大魔法学校の落ちこぼれは、ざまぁの果てに花嫁になりますっっ♡

槇木 五泉(Maki Izumi)

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魔法回路の強化

魔法回路の強化.18

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「……何だよ。…これ以上、何か問題でもあるっていうのか…?」

 突風で乱れた髪を整えながら、ユーミルはエメラルド色の眦を精一杯尖らせる。普段は重たい前髪の下に隠れているユーミルの素顔を目の当たりにしたバスカル達は、困惑したように顔を見合わせて口を噤んだ。

「…いや…。ユーミル、おまえ…そんな顔…してたっけ…?」
「……は?」

 今度はユーミルが困惑を隠せず、素っ頓狂な裏返った悲鳴を上げる番だ。何せ、この学園に入学したのが三年と少し前、十六歳の頃。その頃から、引っ込み思案だったユーミルは、あえて前髪を伸ばして顔を隠すようになった。
 寮の部屋でも一人きり、ましてシャワールームへは最後に行くのが習慣になっている、十九歳になったユーミルの素顔を知っている者は、この大魔法学校にもほとんどと言っていいほど存在しない。それこそグレンにしか知られていなかった素顔が、一体何だというのだろう。

 大方、なよなよしているだの、女っぽい顔をしているだの、難癖を付けてくるに決まっている。ユーミルの揚げ足を取ることに関しては余念がないバスカル達の考えは、学園生活の三年以上の間で何となく分かるようになってきていた。
 高い薬草棚に手が届かないところを見られれば、それだけでチビだと散々からかってくる。長期休暇の時期が終われば、里帰りで持たせられた数々の土産物を大っぴらに自慢し、貧しさから滅多に帰省することもできないユーミルを馬鹿にしたり、事あるごとに魔法貴族という家柄を持ち出して威張り散らしたりするのがバスカルだ。どうせ、このまま相手をし続けたところで、愉快な話にはなり得ないことは目に見えていた。

 目の前に立ちはだかる三人を押しのけ、開いた人と人の隙間から強引に脱出する。いつもは気弱で、おどおどとして、決して口答え以上の反発をしてこないユーミルの、予想外の強気な態度に、バスカル達はすっかり調子を崩されているようであった。

「……とにかく、僕は実力でやり切っただけだからね。そこに勝手な難癖をつけないでほしい。…気分が悪いよ」

 眼鏡越しに、呆然と立ち尽くしている三人の男子生徒を睨みつけ、形のいい唇を尖らせてふん、と小さく鼻を鳴らす。

「おい……!」

 バスカルが何か言いかけたが、それを綺麗さっぱり無視するだけの強さが、今のユーミルにはきちんと宿っていた。
 とにかく、今は厄介者の相手などしている暇はないのだ。放課後は図書室へ行き、広大な書架の中から課題の本を探し出して、遅れていた勉強を取り戻し、更に先に進めなければいけない。

 たった数日前、秘密の方法でグレンに授けてもらった自信の花は、ユーミルの胸の中で間違いなく育ち、蕾を震わせながらゆっくり花弁を開こうとしている。
 颯爽とした足取りで図書館に続く回廊を歩くユーミルの背筋は、猫背ではなく、いつしか杉の若木のようにしゃんと伸び切っていた。
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