大魔法学校の落ちこぼれは、ざまぁの果てに花嫁になりますっっ♡

槇木 五泉(Maki Izumi)

文字の大きさ
30 / 31
魔法回路の強化

魔法回路の強化.19

しおりを挟む
 それから週末までの数日間、ユーミルは課題と予習、復習に明け暮れていた。

 難癖をつけられ、嫌な思いをさせられたバスカルとその取り巻きとの接点は極力避け、話し掛けられない限りは、他の生徒との関わりもなるべく持たないようにしていた。

 何せ、信じられないような魔法の腕前を持ち合わせているというのに、現代魔法歴史学に名前の出てこない曄苑はなぞのの大魔法士・アークメイジのグレンという存在が後ろ盾についていることを、うっかり口を滑らせて悟らせてしまったらそこでお終いだ。元素学の授業で見せた凄まじい魔法の力を暴走させて悪目立ちし過ぎないように、マナを扱う実技の時には注意深くならざるを得なかったし、それ以外でも、極力身を隠しながら、教授の質問にのみ淡々と、しかし正確に受け答えできるように振る舞って過ごす。ここのところ全く振るわなかったユーミルの成績がみるみる上向いてきたことに、担当の教授たちは驚きを隠さなかった。驚き、しかし、誰もが微笑しながら、特待生の努力家ユーミルの成長を見守ってくれる。

 本来、『無限の起点マナ・エテルノ』と繋がり、空中に漂う魔法のリソースであるマナの力を最大限に引き出すには、常に無欲であるべしと教えられていた。だから、学科を教える教授たちは、変なえこひいきや私利私欲を持ち合わせていることはあまりなく、生徒の成長は素直に褒め、厳しく接するべきところでは厳しく接する。そんな魔法学園で魔法を教わりながら成長していくことの楽しさを、ユーミルは久しぶりに思い出し、しっかりと噛み締めていた。


 そして、待ちに待った週末の夜が訪れる。
 夕食の後、いつもより少し早めにシャワールームに行き、石鹸をたっぷり使って念入りに身体を洗った。いつも几帳面なほど丁寧に肌を洗い流すのだが、今日は特別に、肌が少し桃色に染まるまで擦る。

 部屋に戻ると、清潔なパジャマを着て、ベッドの縁に腰を降ろしてしばらくぼんやりとしていた。半欠けになった月明かりが差し込む窓際の勉強机の上には、少しだけ成長した、ピンク色の茎を持つ観葉植物の鉢が置かれている。

 果たして、グレンは約束通りにここを訪れるのだろうか。
 そろそろ、他の生徒たちは、談話室から自分の部屋に引き上げる時間である。ユーミルはただじっと、座りながらその時を待ち続ける。

 
 りん…と。
 確かに聞き覚えのある、銀色のアークワンドに取り付けられた金具が鳴り響いた。

 エメラルド色の瞳を大きく見開いて息を飲むユーミルの前で、粗末な屋根裏部屋が、あっという間に瑠璃色の花園へと塗り替えられていった。
 嗅ぐだけで心の落ち着く、花のような良い香りがする。

「……こんばんは、ユーミル。ボクのお嫁さん候補。アークメイジ・曄苑はなぞのの大魔法士グレン、只今キミのもとに参上いたしました」
「グレン……!」

 やや勿体ぶった、芝居がかった物言いをして、長い紫がかった銀髪をさらりと流しながら、グレンは穏やかに笑って腕を折り曲げながら丁寧に一礼する。満面にぱぁっと笑みを広げ、ユーミルはうきうきと弾む心と共に腰掛けていたベッドを立ち上がった。長身のグレンの顔を煌めくエメラルド色の瞳で見つめながら、一週間、たった一人で胸の中に貯め込み続けていた言葉を熱っぽく口に出す。

「……僕、だいぶ調子が戻ったんです……!元素学の授業でも、なんか…すごい魔法を使っちゃって…!他の教科も、全部及第点を取りました…!何だか、今までの悩みは何だったんだろうって思えるくらい……何もかも、変わって…!」
「うん、うん。そうだろう、そうだろう。キミの頑張りは、いつだって見守っている大魔法士のグレンお兄さんです。でも、流石だね、まさかここまで呑み込みが早いとは、このボクも思っていなかったさ…」

 と、不意にグレンは、整った眉尻を下げて複雑な表情を浮かべる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

処理中です...