大魔法学校の落ちこぼれは、ざまぁの果てに花嫁になりますっっ♡

槇木 五泉(Maki Izumi)

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若きユーミルの苦悩

若きユーミルの苦悩.2

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 名門貴族魔法士の家の出である同級生のバスカルは、出会った時から、特待生という枠で入園したユーミルを何かにつけて敵視していた。実際、偉大な魔法士を何人も輩出した血筋に加えて、その名誉をおとしめるまいと努力を重ねる彼は、元々マナの扱いが上手いユーミルに負けず劣らずの魔法の腕を持っている。

 が、事あるごとにユーミルに突っかかり、邪魔をするバスカルを止める者は、この大魔法学校には存在しない。他の魔法士志望の学生は、有力な家の息子であるバスカルと敢えて揉め事を起こそうとは考えなかったし、ユーミルが何を言ってもどうせ信じて貰えず、状況が変わらないのは分かり切っていたので、巧妙なバスカルの嫌がらせの数々をわざわざ教師に報告する気にもなれなかった。

 ユーミルの家庭、ル=シェ家は魔法士の家柄だが、子だくさんで、家計のやりくりは決して楽ではない。それなのに都で一番学費の高い魔法学園に進学することができたのは、ユーミルの魔法の腕が優れていたからだ。
 特待生として、授業料と寮の費用こそ免除されてはいたが、茶色いケープのついた立派な制服はよく見るとあちこち綻びたところを縫ってあり、チェック生地のスラックスの裾も、成長の方が早くてみっともない程に短く、ソックスの見えるくるぶし丈になってしまっている。
 もちろん、素直に両親に言えば、制服のスラックス代くらいはどうにか工面してくれるだろう。しかし、八人兄弟の長男として、幼い弟妹を育てるために毎日精一杯働く父と母に余計な迷惑を掛けることは気が引けた。大丈夫、まだ辛うじて着られるじゃないか、そう言い聞かせて体に合わない制服を着ているユーミルの家庭事情を詳しく知っている生徒は何も言わなかったが、比較的裕福な魔法士の家で育った生徒が多いこの学園では、倹約に励むユーミルを陰でクスクスと笑い合う生徒の方がはるかに多かった。
 それでも、皆、特待生としてこの大魔法学校に入園したユーミルの魔法の腕には一目置いていたのだが、最近、その肝心の魔法の成績がどうにも冴えないのだ。

『あと一年も経たないうちに、卒業だ…』

 小石を投げつけられ、痛む後頭部をさすりながら、重たく垂れた黒い前髪の下から回廊の外の庭を見つめて、ぼんやりと想う。
 学園の広大な庭の向こうには、古代の賢者たちが智慧を集めて建てたという魔法建造物、『アルザールの尖塔』の茶色い螺旋形の石壁があった。


 卒業試験は、その方法を聞けば大して難しくもないように思える。
 愛用のほうきにまたがって空を飛び、この、真下では地面に仰向けにならなければ頂上が見えないほど高い尖塔の頂上に向けて、一直線に飛翔するのだ。そして、頂上にある『叡智えいちの錦旗』を真っ先に手にした者が、その年の首席卒業生となる。

 だが、アルザールの尖塔を取り巻く空気は、常に異次元からの魔力の影響を受けて乱れていて、頂上付近では、何の前触れもない突風や落雷すら発生しうるという。防御魔法を使いこなすことが出来ない者は命を落としかねず、そんな生徒を振るい落とすために、中腹の辺りで妨害する教師陣に行く手を阻まれれば、先へは進めない。

 大魔法学校で教鞭きょうべんを取る優秀な魔法士たちの手を掻い潜り、上空を吹き荒れる嵐の壁を越えて、ついに到達した塔の上でもし他の生徒と鉢合わせれば、その時、ライバルを蹴落とすのは、自分自身が身に着けた攻撃魔法の腕前だ。

 常に上を目指して進み、自分の力に自信を持って、しかし驕りたかぶることなく魔法の腕を磨いた者だけが手にすることのできる、虹色に輝くという錦の旗。しかし今のユーミルには、その旗を手にしている自分の姿を思い描くことが、どうしてもできなくなっていた。

『入園する前は、あれだけ希望に満ちていたのに…。どうしてなんだろうなぁ…』

 少し離れていても、その頂上を見上げるためには思い切り上向かなければならない、全ての魔法士の卵が目指す塔の頂点。とても手が届きそうにない天空を、伸びた前髪の隙間から、眼鏡越しに見上げる緑色の瞳。
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