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若きユーミルの苦悩
若きユーミルの苦悩.1
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ここは、魔法の都ソーレックス。
太古の昔から、魔力の源とされるマナが集約しやすいと言われている土地で、その理由は、この都の上空が『無限の起点』の裏側の次元に位置するからだと伝えられている。
もちろん、確証はない。だが、太古の賢者たちは言い伝えを固く信じており、街の中心には、無限の魔力に到達せんとして作られた高い塔、『アルザールの尖塔』が高く聳え立ち、妖精や小悪魔など、普段は人間と関わり合いを持たない種族ですら、この塔の周囲にはよく現れるという噂があった。
そして、この塔から程近いところにあるのが、人間の都で一番名高い大魔法学校、『ソーレックス魔法学園』だ。数ある魔法学校の中でも最も古いこの魔法学校は、唯一、神秘を秘匿する『大魔法学校』を名乗ることを認められており、それ故に、才能のない者、偉大なる大魔法士を輩出した由緒正しい家柄でない者、つまり入園試験に不合格であった者の入園は、敷地への立ち入りであっても事実上不可能である。
十六歳から二十歳になるまでの四年間、この大魔法学校で魔法について学んだ卒業生は、ほぼ例外なく魔法士としての成功が約束されているようなもので、特に、この大魔法学校を何番目の順位で卒業したかは、名高い家柄の魔法士にとって何より重要なことだった。
誰しも、『大魔法学校の落ちこぼれ』にはなりたくない。
そうならない為には、日々魔法の研鑽を怠らないことが肝要なのだが、中には最も手っ取り早い方法で落ちこぼれの座を逃れようとする不届きな生徒もまた、存在するものだ。
***
カツ、と背後から飛んできた小石が頭に当たり、ユーミルは顔を顰めて振り返る。
高い天井を持つ魔法学園の回廊で、物陰から小さな杖を振り翳してクスクスと笑う、数人の子供じみた声が聞こえた。
「見ろよ、俺の物質移動の魔法。狙ったところにちゃんと当たるだろ?」
「だったら、もっとデカい石を動かせばよかったんじゃない?」
「バカ、変に大怪我でもさせたら、流石の貴族魔法士の家の出身だって学園長の呼び出しを喰らうぞ。やるなら、その辺も考えてからやれよ」
「バスカル、おまえ、よくそういうとこに気が回るよなぁ…」
あぁ、またか。と、ユーミルは心底憂鬱な気分で溜息を吐いた。柱の陰から、わざとユーミルに向けて魔法で小石を飛ばしたのは、この魔法学校で最も成績が良く、かつ名高い貴族魔法士の子弟であるバスカルと、その取り巻きのような学生たちだ。綺麗に分けて流し、ワックスで整えた短い金髪に、そばかすの目立つ顔をしたバスカルは、青い眼を細めて底意地の悪い笑顔でユーミルを見つめてくる。
「貧乏な平民の家から、無理して入園したんだろ?特待生枠とかで。なのに最近、魔法の実技でも、学科試験でも、点数が全然悪いじゃないか。無理して居座る必要もないんじゃないか?え?ユーミル」
「……最近、ちょっと調子が悪いだけだよ…。そんな言い方は止めてくれ…」
ズキズキと痛む頭を、顔を隠す程中途半端に長く伸びてしまった黒髪の上から押さえ、眼鏡越しにバスカルたちを睨み返した。だが、ただでさえ弱気で引っ込み思案のユーミルのそんな儚い抵抗が、一体彼らにどれほどの影響を与えられるというのだろうか。
実際、ユーミルの家、ル=シェ家は魔法士の家系だったが、この魔法学園に入園するには不釣り合いなほど貧しかった。それでも、小さい頃から魔法の修行だけを積み重ねた結果、奨学金を貰って特待生という枠で入園を許可され、授業の過程も、残すところあと一年を切っている。
太古の昔から、魔力の源とされるマナが集約しやすいと言われている土地で、その理由は、この都の上空が『無限の起点』の裏側の次元に位置するからだと伝えられている。
もちろん、確証はない。だが、太古の賢者たちは言い伝えを固く信じており、街の中心には、無限の魔力に到達せんとして作られた高い塔、『アルザールの尖塔』が高く聳え立ち、妖精や小悪魔など、普段は人間と関わり合いを持たない種族ですら、この塔の周囲にはよく現れるという噂があった。
そして、この塔から程近いところにあるのが、人間の都で一番名高い大魔法学校、『ソーレックス魔法学園』だ。数ある魔法学校の中でも最も古いこの魔法学校は、唯一、神秘を秘匿する『大魔法学校』を名乗ることを認められており、それ故に、才能のない者、偉大なる大魔法士を輩出した由緒正しい家柄でない者、つまり入園試験に不合格であった者の入園は、敷地への立ち入りであっても事実上不可能である。
十六歳から二十歳になるまでの四年間、この大魔法学校で魔法について学んだ卒業生は、ほぼ例外なく魔法士としての成功が約束されているようなもので、特に、この大魔法学校を何番目の順位で卒業したかは、名高い家柄の魔法士にとって何より重要なことだった。
誰しも、『大魔法学校の落ちこぼれ』にはなりたくない。
そうならない為には、日々魔法の研鑽を怠らないことが肝要なのだが、中には最も手っ取り早い方法で落ちこぼれの座を逃れようとする不届きな生徒もまた、存在するものだ。
***
カツ、と背後から飛んできた小石が頭に当たり、ユーミルは顔を顰めて振り返る。
高い天井を持つ魔法学園の回廊で、物陰から小さな杖を振り翳してクスクスと笑う、数人の子供じみた声が聞こえた。
「見ろよ、俺の物質移動の魔法。狙ったところにちゃんと当たるだろ?」
「だったら、もっとデカい石を動かせばよかったんじゃない?」
「バカ、変に大怪我でもさせたら、流石の貴族魔法士の家の出身だって学園長の呼び出しを喰らうぞ。やるなら、その辺も考えてからやれよ」
「バスカル、おまえ、よくそういうとこに気が回るよなぁ…」
あぁ、またか。と、ユーミルは心底憂鬱な気分で溜息を吐いた。柱の陰から、わざとユーミルに向けて魔法で小石を飛ばしたのは、この魔法学校で最も成績が良く、かつ名高い貴族魔法士の子弟であるバスカルと、その取り巻きのような学生たちだ。綺麗に分けて流し、ワックスで整えた短い金髪に、そばかすの目立つ顔をしたバスカルは、青い眼を細めて底意地の悪い笑顔でユーミルを見つめてくる。
「貧乏な平民の家から、無理して入園したんだろ?特待生枠とかで。なのに最近、魔法の実技でも、学科試験でも、点数が全然悪いじゃないか。無理して居座る必要もないんじゃないか?え?ユーミル」
「……最近、ちょっと調子が悪いだけだよ…。そんな言い方は止めてくれ…」
ズキズキと痛む頭を、顔を隠す程中途半端に長く伸びてしまった黒髪の上から押さえ、眼鏡越しにバスカルたちを睨み返した。だが、ただでさえ弱気で引っ込み思案のユーミルのそんな儚い抵抗が、一体彼らにどれほどの影響を与えられるというのだろうか。
実際、ユーミルの家、ル=シェ家は魔法士の家系だったが、この魔法学園に入園するには不釣り合いなほど貧しかった。それでも、小さい頃から魔法の修行だけを積み重ねた結果、奨学金を貰って特待生という枠で入園を許可され、授業の過程も、残すところあと一年を切っている。
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