大魔法学校の落ちこぼれは、ざまぁの果てに花嫁になりますっっ♡

槇木 五泉(Maki Izumi)

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魔法回路の強化

魔法回路の強化.13

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 果たして、魔法の三元素を扱う授業でも、ユーミルの気分は好調だった。
 学生と教授のほとんどは、腰に帯びられるほどの短い杖を使って魔法を操る。グレンのようなアークワンドを使いこなせる教授は、この大魔法学校にさえ数えるほどしか存在しない。

 今日の授業は、学園の中庭で行われる実習だ。二十フィッドほど離れた距離にあるガラス瓶の水を、正確に氷に変えるという『氷の元素』の実技だった。まずは教授のお手本、次に、成績優秀な学生が模範となって魔法を見せるというのが授業の流れだ。

 元素学の、痩せて神経質な教授は、咳払いをしながら生徒をぐるりと見渡した。実技をやりたい者は、と言い出す前に、数名の生徒が手を上げている。その中には、あの意地悪なバスカルの姿もあった。短い金髪をワックスで撫で付けた、そばかすの目立つバスカルは、他の生徒より背も高く、体格もがっしりしていて、自身に満ち溢れた青い眼を挑戦的に細めている。都でも有数の魔法貴族の出身であるバスカルの尊大な態度が、ユーミルはあまり好きではなかった。教授は、尖った顎先を撫でながら、ひとつ頷いてバスカルを指名する。

「……よろしい、では、バスカル。見せてみなさい」
「はい、先生」

 右手にワンドを構えたバスカルが悠々と前に進み出て、腕を真っ直ぐに伸ばして意識を集中させる。
 マナを氷のエネルギーに変換し、より遠くまで飛ばして、離れたところにあるガラス瓶の中身を凍り付かせるというのは、なかなかに技術のいる技だ。少しでも集中が逸れるとターゲットを逃してしまうし、威力が弱ければ水を氷に変えることはできない。

 自信満々、といった様子で、薄笑いさえ浮かべながら、バスカルは教本通りの、氷のマナを操る呪文を一字一句間違わずに唱え始めた。そして詠唱が終わると、杖の先に集まったマナが、二十フィッド先のガラス瓶に向けて水色の軌道を描いて真っ直ぐに放たれる。
 見事な名中の様子を見て、生徒一同に感嘆の声が広がった。学園の小間使いである、犬の姿をした小柄な獣人・コボルドの助手がすぐさま走り、凍り付いたガラスの瓶を取って生徒たちの前に戻ってくる。
 瓶の中身の水は、すっかりと氷になっていた。瓶を押し包んでじわじわと氷点下の圧を掛け、凍り付かせる魔法など自分にとっては容易いとばかりに、バスカルは胸を張ってフン、と鼻を鳴らす。期待通りの成果を見せた生徒に、教授は顎先を撫でながら満足げに頷いた。

「うむ、見事な腕前だ。遠くから、小さな標的にマナを集中させて凍り付かせる…。これが氷のマナを操る上で一番肝心な技術だからな。皆も、バスカルの手本を見習って練習するように。…さて、もう一人ばかり、見本となる生徒は…」
「あぁ、それでしたら、先生」

 不意に、バスカルが元素学の教授の言葉を遮って口を挟んだ。その意地の悪い青い眼が、隅に立っているユーミルを射すくめていることには、とっくに気付いている。
 バスカルが何をしようとしているのかは、一目瞭然だった。ギリ、と唇の端を噛んで、重く垂らした前髪の間からその顔をキッと睨み付ける。そんなユーミルの僅かな抵抗など意にも介さず、バスカルはさらりと言ってのけるのだ。

「ユーミル・ル=シェに手本を見せて貰いたいと思います。何せ、大魔法学校の特待生ですからね、彼は。…こんな魔法なんか、朝飯前のはずですよ」
「……バスカル…」

 拳を握り締めて、いくら強く見据えても、それが居丈高なバスカルを揺らがせることはない。あちこちで、クスクスと笑う声が聞こえる。それは、近頃全く本調子を出せていない、落ちこぼれたユーミルの不調を知っている、人の悪い生徒たちの仕業だった。

「……なるほど、常に大魔法学校で首位を争っているユーミルか…。最近、成績が落ちているようだが、復習はしているのだろうね…?」
「……はい…」

 教授の言葉に、ユーミルは目をつむって深い溜息を吐いた。教授や生徒たちの前で振るわないところを見せ付け、ユーミルに恥をかかせ、本格的に追い落としを掛けるつもりなのだろいうことは、バスカルのねじくれた笑顔を見ていれば聞かずとも理解できる。
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