出すと、流華は安心した様な顔をする。
「良かった。目が覚めた。大丈夫?気分はどう?」
と聞いてくる。
俺は上半身を起こして起き上がる。
夢を見ていたのか?
あたりを見ると、さっきまでいた屋上に似た場所にいた。

けれど、さっきよりもあたりが格段に暗い。
もうすぐ朝になるのか、陽の光が少し登ってきている。
「恭弥、見て。」

流華がそう言ってフェンスの方へ歩いていく。

流華の後について、俺も歩いて行く。
足が少し痛かった、力も入りずらかった。

フェンスから下を覗くと、そこには新宿の街があった。

あったと言ってもさっきまで見ていた、俺の知っている新宿の街とは全く違う街だった。

俺は目に映る景色が信じられなかった。

「なんだ、、、これ。」
思わず呟く。

「恭弥。信じた?これが未来よ。」

これが未来、、、?

嘘だろ。

俺の目の前に広がるのはグレーの廃墟ばかりの新宿の街だった。

今にも崩れ落ちそうな、古いビル群。
人の気配を感じる事ができない。
ネオンなど全くない、明かりもポツポツとしかついていないし、車も走っていない。
この世界に俺と流華だけしかいないような静かさだ。
なんだ、この世界は。

「びっくりしたでしょ。今の新宿と全然違う。私も過去に行った時びっくりしたの、こんなにも景色が違うんだって。」

「なんでこんな世界になっちゃったんだよ、、、。」

俺はただ目の前の景色を見つめて呆然とする。流華はこんな未来を生きているのか?
いや、俺はこんな未来を生きていくのか?

「私が生まれた時には、もう未知のウィルスが世界中に広まっていたの。」

流華が廃墟ばかりの新宿の街を眺めながら話す。
「ウィルス、、、?」
流華が頷く。

「時間がないから、手短に話すわ。そのウィルスのせいで、世界中の人が沢山亡くなったわ。特効薬はなく、日本でもどんどん人が亡くなった。人口は減り、国の経済状況は悪くなり、貧困化が進んだ。」

「そんな、、、。」
俺はショックを受けた、まさかこんな未来が待ち受けているなんて。

「私はある、日本の政治家の1人娘として生まれたの。物心ついた時から自分は人と違う能力がある事に気づいたの。」

それが、この超能力?
「父は私の力を見て、これは使えると思ったのね。私に小さい時から厳しい訓練をさせて、2024年の7月にタイムリープさせて、任務を遂行させようと思った。」

「任務?2024年の7月って今じゃないか。」
俺は頭がこんがらがってきた。
けれど、どうして流華がこんなにも身体能力が高いかはわかった気がした。

叔父さんが、流華の事をプロだと言っていたが、小さい時から訓練させられていたなら当然だ。

「高倉恭一が研究開発していた新薬は、この未知のウィルスに効く可能性がある事がわかったの。」

えっ?
父さんの薬が、、、?

「けど高倉恭一は、研究の途中で何者かに殺された。それが2024年7月15日。」

、、、それって、明日じゃないか。
「ちょっと待ってよ、流華。俺わけがわからないよ。なんで父さんが殺されなきゃなんないんだよ。いくらなんでも、そんなの信じられないよ!」

俺が思わず叫ぶ。

「恭弥。信じられないかもしれないけど、それが現実なのよ。明日、恭一さんは殺される。明日の午後20時、自宅で何者かによって、ナイフで刺されて殺されているのを、あなたが発見する。里さんは明日から実家に帰るから、家を空ける。」

言われて思い出した。

そう言えば、里さんが明日、親戚の法事とかで名古屋へ行くと言っていた。

「でも、誰が父さんを?父さんはずっと研究しかしてないんだよ、誰かに恨まれる事なんて、、、。」

俺は自分で言っていて、嫌な予感しかしなかった。
そんな事は絶対にない、ありえないはずだと必死に自分に言い聞かせる。
そう思わないと、もう自分の呼吸が苦しくなってくるのがわかった。

「ずっと、高倉恭一が誰に殺されたかは、わからなかった。見事に証拠も何も残さず殺されていた。結局犯人逮捕に至らず今まできたの。私の任務はタイムリープして、高倉恭一が殺されるのを防ぐ事、そして犯人を見つけ犯人を殺害する事。」

「は、犯人って。」

俺は流華を見て言う。
お願いだから、違うと言って欲しい。
俺の勘違いだと、、、。
そんな願いを裏切り、流華は悲しそうな顔で俺に言う。

「私は犯人は健一叔父さんだと思ってる。」

そんな事、、、。
そんな事あるかよ。
だって、いくら仲が悪いって言っても兄弟だぞ。

叔父さんが父さんを殺すなんて、そんな事あるわけないじゃないか。

いつも、適当だけど小さい時から俺と沢山遊んでくれた叔父さん。
母が亡くなって落ち込む俺を色んな場所に連れて行ってくれた。

叔父さんが人を殺したりなんかするわけないだろう。

「何言ってんだよ、叔父さんがそんな事するわけないだろ。いい加減にしろよ。」

何故か言っていて、俺の目から涙が溢れてくる。

「健一叔父さんは、元同僚の公安の人からある情報を手に入れたの。」

「何だよ、ある情報って。」

「ある国のテロリストに売る為にウィルス開発している、研究者がいるって。多分、5年前に健一叔父さんはその情報を手に入れた。」

どうゆう事だ、5年前って叔父さんが警察を辞めた年だ。

「それを調べていたら、健一叔父さんはその研究者が恭一さんだと言う事に行き着いた。」

父さんがテロリストに、、、?

「でもそれは全くのフェイクだったのよ。そもそも、ウィルスを研究していた研究者は日本人じゃなかった。
でもそれは大分後にならないとわからなかった。叔父さんは、本当に恭一さんがウィルスを研究している研究者なのか、それを調べる為に忙しい警察を辞めて探偵になった。」

5年前、突然警察を辞めたのはそんな理由があったのか、、、?
あんなに誇りを持って飛び歩いていた警察をあっさり辞めてしまって、ずっと不思議だった。

「健一叔父さんからしてみれば、許せなかったと思う。尚美さんが病気の時も看病もせずにそんな大量殺人のウィルスの研究に夢中になって、尚美さんへの思いが強い程、憎しみは増えていったと思う。」
だからって、実の兄を殺すなんてそんな事、、、。

「恭弥、人を好きな気持ちは時として、人を狂わせるのよ。」
そんなの、わかるけどでも、、、。

「流華、叔父さんを殺すの?」

俺が流華をじっと見つめる。

「この世界を救えるのは、恭一さんの開発する、薬しかないのよ。その邪魔をする者は排除する。それが私の任務なの。
私はこの世界をまた、人が沢山行き交う、活気のある世界に戻したい。それだけを思って小さい時から訓練を受けてきた。」

「待ってよ、流華。」

「だから、私を止める事は出来ないって。」

こんなの、絶対に嫌だ。
俺は受け入れたくない。

流華がまた俺の手を取り半ば強引に走り出す。

そしてまた、グレーの廃墟軍のビルへと俺と流華は落ちていった。
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