世界の終わりでキスをして

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俺は叔父さんの事務所へ向かって、とりあえず叔父さんに今日の話しをしようと思った。

イブが篠田さんだと言う証拠もないから、きっとバカにされて終わりかもしれないが、とりあえず聞いて欲しかった。 

事務所へ着くとこんな時に限って誰もいなかった。
(叔父さん何処いっちゃったんだよ。)
と俺が思っていると、そこに電話がかかってきた。

叔父さんだ。

「叔父さん!今何処にいるの?」
と聞くと、
「おぉ。恭弥。事務所か?今前の職場の奴と偶然ラーメン屋で一緒になってさ。ちょっとそいつから聞いたんだけど。」

前の職場って警官か?

「ここ最近、10代の女の子の行方不明者が増えてるらしい。しかも、決まってヤバめの非行少女ばかりらしい。」

「それって、井崎未来みたいな?」
「そう。つまり、あの新宿の広場でたむろしてる様な子達だよ。」
「元々の素行が悪いから、家出だろうと片付けられていたんだが、人数も増えてきたのと、金山製薬って知ってるか?」

「もちろん知ってるよ。日本の大手製薬会社じゃん。」

「そこの御曹司が捕まった。35歳の独身で遊び歩いてたみたいだけどな。」
「何で捕まったの?」
「児童福祉法違反だ。あと児童買春・児童ポルノ禁止法違反の疑い。」

え?
「金山製薬の御曹司は変わった性癖があったんだよ。小児性愛、簡単に言えばロリコンだ。」

ロリコン、、、。
だんだん嫌な予感しかしなくなってきた。

「元々、警察は金山を薬の所持で追っていたらしいんだよ。ところが張ってるうちに、まだ幼い少女とホテルに入る所を何度も目撃されて、バレたんだ。」

「女の子達は、パパ活みたいな事をやってる子達だったの?」

「違う。少女達は金をいっさいもらってないんだ。」

意味がわからない。何の為にそんな年上の男と、まさかそんなおやじと恋愛をしてたのか?

「少女達は行方不明で捜索願いが出されてる子達ばかりだった。何処にいたのか、誰といたのか全然口を割らないらしい。御曹司は否定してるが現行犯だから逮捕されるだろうな。」

「その少女達の所持品にsweepのキーホルダーがあった。俺の元同僚が気になって、最近の流行りのキーホルダーなのかと聞いてきた。」

俺の頭の中で今までわからなかった事が次々と繋がっていく感覚があった。

イブが少女達を集めている目的はもしかしてこれか?
少女達を、名だたる社長や御曹司に斡旋していた?
その見返りに、金や仕事の取り引きを持ちかけていた?

篠田さんを問い詰めても無駄だろう。はぐらかされてお終いだ。
少女達でさえ、イブの素顔は見ていない。

「とりあえず、少女達が何処で匿われているか、それを探した方が良さそうだ。俺はまた新宿の広場で聞き込みをするから、今からお前も来いよ。」

「わかった。」

そう言って俺は事務所を出る。時刻は20時近くになっていた。

金曜日と言う事もあり、新宿はどんどん人が増えてくる。
会社帰りのサラリーマン、学生、カップル、水商売の人達は今から出勤するみたいだ。

この街は夜になるほど、どんどん元気になっていく。

その一角に、家に帰れない少年、少女達がたむろしている。
大人からしてみれば、子供を騙す事くらい簡単だ。
特にここにいる子達は、味方のいない、愛情に飢えている子ばかりなんだから。
少しの希望と優しい言葉をかけてあげるだけですぐに依存してくる。

イブなんて人物は仮想みたいなものなんだ。

一見、自分を自由にして救ってくれるような振りをして、実は飼い慣らしている。自由などはなく、鎖に繋がれているだけなのに。
それに気づく事ができない。

俺が広場に向かって歩いていると、足元を猫の様な物が横切った。
俺はふと見ると、その猫が迷い猫のルナに見えた。

ルナ!?ルナじゃないか!?
俺はもう、合ってても、違くてもどうでも良いと思って追いかけた。
なんせ、こいつに会う為にどれだけこの街を探したか。

だいぶ腰の痛みが減って軽やかに追いかける事ができるが、とにかくすばしっこい。ただ見失わないように必死に追いかける。

しばらく新宿の街をかけた後、ルナが足を止め、ビルの中へ入っていく。

俺はルナが入っていったビルを眺める。

ここはそうだ。
前に茶色の猫が入っていったビルだ。
ルナは慣れた風にビルの中へ吸い込まれていく。
ゲートがあり、その先には自動扉がある。その横の壁に小さな小窓があり、そこからルナは中へ入って行く。
本当に猫1匹入れるくらいの小さい開閉式の小窓だった。

なんで、こんなに猫が出入りしているのか不思議だった。
どうゆう事だ?
どうにかしてこのビルに入る手はないんだろうか?

インターホンらしきものもないし。
勝手に入っても、自動扉が開かないだろう。このビル、テナントらしきものは入ってないが、何処か所有者に問い合わせでもできないかな?

そう思ってうろうろしてると急に名前を呼ばれる。
「恭弥!」

振り向くとそこには流華がいた。
息を切らして走ってきたようだ。

俺はびっくりして流華に声をかける。
「流華!何やってんの?デートは?ってか聞いてくれよ!ルナを見つけたんだよ!凄くない!?ルナがいたんだ!」

興奮して俺が言うと、流華が息を整えながら言う。
「知ってるよ。このビルの中でしょ?」
と言う。

えっ?なんで流華が知ってるんだ?
「ルナはね、凛ちゃんを追いかけてこのビルにきたのよ。」

凛ちゃん、、、?
確かにルナは凛ちゃんに懐いていたらしかったけど。
って事は?俺はもう一度ビルを眺める。

「このビルの中に凛ちゃんも、おそらく井崎未来もその他の子もいるのよ。」

「えー!!!まじで?ってか流華はなんでそんな事知ってるの?」

「そんなの、もちろんイブから聞いたのよ。」

俺は唖然として何も言えなかった。
イブって、イブから聞いたって今言ってなかった?

「イブよ。恭弥も気づいたんでしょ?イブが篠田桔平だって。」

「え?流華いつから知ってたの?だって今日渋谷でイチャイチャしながら歩いてたじゃん。え?」

俺はもうわけがわからない。
流華は篠田さんに惚れていたんじゃないのか?だって完全に恋する女の顔になってたぞ。
「あんなの演技よ。ただの嘘。私は最初から篠田さんがきな臭いと思って近づいたのよ。BBQの日、あのボランティア団体のロゴを見て、真白が落としたキーホルダーの鳥と一緒だと思ったの。それからいつもの感で、イブが篠田さんなんだろうなって。」

もうあっぱれとしか言いようがない。
そんな前から気づいていたのかよ。

「なんで俺に言ってくれなかったんだよ!篠田さんが怪しいから近づくって!言ってくれたら俺はこんな、、、。」

こんな、、、。自分で言いながら詰まる。

だんだん嬉しくなってくる。
そうか、流華は別に篠田さん好きじゃなかったのか。

「何、にやついてるのよ。私があんな金にしか興味ない、ロリコン男好きになるわけないでしょ。恭弥には黙っていた方が面白いなぁって思ったから言わなかったの。」

俺は完全に流華に遊ばれていたのか。
しかし、嘘がうますぎる。俺もそうだが、篠田さんも完全に騙されていたのだ可哀想に。

「それで、どうする?どうやって中に入る?」
俺が言うと、流華は小さな紙を取り出して言う。
「このゲートのパスコード、篠田さんのパソコンから盗んできたから入れるわ。」

え?なんかさらって言ってるけど大丈夫か?流華はスタスタ歩いて中へ入っていく。
「流華!ちょっと待てって、警察呼ぼうよ!」

「なんて言って呼ぶのよ。誰が信じる?猫が入ったから、行方不明者がここにいるって。私はずっとこのビルを怪しいと思って、やっとあいつの家に行って、あの男をしめて、少女の居場所と、このパスコード手に入れたのよ。私は行くわ。怖いなら恭弥はここで待ってなさいよ。逃げられるように。」

完全にイカれてるよ。到底俺には真似できない。

「流華怖いもんないの?」

「ないわね。」
そう言ってスタスタゲートに向かっていく。
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