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魔法回路の強化
魔法回路の強化.12
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翌朝、いつものように、起床を告げる鐘の音で目を覚ました。
やはりそこはいつもの、ユーミルに与えられた屋根裏部屋の一角で、ベッドの上から身を起こしてみても、青い花弁のひとかけらすら見当たらない。
寝ぼけまなこで眼鏡を引き寄せ、視界を確保すると、ただ勉強机の上で朝日を浴びる桃色の茎をした観葉植物の鉢が目に飛び込んできた。それは、間違いなく大魔法士グレンがこの部屋を訪れたという証拠である。
「………ん…」
そろりと床の上に立ち上がると、身体の奥にはまだ鈍い疼きを感じた。それは、未熟な身体で三回も絶頂に達したのだから仕方がないと言えばそうなのかもしれない。しかし、昨晩のあの、苦痛すれすれの快楽と、グレンの口に含まれる恥ずかしさを思い出し、どうしても頬に火照りを覚えてしまうのだ。
「…顔、洗ってこよう…」
ぼそりと独り言を零し、歯ブラシと洗顔の道具を取って、一般寮生の共同洗面所へと向かう。少し頭を冷やして切り替え、ひとまずは、待ち受けている魔法学の授業に集中することにした。
グレンがこの部屋を訪れるとしたら、恐らくは、休みが始まる週末の夜だ。あの曄苑の大魔法士は、また必ずこの部屋を訪れてくれるだろうか。考えれば不安に陥る癖をどうにか宥めながら、机の上の観葉植物の鉢にちらりと目をやった。そういえば、これに水をやるための小さなジョウロを、どこかから借りて来なければならない。少なくとも、この植物が枯れずにある限り、グレンの住む世界とこの部屋は繋がりを保っているのだろうと思うことができる。
「…よし、ユーミル・ル=シェ。おまえはまだ、卒業試験に臨むには程遠いんだ。まずは、遅れていた歩みを取り戻すところからだぞ…」
自分で自分にそう言い聞かせると、不思議と気力が湧いてきた。パチン、と頬を叩き、朝の身支度に向かう。
果たして、魔法薬学の教授は、ユーミルが再提出したポーションの内容を確認し、感心したような、驚いたような顔で首を傾げていた。
「いや、ユーミル…。こんな純度の高いポーションを作れるのなら、最初からもっと本気を出していたらよかったのではないかね…?」
「ッ、す、すみません…!」
「だが、ふむ…これが偶然の産物なのか、何なのかは解らないが、とにかく、学生でありながらこれほど高い純度のポーションを調合してくるとは、大したものだ。…約束通り、この講義は及第点をあげよう」
「……はい、すみません…。ええと、いや、ありがとうございます…!」
つい癖で謝ってしまい、長く伸ばして顔を隠した黒髪の下から、ちらりと教授の顔を見上げる。年配の魔法薬学の教授は、皺だらけの険しい顔に、僅かに微笑を浮かべながら、成績簿に魔法のペンでさらさらと何かを書き込んでいた。
「これで、魔法薬学は終わり、っと…。後は、魔法歴史学と…マナの扱い方の上級講座と、三元素の授業だな…」
それはどれも、元々こつこつと積み重ねて成果を出すのが得意なユーミルが、最近急に振るわなくなった学科である。つまづいていた一科目がうまくいくと、気持ちも晴れやかになり、あれだけ高く感じていた壁を飛び越えてみようという気になれた。
これこそが、グレンの言っていた『活力』というものなのかもしれない。心なしか軽い身体の中に、何らかの物質が停滞せずに循環しているように感じた。鉛のように身体が重たかった三日前の話が、まるで嘘のように思える。
やはりそこはいつもの、ユーミルに与えられた屋根裏部屋の一角で、ベッドの上から身を起こしてみても、青い花弁のひとかけらすら見当たらない。
寝ぼけまなこで眼鏡を引き寄せ、視界を確保すると、ただ勉強机の上で朝日を浴びる桃色の茎をした観葉植物の鉢が目に飛び込んできた。それは、間違いなく大魔法士グレンがこの部屋を訪れたという証拠である。
「………ん…」
そろりと床の上に立ち上がると、身体の奥にはまだ鈍い疼きを感じた。それは、未熟な身体で三回も絶頂に達したのだから仕方がないと言えばそうなのかもしれない。しかし、昨晩のあの、苦痛すれすれの快楽と、グレンの口に含まれる恥ずかしさを思い出し、どうしても頬に火照りを覚えてしまうのだ。
「…顔、洗ってこよう…」
ぼそりと独り言を零し、歯ブラシと洗顔の道具を取って、一般寮生の共同洗面所へと向かう。少し頭を冷やして切り替え、ひとまずは、待ち受けている魔法学の授業に集中することにした。
グレンがこの部屋を訪れるとしたら、恐らくは、休みが始まる週末の夜だ。あの曄苑の大魔法士は、また必ずこの部屋を訪れてくれるだろうか。考えれば不安に陥る癖をどうにか宥めながら、机の上の観葉植物の鉢にちらりと目をやった。そういえば、これに水をやるための小さなジョウロを、どこかから借りて来なければならない。少なくとも、この植物が枯れずにある限り、グレンの住む世界とこの部屋は繋がりを保っているのだろうと思うことができる。
「…よし、ユーミル・ル=シェ。おまえはまだ、卒業試験に臨むには程遠いんだ。まずは、遅れていた歩みを取り戻すところからだぞ…」
自分で自分にそう言い聞かせると、不思議と気力が湧いてきた。パチン、と頬を叩き、朝の身支度に向かう。
果たして、魔法薬学の教授は、ユーミルが再提出したポーションの内容を確認し、感心したような、驚いたような顔で首を傾げていた。
「いや、ユーミル…。こんな純度の高いポーションを作れるのなら、最初からもっと本気を出していたらよかったのではないかね…?」
「ッ、す、すみません…!」
「だが、ふむ…これが偶然の産物なのか、何なのかは解らないが、とにかく、学生でありながらこれほど高い純度のポーションを調合してくるとは、大したものだ。…約束通り、この講義は及第点をあげよう」
「……はい、すみません…。ええと、いや、ありがとうございます…!」
つい癖で謝ってしまい、長く伸ばして顔を隠した黒髪の下から、ちらりと教授の顔を見上げる。年配の魔法薬学の教授は、皺だらけの険しい顔に、僅かに微笑を浮かべながら、成績簿に魔法のペンでさらさらと何かを書き込んでいた。
「これで、魔法薬学は終わり、っと…。後は、魔法歴史学と…マナの扱い方の上級講座と、三元素の授業だな…」
それはどれも、元々こつこつと積み重ねて成果を出すのが得意なユーミルが、最近急に振るわなくなった学科である。つまづいていた一科目がうまくいくと、気持ちも晴れやかになり、あれだけ高く感じていた壁を飛び越えてみようという気になれた。
これこそが、グレンの言っていた『活力』というものなのかもしれない。心なしか軽い身体の中に、何らかの物質が停滞せずに循環しているように感じた。鉛のように身体が重たかった三日前の話が、まるで嘘のように思える。
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