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七章 欠片
魔王の夢
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夢が、出来た。
それはとてもささやかで、少年にとってはとても大きな物だった。
頑張れば手に届くその夢を得るために、少年はとにかく努力をした、努力は自分を裏切らないと信じて。
「命乞い、切望、願望、生憎、嫉妬、裏切り……そして希望、その先に訪れる末路は、絶望のみ」
一歩前に踏み出せば踏んだ箇所が黒く染まる。
「僕はその絶望を広め、増やし、ありとあらゆる生物を闇の底に引きずる者……さぁ」
もう一歩踏み出せば黒い波紋が心臓が脈打つように周囲へと広がる。
その様子を驚いた様子で見ている彼女、リリーナに僕は笑顔を向ける
「さぁ……構えてこれでもお飾りとはいえ僕、魔王だから」
「……!! 」
僕がにこりと言えば彼女は弾かれたように後ろへと飛び退いた。
「なによ……これ」
肩をすくめて苦笑する僕、だが彼女は先程まで自分が立っていた屋根を凝視する。
そこ赤いレンガの屋根、彼女のたっていたその場所には、ベットリと、黒い液体のようなものが出来ていた。
「影だよ」
影操作
自ら、もしくは周囲の僕の視界に入る全ての影を操る、影使いの基本的な技能。
そしてその泥のような影からは真っ暗な手が一つ飛び出ている。
「上手く進めばこれで貴女を拘束して、そのままナイフで喉元をプスリとする予定だったんだけど……失敗」
「っ! そんな平然に……! 燃やせ! ファイアーボール!! 」
「影よ」
彼女の杖の先端から放たれる火球を棒は指先から影の塊を出し吸収した。
「さっきからそればっかりじゃないの……! 」
「これは僕の能力の基本的な力だよ」
忌々しげに僕の指先に浮かぶ影を見る彼女に僕はにこりと言った。
「僕の特殊技能、ユニークスキルの名前は【影使い】一見地味だし、僕も地味だと思ってるけど、汎用性は抜群、影で翼を作って空を飛び、影で手を作って壁や地面に設置すれば、簡単なトラップの出来上がり、影で刃なんて作れば……簡単に暗殺ができる名器の出来上がり」
そうにやりと笑って人差し指をすっ、と横に振れば、その振った部分に黒い影が浮かび上がる。
その黒い影を消して、手のひらの上に四角い氷の輪っかを作る。
そしてその輪っかの穴の部分に息を吹きかければ、まるでシャボン玉のように輪っかが増えていく。
「氷の洗礼」
そう呟いて、更に息を注げば、周囲に氷の輪っかがいくつも、いくつも浮かび上がり、そして砕けた。
夕日に照らされ浮かぶ氷の輪っか。
砕けた氷はキラキラと宙を舞い、辺りを綺麗に染め上げる。
「僕はとっても弱い、それは誰から見ても明らか、強くなるために鍛えれば良い話だけど、今はそんな暇はない、なら貴女の行動を阻害するしかないよね? 」
小首を傾げて言えば信じられないものを見る目で氷の輪っかを見て、今度は僕を見る。
「こんなもの……! 」
振り払おうと手をあげる彼女に僕はまったをかける。
「触ると、貴女の行動速度が少し、鈍くなりますよ? 」
「少し?! そんな舐めた事を……! 」
「その少し、の氷を今いくつも撒いてある、それら全てを受けた頃には貴女はカタツムリになっちゃうね? 」
「その、喋り方を! やめろお!! 」
血走った目で彼女はこちらへ走り出した。
だが、肩や頭、足や、手に氷の輪っかが当たっていくにつれて徐々に、彼女の動きは遅くなり、数メートル先で息も絶え絶えに、その場で膝をついた。
じっと、僕を睨む彼女に僕は、笑みを消す。
「幾らでも卑怯と言いなさい、幾らでも馬鹿にしなさい、これが、僕の戦い方だ」
「はぁ……はぁ! 燃やせ!! 」
最後の力を出すような声で、彼女は手の先から大きな、火球を放った。
空気を焦がし僕に迫る火の塊、とても早く、数秒後には僕に直撃するような光景に目を細くした僕は片手に黒い球体を出す。
そしてもう片方の手を球体の近くに持っていき指を鳴らした。
すると球体はくるくると回転をはじめ、グングンと球体が大きく、僕の身長大に膨らんでいく。
大きくなった球体を前に付きだせば目前まで迫っていた火の玉がその球体に吸い込まれ消えていった。
「ああもう……畜生!!」
悪態をつき、屋根を殴る彼女。
「さて、チェックメイトかな?」
「まだだよ!!」
ため息をついて、彼女に言えば、自分に言い聞かせるように叫んだ女の人は自分の拳を握るとその部分が赤く光りはじめる
さて、お次は何しようか。
「なあラグ~」
「ふぉ! 」
思考を巡らせようとしたところで耳元から声が聞こえ、大袈裟に反応する。
軽く飛び退いて見れば、眉に少し皺を寄せ不満気な様子のアルさん。
「そんなちみちみ雑魚いたぶってないでちゃっちゃとやってかえろうぜ」
「これが僕のバトルスタイルなんだけどねぇ」
「ふーん………めんどくせえ戦いかただな」
め ん ど く せ え 戦 い か ただって?。
「色々と効率考えたら今の僕にはこれが一番なんだよ馬鹿野郎」
「あぁん? 誰が馬鹿だって、おっと」
にたりとアルさんが笑った所で上から氷の塊を落とすが難なく避けられてしまった。
「チッ」
「ち、じゃねえよこら、もう日が沈んで夜になるぜ、もう俺飽きたから一緒に帰ろう」
「最後の奴が一番の理由でしょ」
「おう、で、雑魚が何かやってるぜ?」
「え?、ふぉっ」
アルさんに促されるまま後ろを見ればあの視界いっぱいに広がる大きな、離れた場所からでも熱く感じる火。
「……なんじゃこりゃ」
火の塊の下に目をむければ火の塊に向けて両手を上げて土色の顔をしている女の人がいた。
その様子を凝視していると息を絶え絶えの女性はにやりと笑う。
「ふ……ふふ、人を散々こけにしてくれたんだもの、これで全部全部……消し炭にしてやるわ………!!うふふ……ふ」
えぇぇ~~…………。
「あの人超怖いんですけど…………」
「ほれみろ」
女の人を見てアルさんに言えばアルさんは片方の眉を上げて笑う。
「お前が長々とやってたからだろうに………ちょっと下がってろ」
そして最後に低い声で言うと僕の前にアルさんが立った。
「さぁ 焼き尽くしてあげる!! 」
女の人が叫ぶと火の塊がゆっくりと、熱い熱波を放ちながらこちらに向かってくる。
そして彼女、リリーナは火の塊を放つと、その場に膝から崩れ落ちた。
…………やだわ
「大丈夫? 」
「任せとけ」
「ほんとにー? 」
「おうっ、お前は黙って見てろ」
得意気に首を鳴らすアルさんが心配になり離れた所にいるアイデンさんを見れば腕を組んで僕ににこりとしてるだけ。
「えぇ~? 」
疑心感たっぷりに視線を戻せばアルさんが得意気に笑い僕に親指を立てた。
「俺に惚れろよ? 」
あ、うん………。
「ガンバッテネ」
「おう、……頑張る程のことでもねえな」
喉を鳴らしにやりと笑ったアルさんは前を向くと、近くまで迫っていた火に向けて距離を詰めた。
目前まで接近したアルさんは飛び上がりながらくるりと回り、振り向き様片足をあげると火の塊に向かってサッカーボールを蹴るように蹴りを入れた。
僕がその様子に目を丸くしていると火の塊はあの質量に関わらず、ボールのように吹き飛び、空高く上に飛んでいくと、街全体を震わせながら大爆発を起こした。
「え? 」
何あれ、と言葉を漏らしていると、いつの間にか隣に歩いてきたアイデンさんが、自然な流れで僕の肩を抱き寄せ、頭を撫でた。
「ただの脳筋だ」
「なにそれ……」
「どうだラグーン、かっこよかっただろ? 」
面白そうに笑うアイデンさんに疑問の声を上げようとしたところで一仕事終えたとばかりにアルさんが戻ってきた。
「おかえりアルさっん!?」
おかえりと言おうとした所で突然腕を捕まれ、アルさんの懐に引っぱられる。
僕が声をあげる暇もなくも固い胸に頬が当たったかと思えばきつく抱き締められる。
なにこれとは思いながらも抜け出す気はないからされるがままになっていると、アルさんの口が耳元につく。
「おう、………ただいま」
「ふぉ!?」
間近で聞こえるアルさんの低い声に思わず変な声が出る。
「なあラグ、俺に惚れたか? 」
「えぇー……微妙」
「はは、そうかそうか………なあラグ」
「…………なに」
段々と弱くなっていくアルさんの声に返事を返した所でアルさんの腕の力が強くなり、抱きすくめられる。
「無事で良かった…………! 」
「…………!」
……初めて聞くアルさんの絞り出したように掠れた声。
そして僕を抱きしめる力が更に強くなるけど。
返す言葉が全く見つからなかったから、とりあえずアルさんの背中に腕を回し、抱き締め返しておいた。
あ、そうだ。
「ねえねえアルさん」
「なんだ? 」
「僕魔王らしかった? 」
「おう、かっこよかったぜ? 」
「なら良かった………アルさん」
「ん? 」
「アルさん汗臭い 」
「………今言うことかそれ? 」
「後アルさんお腹すいた、眠い」
「だから今の雰囲気で言うか? 普通」
「僕に普通を求めないでおくれ、アルさんばっちいから汗流して」
「ばっちい言うなし………」
ふ、と腕の拘束が解ける。
「ん? 」
「ラグはそのままでいてくれよ?」
「え? それって」
どういう意味、と見ようと顔を上げればアルさんの顔が間近に迫る。
そして身をひこうとした僕の頭を掴むと引き寄せられかさついた唇が重なる、そして反応するよりも早くぬるりとした舌が僕の口内に侵入して僕の舌を絡めとられ……うん、ディープキスやわ……。
息が苦しいとアルさんの胸を叩けば僕の腰に腕が回ってきつく抱き締められる、
余計悪化した。
「………ぷはっ」
漸く解放された時にはアルさんの腕の中でぐったりと動けない僕が完成する。
「さて、帰るか! 」
対して満足したもばかりに輝くアルさんに内心キレてる僕…………だけど。
「疲れたから運んでね…………」
「おう!」
もういいや。
「羨ましいぞお前ら………くっ!」
アイデンさんは黙ってようか。
それはとてもささやかで、少年にとってはとても大きな物だった。
頑張れば手に届くその夢を得るために、少年はとにかく努力をした、努力は自分を裏切らないと信じて。
「命乞い、切望、願望、生憎、嫉妬、裏切り……そして希望、その先に訪れる末路は、絶望のみ」
一歩前に踏み出せば踏んだ箇所が黒く染まる。
「僕はその絶望を広め、増やし、ありとあらゆる生物を闇の底に引きずる者……さぁ」
もう一歩踏み出せば黒い波紋が心臓が脈打つように周囲へと広がる。
その様子を驚いた様子で見ている彼女、リリーナに僕は笑顔を向ける
「さぁ……構えてこれでもお飾りとはいえ僕、魔王だから」
「……!! 」
僕がにこりと言えば彼女は弾かれたように後ろへと飛び退いた。
「なによ……これ」
肩をすくめて苦笑する僕、だが彼女は先程まで自分が立っていた屋根を凝視する。
そこ赤いレンガの屋根、彼女のたっていたその場所には、ベットリと、黒い液体のようなものが出来ていた。
「影だよ」
影操作
自ら、もしくは周囲の僕の視界に入る全ての影を操る、影使いの基本的な技能。
そしてその泥のような影からは真っ暗な手が一つ飛び出ている。
「上手く進めばこれで貴女を拘束して、そのままナイフで喉元をプスリとする予定だったんだけど……失敗」
「っ! そんな平然に……! 燃やせ! ファイアーボール!! 」
「影よ」
彼女の杖の先端から放たれる火球を棒は指先から影の塊を出し吸収した。
「さっきからそればっかりじゃないの……! 」
「これは僕の能力の基本的な力だよ」
忌々しげに僕の指先に浮かぶ影を見る彼女に僕はにこりと言った。
「僕の特殊技能、ユニークスキルの名前は【影使い】一見地味だし、僕も地味だと思ってるけど、汎用性は抜群、影で翼を作って空を飛び、影で手を作って壁や地面に設置すれば、簡単なトラップの出来上がり、影で刃なんて作れば……簡単に暗殺ができる名器の出来上がり」
そうにやりと笑って人差し指をすっ、と横に振れば、その振った部分に黒い影が浮かび上がる。
その黒い影を消して、手のひらの上に四角い氷の輪っかを作る。
そしてその輪っかの穴の部分に息を吹きかければ、まるでシャボン玉のように輪っかが増えていく。
「氷の洗礼」
そう呟いて、更に息を注げば、周囲に氷の輪っかがいくつも、いくつも浮かび上がり、そして砕けた。
夕日に照らされ浮かぶ氷の輪っか。
砕けた氷はキラキラと宙を舞い、辺りを綺麗に染め上げる。
「僕はとっても弱い、それは誰から見ても明らか、強くなるために鍛えれば良い話だけど、今はそんな暇はない、なら貴女の行動を阻害するしかないよね? 」
小首を傾げて言えば信じられないものを見る目で氷の輪っかを見て、今度は僕を見る。
「こんなもの……! 」
振り払おうと手をあげる彼女に僕はまったをかける。
「触ると、貴女の行動速度が少し、鈍くなりますよ? 」
「少し?! そんな舐めた事を……! 」
「その少し、の氷を今いくつも撒いてある、それら全てを受けた頃には貴女はカタツムリになっちゃうね? 」
「その、喋り方を! やめろお!! 」
血走った目で彼女はこちらへ走り出した。
だが、肩や頭、足や、手に氷の輪っかが当たっていくにつれて徐々に、彼女の動きは遅くなり、数メートル先で息も絶え絶えに、その場で膝をついた。
じっと、僕を睨む彼女に僕は、笑みを消す。
「幾らでも卑怯と言いなさい、幾らでも馬鹿にしなさい、これが、僕の戦い方だ」
「はぁ……はぁ! 燃やせ!! 」
最後の力を出すような声で、彼女は手の先から大きな、火球を放った。
空気を焦がし僕に迫る火の塊、とても早く、数秒後には僕に直撃するような光景に目を細くした僕は片手に黒い球体を出す。
そしてもう片方の手を球体の近くに持っていき指を鳴らした。
すると球体はくるくると回転をはじめ、グングンと球体が大きく、僕の身長大に膨らんでいく。
大きくなった球体を前に付きだせば目前まで迫っていた火の玉がその球体に吸い込まれ消えていった。
「ああもう……畜生!!」
悪態をつき、屋根を殴る彼女。
「さて、チェックメイトかな?」
「まだだよ!!」
ため息をついて、彼女に言えば、自分に言い聞かせるように叫んだ女の人は自分の拳を握るとその部分が赤く光りはじめる
さて、お次は何しようか。
「なあラグ~」
「ふぉ! 」
思考を巡らせようとしたところで耳元から声が聞こえ、大袈裟に反応する。
軽く飛び退いて見れば、眉に少し皺を寄せ不満気な様子のアルさん。
「そんなちみちみ雑魚いたぶってないでちゃっちゃとやってかえろうぜ」
「これが僕のバトルスタイルなんだけどねぇ」
「ふーん………めんどくせえ戦いかただな」
め ん ど く せ え 戦 い か ただって?。
「色々と効率考えたら今の僕にはこれが一番なんだよ馬鹿野郎」
「あぁん? 誰が馬鹿だって、おっと」
にたりとアルさんが笑った所で上から氷の塊を落とすが難なく避けられてしまった。
「チッ」
「ち、じゃねえよこら、もう日が沈んで夜になるぜ、もう俺飽きたから一緒に帰ろう」
「最後の奴が一番の理由でしょ」
「おう、で、雑魚が何かやってるぜ?」
「え?、ふぉっ」
アルさんに促されるまま後ろを見ればあの視界いっぱいに広がる大きな、離れた場所からでも熱く感じる火。
「……なんじゃこりゃ」
火の塊の下に目をむければ火の塊に向けて両手を上げて土色の顔をしている女の人がいた。
その様子を凝視していると息を絶え絶えの女性はにやりと笑う。
「ふ……ふふ、人を散々こけにしてくれたんだもの、これで全部全部……消し炭にしてやるわ………!!うふふ……ふ」
えぇぇ~~…………。
「あの人超怖いんですけど…………」
「ほれみろ」
女の人を見てアルさんに言えばアルさんは片方の眉を上げて笑う。
「お前が長々とやってたからだろうに………ちょっと下がってろ」
そして最後に低い声で言うと僕の前にアルさんが立った。
「さぁ 焼き尽くしてあげる!! 」
女の人が叫ぶと火の塊がゆっくりと、熱い熱波を放ちながらこちらに向かってくる。
そして彼女、リリーナは火の塊を放つと、その場に膝から崩れ落ちた。
…………やだわ
「大丈夫? 」
「任せとけ」
「ほんとにー? 」
「おうっ、お前は黙って見てろ」
得意気に首を鳴らすアルさんが心配になり離れた所にいるアイデンさんを見れば腕を組んで僕ににこりとしてるだけ。
「えぇ~? 」
疑心感たっぷりに視線を戻せばアルさんが得意気に笑い僕に親指を立てた。
「俺に惚れろよ? 」
あ、うん………。
「ガンバッテネ」
「おう、……頑張る程のことでもねえな」
喉を鳴らしにやりと笑ったアルさんは前を向くと、近くまで迫っていた火に向けて距離を詰めた。
目前まで接近したアルさんは飛び上がりながらくるりと回り、振り向き様片足をあげると火の塊に向かってサッカーボールを蹴るように蹴りを入れた。
僕がその様子に目を丸くしていると火の塊はあの質量に関わらず、ボールのように吹き飛び、空高く上に飛んでいくと、街全体を震わせながら大爆発を起こした。
「え? 」
何あれ、と言葉を漏らしていると、いつの間にか隣に歩いてきたアイデンさんが、自然な流れで僕の肩を抱き寄せ、頭を撫でた。
「ただの脳筋だ」
「なにそれ……」
「どうだラグーン、かっこよかっただろ? 」
面白そうに笑うアイデンさんに疑問の声を上げようとしたところで一仕事終えたとばかりにアルさんが戻ってきた。
「おかえりアルさっん!?」
おかえりと言おうとした所で突然腕を捕まれ、アルさんの懐に引っぱられる。
僕が声をあげる暇もなくも固い胸に頬が当たったかと思えばきつく抱き締められる。
なにこれとは思いながらも抜け出す気はないからされるがままになっていると、アルさんの口が耳元につく。
「おう、………ただいま」
「ふぉ!?」
間近で聞こえるアルさんの低い声に思わず変な声が出る。
「なあラグ、俺に惚れたか? 」
「えぇー……微妙」
「はは、そうかそうか………なあラグ」
「…………なに」
段々と弱くなっていくアルさんの声に返事を返した所でアルさんの腕の力が強くなり、抱きすくめられる。
「無事で良かった…………! 」
「…………!」
……初めて聞くアルさんの絞り出したように掠れた声。
そして僕を抱きしめる力が更に強くなるけど。
返す言葉が全く見つからなかったから、とりあえずアルさんの背中に腕を回し、抱き締め返しておいた。
あ、そうだ。
「ねえねえアルさん」
「なんだ? 」
「僕魔王らしかった? 」
「おう、かっこよかったぜ? 」
「なら良かった………アルさん」
「ん? 」
「アルさん汗臭い 」
「………今言うことかそれ? 」
「後アルさんお腹すいた、眠い」
「だから今の雰囲気で言うか? 普通」
「僕に普通を求めないでおくれ、アルさんばっちいから汗流して」
「ばっちい言うなし………」
ふ、と腕の拘束が解ける。
「ん? 」
「ラグはそのままでいてくれよ?」
「え? それって」
どういう意味、と見ようと顔を上げればアルさんの顔が間近に迫る。
そして身をひこうとした僕の頭を掴むと引き寄せられかさついた唇が重なる、そして反応するよりも早くぬるりとした舌が僕の口内に侵入して僕の舌を絡めとられ……うん、ディープキスやわ……。
息が苦しいとアルさんの胸を叩けば僕の腰に腕が回ってきつく抱き締められる、
余計悪化した。
「………ぷはっ」
漸く解放された時にはアルさんの腕の中でぐったりと動けない僕が完成する。
「さて、帰るか! 」
対して満足したもばかりに輝くアルさんに内心キレてる僕…………だけど。
「疲れたから運んでね…………」
「おう!」
もういいや。
「羨ましいぞお前ら………くっ!」
アイデンさんは黙ってようか。
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