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八章 ほころび

焦がれるのもまた一苦労

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「僕の友達です、この人」

抵抗するのも憚られるような立場の人なためにいつもなら知り合いとはいえ情熱的すぎるスキンシップにドン引いて反射的に反撃している所だけど、生憎僕はこの人に弱い。

途中からされるがままに死んだ目をして30分、……30分経ったのか。


………正直、うざかったです。

流石に立っているのも疲れたために影を使って抜け出そうと試みれば何かを察知したのかダルーダさんに瞳孔開ききった目で見つめて本気で恐怖をかんじた……。

見た目も種族も性格も根本から全く違うにも関わらずやっている行動があの強引な俺様とまるっきり被るのは気のせい……だと思いたい。


「……ならば許そう」
漸くダルーダさんも落ち着き、改めてソファーに座った僕の隣に自然な流れで収まったこの方、ダルーダさんに誤解の無いようはっきりと言っておく。

会話の通じなかった状態を見ていただけに正直今の厳格なオーラ放つダルーダさんは……微妙だけどり

額に皺を作り切れ長の目を開き向かいに腰かける王様を見るこの人は普通にかっこいい。

「すまない大国の王よ、我が花嫁を前に少しばかり興奮してしまった、謝罪しよう」
「少し……?」
「あぁ、”少し”だ」
「さいですか………」
穏やかながらはっきりと言い切ったダルーダさんは僕が淹れたお茶を手に取るとゆっくりと飲みほし口の端を上げた。

「うむ、旨い…、ラグーンはそうでもないかもしれないが、瞬きでは済まない時間、俺は片時もお前を忘れず何時目覚めるか俺は待っていた、正直言えばそこの人間と外の魔獣さえいなければ問答無用で連れ帰っていたと断言しよう」
「断言……」
「えぇ……」
軽い言葉とは裏腹にダルーダさんの深海のようにほの暗い目は冗談を言っているようには思えない。


「あぁだが俺とて礼節は弁えているつもりだ、数分程ラグーンとの再開を噛みしめ今日は我慢しておこう」
「数分……?」
「がまん……?」
さんじゅっぷん……。

「む? なんだ人間、聞きたいことがあるなら口で言え」
「い、いや……」
器用に片眉を上げたダルーダさんに話しかけられ、ほとんど空気みたいになっていた王様は引き気味に笑う、するとダルーダさんは肘をつきつまらなそうに息を吐いた。

「今俺はすこぶる機嫌が良い、ラグーンの友人の質問なら喜んで答えてやろう、俺の気が変わらんうちに言え」
「…………ではお言葉に甘えて」
気だるげに促され咳払いをした王様は居住まいを正すと眉を寄せ顔を引き締める。

「貴殿はいったい何者なんだ、突然現れラグーンは貴殿について知っているようだが、その姿、その独特な姿はまさしく魔族、だが魔王であるラグーンが下手に出ているからにはただの魔族ではないだろう」
「……ほう、中々に良い考察だ」
固い声で言った王様の言葉を聞きダルーダさんは足を組むと面白そうに笑った。

「ラグーン」
「っ…はい?」
少し暇になったから王様の影で震えているオークちゃんをぼうっと眺めている所にの御氏名に体がびくつく。
あわてて目線を右斜め上に移せば屈託のない笑みのダルーダさんが迎える。

「よい友を持った、褒めてやろう」
「……どうも?」
傲慢に腕を組み機嫌よく目尻を下げダルーダさんは王様を三つ目で見据える。

「さて、質問の答えだが……、なに、気を張る必要はない、先程も名乗ったが俺の名はダルーダ・ロスト・ウィリアス 魔王十桀が二席、そうだな……簡潔に言えばラグーンの先輩にあたるものだと思えばわかりやすいだろう?」
「魔王…!?」
「此処にはラグーンを迎えるために来た……が、その時期には些か早いようだがな」
「先輩じゃなくて格上の方ね……」
訂正するために口を挟んだけど……王様固まって聞いてない。


「いやいや、俺は二席、お前は四席、言葉にすればあまり差はないだろう」
「その差が地下と天空並みにあるんですよ、末席だったのになんで位が上がってるんですかね」
おまけ程度についた肩書なんだけどなぁ。

「それはお前、それよりも上の魔王が死んだからに決まっているだろう」
「えぇ……」
目を丸くして言うダルーダさんに僕のほうが驚きたいとたじろぐ。

「どのような理由があれ魔王は年功序列が鉄則、魔王はただそこに存在するだけで勇者や傭兵義兵に国絡みの戦争が寄り付いてくる、ルールもマナーもモラルもなにもかも愚な聖都相手に意味を為さん、生きている事こそが魔王の力の、それこそが生き汚く存在する魔の王の存在証明だ」
「それは…知らなかったな」

少し立ち直ったらしい王様が興味深げに言えばダルーダさんは眼光鋭く目を光らせ笑う。

「知らぬのも無理はない、一部を除きほとんどの屑共は総じて我らを討伐しようと躍起になる、フッ……血眼になって刃を向けてくる姿は実に滑稽でなぁ……なぶり殺したくなるわな……」
「……さいですか」
恐ろしい事を言う……。

「おっと…そういえばラグーンはそういったものは不得手だったな、すまんすまん」
「いえ……大丈夫ですよ」
「おまえには穏やかな場が似合う」
「へえ……」
むしろこの人のあり方としては間違ってないから、うん、なんでもない。


反応に困り乾いた笑いをこぼせばダルーダさんの顔が途端に不機嫌そうに曇る。

「……やはりその口調は頂けんな」
「ええっと」
「………」
「話が逸れたな、質問の答えはこれで十分だろう」
「あぁ、感謝する」
気難しげにダルーダさんを見て王様は頭を下げる、目を瞬かせその様子を見れば、ふいにダルーダさんの大きな手が頭に乗った。

「構わん、人間は嫌悪の対象だがそれとこれとは話は別だ、優秀な者は評価する、愚な者は消す、これで十分」
「随分と横暴な……」
「俺の視界に入らなければ目を瞑る位の慈悲は持っている」
怖…。

「……そうか、もう一つ聞きたいことがあるんだが」
「いいだろう」
「何故俺が国王だと?」
髪の毛から、耳に鼻と僕の顔を撫でまわしていた手を止めダルーダさんは手を組んだ。

「ふふ、答えたいのは山々だが……それを語るには今は時間が足りない」
「なに?」
目つきを鋭く変えた王様とは対照的に穏やかに笑ったダルーダさんは僕の肩に腕を回し自身に引き寄せる。


「五分以内に城に帰ることをお勧めしよう、イウァン・キング・センブレル殿よ、優秀な側近でも頂点無くして解ける問題には限界があるのではないかね?」






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